上 下
60 / 73
2章.授業を荒らして停学処分を受けた私は……

26.弟子と共に追手を巻きます。

しおりを挟む
「お、おい!いきなりどうした!?」
「いいから!今はこの場を離れるぞ!!」

 すると、後方から声がする。

「おい!居たぞ!!」
「待ちやがれ!」
「逃さんぞ!!」

 さっきの連中が追って来た。なんだ?テルマは追われてるのか?

「おい!テルマ!どういうことだ!?」
「話してる暇は……ない!」
「「「大人しくアレクの居場所を吐けぇ!」」」

 ……なるほど。向こうは私を探している様だな。

「唐突で悪いが、今はこの場かっ(ガツッ)…らっ!?」

 テルマは石に躓いて転けかける。

「しめた!」
「よっしゃあっ!!」
「観念しやがれ!」
「(グィッガシッ)よっ(グィッ)と(ダダダダダダッ)」
「「「なっ!?」」」

 転けかけたテルマを背負って走る。

「背負いやがった!?」
「そんなのありかよ!!」
「どんな身体能力してやがる!!?」
「えっ?あっ!?」

 だが、テルマ自身が1番驚いていた。

「(ダダダダダダッ)事情はよくわからないが、あいつらを巻けば良いんだよな?」
「あっ…ああ、そうだ!」

 やれやれ、見事に面倒ごとに巻き込まれたな。

「出来れば誰に追われているか知りたい。教えてくれ。あいつらは何者だ?何があった?」
「……いいか、よく聞け。あいつらはヘルデス家からの刺客……お前を血眼で探してる連中だ。」
「へ?」

 ヘルデスって確か………マスルーツに並ぶ大貴族だよな?

「ヘルデス家が……私を?何故だ?」
「説明は後だ!ここで聞かれると面倒な事になる。一刻も早く巻いてくれ!!」
「あ…あぁ、わかった。」

 しかし、追っ手達が早くて中々巻けない。このままだと埒が明かないな。なら………

「歯ぁ食い縛れ!」
「えっ!?」
「舌噛むから歯ぁ食い縛れ!早く!」
「わ、わかった!(がちっ)」
「(ギュゥンッ)一気に飛ばすぞ!!(ブォンッ)」
「い゛っ!?」
「(ズッドォォォォッ!!)」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!?」

 そうして遥か彼方へと走り抜けた。

「「「…………」」」

 追手は呆然と立ち尽くすばかりだった。

「………なんて報告する?これ。」
「普通に逃げられたって伝えよう。」
「あぁ……誰も信じやしないだろうからな。」


***


「(バタン)……ふぅ。尾行はされてないな?」
「………出来ると……思うか?」

 適当な空き小屋に入った。

「それで?どういう事だ?」
「……待って、もう少しだけ。」

 さっきの急加速で腰が抜けたらしい。失神しなかっただけマシだと思うがな。

「……ふぅ、もう大丈夫だ。」

 結構タフな奴だった。中々に侮れないな。

「それで?何故あいつらは私を探してるんだ?」
「それが……ちょっとややこしいし長くなる。時系列で話して良いか?」
「頼む。」
「まず、雨の日にお前と会うまでの経緯からだ。……マサール・ヘルデスって知ってるか?」
「マサールさん?それなら……ヘルデス?」
「やっぱり知らなかったか。お前が薬慈院で世話をしていたマサール爺さんは、ヘルデス家の前当主だよ。」
「…………」

 マジかよ。どこかの貴族みたいだとは思ってたけど、そんな大物だったとは。

「…て、あれ?何故お前が知ってるんだ?」
「あぁ、屋敷で看護してたのは俺だからな。」
「お前が?何故?」
「爺さんのリクエストだ。爺さんとは結構長い付き合いでな。実家を追い出された俺を屋敷に匿ってくれたんだ。何もせずに世話になるのも悪いし、親族もあまり関わりたがらなかったみたいだから俺が爺さんの身の回りの世話をしてたんだ。」
「そうだったのか。」

 何というか……今まで何故気づかなかったんだろうな。

「……ん?ちょっと待て。お前確か世話になってた爺さんが死んだって……」
「そうだ。俺の言ってた爺さんってのは、マサール爺さんの事だ。」
「………そうか。」

 そう長くはないとわかっていた。覚悟も出来ていた。だが、非常に残念でならない。

「まさか、お前と面識があるとは思わなかったんだ。黙ってて、本当にすまなかった。」
「……いいや、仕方ないよ。私も秘密にしてたからな。それで、葬式はいつだ?」
「葬式はつい昨日終わった。」
「………それは、きついな。」

 せめて葬式ぐらいは立ち会いたかった。

「お前は立ち会えたのか?」
「もちろん。なんなら、今際の際からずっと見届けたよ。」

 テルマは淡々と語りだす。

「で、葬式の後に俺は屋敷を追い出された。住処を失って途方に暮れていた所を、お前に拾われたってわけだ。」
「なるほど。」

 あの日、そんな事があったのか。だが、どうしても気がかりな事がある。

「マサールさんは最後、どうだった?苦しんだりしてなかったか?」
「………ふふっ」
「どうした?」
「苦しむどころか、遊び疲れた子供みたいに安らかなもんだったよ。思い残す事は何もないって感じでな。」
「そうか……よかった。」

 あの薬のメモが役に立ったなら本望だ。

「それでだな。」
「ちょっと待った。」

 小屋の外に数人。追手だろうか?耳を済ませてみる。

「おい、テルマが逃げたんだってよ。」
「マジか。て事は、俺たちで捕まえるチャンスじゃねぇか。」
「あぁ、いるかどうかわかんねぇエディ探しよりよっぽど楽そうだな。」
「バカ。テルマを見つけても捕まえずに尾行すれば、聞き出すまでもなくアレクを捕まえられるだろうが。」
「「なるほど。」」

 小屋の外からそんな会話が聞こえて来た。

「………続きは屋敷で良いか?」
「……………わかった。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

闇属性転移者の冒険録

三日月新
ファンタジー
異世界に召喚された影山武(タケル)は、素敵な冒険が始まる予感がしていた。 ところが、闇属性だからと強制転移されてしまう。 頼れる者がいない異世界で、タケルは元冒険者に助けられる。生き方と戦い方を教わると、ついに彼の冒険が始まる。 強力な魔物や冒険者と死闘を繰り広げながら、タケルはSランク冒険者を目指す。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

無限の成長 ~虐げられし少年、貴族を蹴散らし頂点へ~

りおまる
ファンタジー
主人公アレクシスは、異世界の中でも最も冷酷な貴族社会で生まれた平民の少年。幼少の頃から、力なき者は搾取される世界で虐げられ、貴族たちにとっては単なる「道具」として扱われていた。ある日、彼は突如として『無限成長』という異世界最強のスキルに目覚める。このスキルは、どんなことにも限界なく成長できる能力であり、戦闘、魔法、知識、そして社会的な地位ですらも無限に高めることが可能だった。 貴族に抑圧され、常に見下されていたアレクシスは、この力を使って社会の底辺から抜け出し、支配層である貴族たちを打ち破ることを決意する。そして、無限の成長力で貴族たちを次々と出し抜き、復讐と成り上がりの道を歩む。やがて彼は、貴族社会の頂点に立つ。

処理中です...