猫ちゃんの異世界、旅日記。

椿姫哀翔

文字の大きさ
上 下
71 / 89
ロング帝国 ルーク

17話

しおりを挟む


お昼を少し過ぎた時間帯だったこともあって、席はまばらに空いていた。

「お好きな席どうぞ。」
「あぁ、ありがとう。」

ローガンは、ハルを連れて周りに人が居ない窓際の席に座った。

「さーて、なに食うかな…。」

メニューを持ってきたノエリアがオススメを教えてくれた。

「オススメは、今朝仕入れたオーク肉を甘辛く煮て作った丼ですね。」
「オーク肉?」
「はい。昨日の夜に来たギルドの職員さんが教えてくださったので、今朝、ギルドまで買いに行ったんです。」
「あぁ、昨日遅くまで解体してたな。」
「そうなんですね!」
「じゃ、それにするかな。ハルは?」
「ぼくも同じで良いです。アキちゃんも同じで。」
「了解。アキのは、少なめにしてもらうか?」
「そうですね、お願いします。」
「じゃあ、大盛り1つと普通盛り1つと小盛1つ頼む。」
「はい!飲み物は?」
「俺はまだ仕事残ってるから大丈夫だ。ハルは?」
「ぼくも大丈夫です。」
「分かりました。少々お待ちください。」

ノエリアが去ったあと、ローガンが真剣な顔で質問してきた。

「で、なんであんな道端で喧嘩沙汰になんかなったんだ?」
「なんで…?おじさんがぼくにぶつかってきて、尻もちついてるぼくに『痛えなぁ!』って言ってきたんです。」
「それでなんで喧嘩沙汰に?」
「ぼくが、ぶつかってきたのはそっちだって言ったら、怒ってぼくのほっぺた叩いたんです。」
「はあ?マジかよ!?」
「はい。」
「傷は?」
「治しました。」
「え、どうやって?」
「ヒールが使えるのでそれで。」
「そうか。」
「で、そのあとも口答えしたら、ぼくが勝って、おじさんが帰って行った感じですね。」
「そうか。分かった、ありがとう。また聞くかもしれねえけどとりあえず、大丈夫だろ。」
「そうですか。よかったです。
ひとつ聞いてもいいですか?」
「おう。なんだ?」
「ぼくの受け答えが嘘だと思ったりしないんですか?」
「しないさ。話し始める前にテーブルに気付かれないように置いた魔道具があるんだが、録音機と嘘発見器がくっついてるようなやつだからな。それが反応してなかったから大丈夫だ。」
「なるほど。」

「お待たせしましたー!」

タイミング良くノエリアが食事を運んできた。

「おぉ、美味そうな匂いがするな!」
「はい、美味しそうです。」
「にゃうー!」
「どうぞ、ごゆっくり。」

3人の目の前に置かれたどんぶりには、ご飯の上に光沢のあるタレがかかったオーク肉が2cm程の厚さに切られて7枚ほど乗っている。

「じゃあ、いただきます!」
「いただきます。」
「にゃう!」

ガツガツ

ゴックン

「うまぁー!ノエリア、これ、美味いぞ!特にタレが!」
「ふふっ、ありがとうございます。」

キッチンから顔を出してノエリアは大興奮しているローガンに笑いかけた。

モグモグ

コクン

「おいし…。」
「にゃん!」
「アキちゃんもおいしい?」
「にゃー!」
「よかったね。〔これ、アキちゃん作れる?〕」
〔多分、出来ると思うけど。〕
〔すごくおいしいからあとで作って。〕
〔分かった、分かった。今はそれ食べな。〕
〔うん!〕

10分程でローガンとハルは食べ終わった。

「ご馳走様。美味かった!」
「ごちそうさまでした。」
「美味かったなー、ハル?」
「はい、とてもおいしかったです。」
「ハル、またオーク倒したら肉、ギルドにおろしてくれよ。」
「もちろんです。こんなにおいしいのが食べられるのなら売ります。」
「頼んだぜ!」
「はい。」
「食後のデザートとして、ここの名物のアップルパイ頼もうと思うんだが、ハルも食うか?」
「はい、食べたいです。」
「そうか。俺が言っててなんだが、入るのか?」
「はい。全然大丈夫です。」
「そうか。アキは食うか?」
「にゃ?」

一心不乱に丼を食べてたアキに声を掛けたローガンだが、話しを聞いてなかったアキは、首を傾げてハルに視線を移した。

「ここの名物のアップルパイをローガンさんが頼むんだって、アキちゃんも食べる?」
「にゃぅ…〔お腹いっぱい。1口食べてみたいけど。〕」
「そっか、お腹いっぱいか、ぼくの1口あげるからそれでいい?」
「にゃん!」
「分かった。ローガンさん、ぼくの分1つお願いします。」
「あいよ。
ノエリアー。」
「はーい。」

キッチンに戻っていたノエリアにアップルパイと紅茶を頼んだ。

「ハルはさ、アキがなに喋ってるか分かるのか?」
「へ?」
「いや、『にゃー』とか鳴き声しかしないけどさ、2人で喋ってるように見えるから。」
「はい、分かりますよ。」
「そっか、ハルはテイム持ってたな。」
「はい。」
「アキをテイムしたのか?」
「それもありますけど、付き合い長いのでなんとなく分かります。」
「そうかー。」

喋ってるとノエリアがアップルパイと紅茶を持ってきてくれた。

「お待たせしました。」
「ありがとう。」
「ありがとうございます。」

ハルの皿に乗ったアップルパイは、ローガンの皿に乗ってるのより少し小さかった。しかし、バニラアイスが乗っていた。

「えっと、ノエリアさん?」
「はい?」
「このアイスは?」
「サービス。ハル君の分少し小さく切って、アキちゃん用にお皿別にしたからサービスでハル君にはアイストッピングしたのよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「アイス、溶けないうちに食べてね。」
「ありがとうございます。」

ノエリアは、ウインクをしながらハルに微笑み食べ終わった食器を持ってキッチンに戻って行った。

「よかったな。」
「はい。」

パクッ

「んー、おいしい。」
「ふは、」
「なんですか?」
「いや、会って2日だけど、笑顔なの初めて見たなと思ってな。いつも仏頂面だったからよ。なんか年相応の子供なんだなと思ってな。」
「はぁ…。」
「アキと話してる時は心を許してるからなのか笑顔だけどさ、俺らにはまだだっただろ。だから嬉しくてな。」
「そうですか。」
「あぁ。」

ローガンに微笑まれながらハルはアップルパイを黙々と食べた。

「ご馳走様。」
「ごちそうさまでした。」
「にゃうー」
「さて、戻るかー。ハルはこの後どうするんだ?」
「もう少し町を散策しようかと思ってます。」
「そうか。じゃあ行くか。」
「はい。」

ハルはアキを抱っこして先に行ってしまったローガンを追いかけた。

「ありがとうございましたー。」
「おう、またな!」
「はい。ハル君とアキちゃんもまた来てね!」
「はい。」
「ハル、行くぞー。」
「待ってください。」

お店の外で待ってるローガンに追い付いたハルは、

「ローガンさん、お金、」
「要らん。」
「しかし」
「俺が気分良く払ったんだからそんな言葉じゃなくて違う言葉が聞きてーな。」
「………、ローガンさん、ごちそうさまでした。ありがとうございます。」
「おう!」

ローガンは嬉しそうに笑ってギルドに戻って行った。

ハルは、そんな背中をぼんやりと見ていた。

(人と関わることをあまりしてこなかったんだろうから、どんな顔したら良いのか分からないんだろうな…。)

そんなハルをアキは微笑みながら見守っていた。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

とある中年男性の転生冒険記

うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

やさしい魔法と君のための物語。

雨色銀水
ファンタジー
これは森の魔法使いと子供の出会いから始まる、出会いと別れと再会の長い物語――。 ※第一部「君と過ごしたなもなき季節に」編あらすじ※ かつて罪を犯し、森に幽閉されていた魔法使いはある日、ひとりの子供を拾う。 ぼろぼろで小さな子供は、名前さえも持たず、ずっと長い間孤独に生きてきた。 孤独な魔法使いと幼い子供。二人は不器用ながらも少しずつ心の距離を縮めながら、絆を深めていく。 失ったものを埋めあうように、二人はいつしか家族のようなものになっていき――。 「ただ、抱きしめる。それだけのことができなかったんだ」 雪が溶けて、春が来たら。 また、出会えると信じている。 ※第二部「あなたに贈るシフソフィラ」編あらすじ※ 王国に仕える『魔法使い』は、ある日、宰相から一つの依頼を受ける。 魔法石の盗難事件――その事件の解決に向け、調査を始める魔法使いと騎士と弟子たち。 調査を続けていた魔法使いは、一つの結末にたどり着くのだが――。 「あなたが大好きですよ、誰よりもね」 結末の先に訪れる破滅と失われた絆。魔法使いはすべてを失い、物語はゼロに戻る。 ※第三部「魔法使いの掟とソフィラの願い」編あらすじ※ 魔法使いであった少年は罪を犯し、大切な人たちから離れて一つの村へとたどり着いていた。 そこで根を下ろし、時を過ごした少年は青年となり、ひとりの子供と出会う。 獣の耳としっぽを持つ、人ならざる姿の少女――幼い彼女を救うため、青年はかつての師と罪に向き合い、立ち向かっていく。 青年は自分の罪を乗り越え、先の未来をつかみ取れるのか――? 「生きる限り、忘れることなんかできない」 最後に訪れた再会は、奇跡のように涙を降らせる。 第四部「さよならを告げる風の彼方に」編 ヴィルヘルムと魔法使い、そしてかつての英雄『ギルベルト』に捧ぐ物語。 ※他サイトにも同時投稿しています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...