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1章.薬師の名門ブレルスクに入学した私は…

22.最後の日まで通います。

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 退学予告されて6日目。登校した私は、掲示板で呼び出しを受けていた。

「…………」

 ここは理事長室。正面に居るのはこの学園の理事長代理。

 肩書きに代理と着いてはいるが、実質的なこの学園のトップであり、マスルーツ家の当主補佐役の一人でもある。

 要するに、この骨の髄まで腐った状況を作り上げ、増長することに加担した元凶バカという事だ。

「まず、君が何故ここに呼ばれたか、理由はわかっているかね?」

 やはり、ツァリアリを縛って放置した事だろうか。

 ああいう男が、自分の醜態を口外するとは思えないが……考えが甘かったかな。

 とにかく、どんな理由であろうと貴族に危害を加えたのだから、こうして呼び出されるのは当然だろう。場合によっては明日を待たずしてこの場で退学を言い渡されるかもしれない。それは寧ろ望む所だが、テルマにまで飛び火するのは避けたい。

 そうなると、うまく話を誘導して責任の所在を私に向けないとならないな。

 間違っても、テルマの名が出る事がない様に気を付けなければ。

 当然、テルマを庇っていると悟られるのも御法度だ。

 そうなると、まずはシラを切ってみるとするかな。

「いいえ、さっぱりわかりません。」
「……白々しい。君がやった事がとんでもない違法行為であった自覚はあるのかね?全く、教員に対して生徒があんな……」

 ……教員?

「……あの、何の事を言ってるんですか?」
「とぼけるな。先週の授業ジャックの話だ。」
「先週……」

 先週の話を今するのか?だとしたら、対応が遅すぎる。

 ……もしかして、教員達が退学までの期間を1週間より速められなかった理由って、理事長(代理)の対応が遅すぎて1週間以内に話が進まないから?

 ……いや、そんな事は今はどうでも良い事だ。

「単刀直入に聞く。教員に代わって講義をしたというのは事実か?」
「いえいえ、講義なんて大層なものではありませんよ。そもそも、講義とは教員の資格を有する……」
「屁理屈はいい。教壇に立って他の生徒に教えたのだろう?」
「…えぇ、まぁ………教えました。」
「何故、そんな事をしたのかね?」

 さて、少し想定とは違うが、ここが退学云々の決め手とはなる事は確かだろう。ならば、ここは嘘偽りなく話すとしよう。

「はい。端的に申しますと、かの教員に強い憤りを感じたからです。」
「なに?」
「厳密には、かの教員が大した理解もしていない状態で既知を装った態度が許せなかったのです。知らない事を知っているふりをする。これは嘘をつく事と同義です。教員教える側にあるまじき愚行だと思いませんか?」
「だから、授業を乗っ取ったと?」
「いいえ、私は乗っ取りなんてしていません。ただ間違いを指摘しただけですよ。」
「では、何故そこから君が授業をする話になるのだね?」
「代講を頼まれたんですよ。『そこまで言うならやってみろ』と。私も最初は戸惑いました。いきなり授業をしろと言い出したのですから。」
「つまり、あくまでも仕方なく授業をしたと?」
「はい、そうです。」
「では、何故教員を追い出した?」
「……何か誤解がある様ですが、私は追い出したりなんてしてません。あの教員が勝手に出て行ったのです。」
「同じ事だ。しかも、その後も君は教壇で他の生徒に講義の続きをしたらしいじゃぁないか?」
「だから、講義なんて大層なものはしてませんよ。ただ、教員が戻って来るまで授業の予習と復習をみんなとしてただけです。教員が来れば、直ぐに授業に戻るつもりでしたよ?」
「なるほど……では、続けて答えて貰おうか。君はその後の1週間、他の教員達に対しても同じ様な事を繰り返して来たそうじゃないか?これは事実か?」

 一応認知されていたのか。行動が遅いだけで耳は早い方なのかな。……いや、それはないか。ツァリアリの話が出てくる様子がないもんな。まぁ、眼中に無い可能性もあるけど。だとすればあまりに滑稽だ、ツァリアリ。

「えぇ、お陰で同級生からは『先生』なんて呼ばれてしまっていますよ。」
「何故そんな事をしでかした?」

 さっきと同じ問いが来た。

 本当は、授業を放棄して勧誘してきたから撃退したんだけど、こう言っておくか。

「そんなの決まってます。他の教員達にも同様の憤りを抱いていたからです。」
「なに?」
「誰も彼もが教員としては問題がありました。故にその問題点を指摘しました。
「つまり、全ての授業で教員達の過ちを指摘したという事か?」
「えぇ、そうなりますね。」
「なるほどなるほど……(バンッ!!)その行いが!我々の品位を貶めたとは思わないのか!」

 さっきの落ち着いた様子とは一変して怒鳴り散らして来た。豹変振りが鮮やかだな。

「貴様のせいで!教員達がどんな日々を過ごしているか!考えた事はあるかっ!!自らの行動が!我が学園を侮辱したとは思わないのかっ!!」
「思いません。あくまで私は、浮き彫りにしただけです。それでどんな目に遭おうと、完全な自業自得ではありませんか。そもそも、生徒に指摘される教員側に問題があるのでは?」
「……なに?」
「かの教員…ベルモンドは、自己研鑽を怠けた結果、自らの過ちを10年間王都に流布した。ダルガンは、偉人達の栄誉をかさどるばかりで何も功績をあげず、あまつさえ自分が功績をあげたつもりになって何も努力しなかった。あるものは己の能力に慢心し、あるものは学園の運用資金に手をつけ、あるものは聞くに耐えない言動で周囲に醜態を流布した。いずれあなた方の顔に泥を塗ると知っていながら、誰も彼もが自己研鑽をすることなく怠惰に時間を貪るばかりだった。その結果として、今回あなた方の品位にヒビを入れたんです。どう言い繕っても、それが変わらない事実なんです。あなたは、その事実から目を逸らすのですか?」
「っ………」
「それだけじゃありません。生徒間で囁かれている噂に、どんなものがあるかご存知でしょうか?私はその噂を元に、今回の教員達の問題を浮き彫りにしました。」

 そう。学生にすら気取られる程教員達馬鹿共の言動は露骨だったという事だ。

「もちろん、お気付きでしたよね?バイトと勉学の両立で忙しい私にすら出来たのですから。」
「………」

 そんな訳ないな。出来ていれば、こんな事態には陥ってない筈なのだから。

「つまり、遅かれ早かれこの事態は起こり得たのです。それが、たまたま今回だっただけなんですよ。」
「………」   
「私の話を信じるかどうかは皆さんにお任せします。しかし、どんな経緯があろうと教員達馬鹿共が授業中に教室を抜け出した事は事実です。どんなに取り繕うとも、一介の学生に自身の任された仕事を押し付けた……自らの任せられた仕事を途中で放り出した事実は変わりません。」
「………」
「そんな彼らの味方をするおつもりなら、勝手にどうぞ。私は、停学なり退学なりあなた方のお気が済むように罰を受けましょう。」

 出来れば、このまま退学にしてくれればありがたい。

「ただ、一つだけ言わせてもらいます。私の行動は、私が正しいと思ったから行ったのです。後悔はありません。だから、自主退学の勧告は無駄だと思ってくださいね?」

 念押しすれば、いけそうだ。

「…もう良い。下がれ。」
「はい。失礼いたしました。」

 よし、これで退学は間違いないな。

「(バタン)……ふぅ。」
「お疲れ。どうだった?」
「先週、アイツが職務放棄した事について聞かれた。詳しくは教室で話すよ。」
「そうか……わかった。」

 少なくとも、これでヘイトは私に向かうよな。さっさと教室に戻って授業の続きを始めよう。

 今日こそは、カンナさん来てるかな?

 そんな事を考えながら、理事長室を後にした。
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