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2.衝撃と出会い
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〈キキーッ〉
「ついたぜ。何とか間に合ったようだな。」
驚いた。
まさか検問の人達が素通りさせてくれるとは。
それどころか、街の人達も道を開けてくれた。
しかも笑顔で。
「カーボ、ごめんな?無理させちまったか?」
“「ヒヒーンブルブルブル」“
「まだまだ走り足りない?はっはっ!やっぱりお前は最高だ!」
“「(ペロペロペロ)」“
「ははっ、よしよし。(なでなで)」
まぁ、何となく理由はわかるな。
とにかく、お陰で入学式開始までだいぶ余裕が出来た。
「すみません。わざわざ学園の前まで送って貰っちゃって。」
「良いって事よ。それより、さっきの道順は覚えたか?買い物に行くときはさっきの道を使え。最短かつ比較的安全なルートだ。」
最短なのはともかく、安全なのはこのおじさんのおかげなんだろうな。
「本当に何から何までお世話になりました。今、料金を…」
「おいおい、何言ってんだ?今日はめでたい日だろ?金なんて取らねぇよ。」
「えっ?いいんですか?」
「もちろんだ。(ニカッ)」
御者のおじさんは、笑って答えてくれた。
「じゃ!勉強頑張れよあんちゃん!!」
「はいっ、ありがとうございました!」
「いくぜカーボ!風に成れ!!」
“「ヒヒーンッ(パカラッパカラッパカラッ)」“
あっという間に馬車が遠のいて行く。
スピード狂なのかな?
「……」
今度帰省する時も世話になろう。
そして今度は、ちゃんと払おう。払いそびれた分も上乗せして。
「……さてと」
向き直ると、目前には聳え立つ古城風の建物。
ここが今日から俺が通う学園か。
「………」
いざ目の前にすると、
やっぱり怖気付いてしまいそうだ。
「……っ!(パンッパンッ)」
自身の頬を叩き、喝を入れる。
日和っている場合じゃない。
俺は、ここへ何をしに来た?
せっかく合格したんだから、なってやろうじゃないか、薬師に。
「………(テクテクテクテク)」
そうして俺は、門を潜る。
「(ピタッ)っ!!」
門を潜った俺を最初に出迎えてくれたのは…
《(サワァァァァァァァッ)サラサラサラ…》
淡いピンクの雨だった。
「……凄いな。」
ピンクの雨を降らせていたのは、門から続く道沿いに生える焦げたブラウンの木。
その枝先には、幹の色とはまるで対局的な淡いピンクの花が咲き乱れ、風が吹く度はなびらを散らしている。
この花は、毎年この時期になると満開になるらしい。
帝都に伝わる逸話によると、王都建国時に遠い所から持ち込まれた一つの苗木が増えたものだとか。
「……まさかな(テクテクテクテク)」
にわかには信じがたい話だ。多少は話を盛っているんだろう。
こんなに綺麗なんだから、話を盛る必要はないだろうに……と、そんな事を考えながら並木道を渡る。
確かこの先に案内板があるはずだ。
「えっと…あぁ、あれか………ん?」
「(キョロキョロッキョロキョロッ)……あっれぇ?」
並木道を超えた先には案内板と、案内板に背を向ける様にして地図を片手に辺りを見渡す少年がいた。
……どういう状況だ?見たところ、俺と同じ新入生の様だが。
「(タッタッタッタッ)おい、どうしたんだ?」
「ん?…あっ!丁度良いところに!!お前さ、ブレルスク学園ってどこかわかるか?」
「(ピタッ)……え?」
「迷ってんだ。今日は入学式だから遅刻しない様に早めに出たんだが、どうしてもわかんねえんだよ。」
こいつ、何言ってんだ?
「頼む!知っているなら教えてくれ!」
「いや、どこも何も…ここがそのブレルスク学園だろ?」
「へ?」
「あと、入学式の会場ならそこの案内板を見ればわかるだろ?」
「案内板?(クルッ)……あれ!?何でここに!?」
「……」
こいつの視野が狭いのは、焦ってるからか?
それとも素か?
「(ガシッ)ありがとう!!(ブンブンッ…パッ)じゃあ、またな!(ダダダダッ)」
そう言い残すと一目散に走り去って行き、既に見えなくなっていた。
「……忙しない奴。」
案内板の前で道に迷うなんて、ある意味器用な奴だ。
入学早々のネタ作りか?
ま、どっちでも良いか。俺も早いとこ行こう。てか……
「(トコトコ)…別に走らなくても、この時間なら間に合うだろ。」
ここから会場まではほぼ一本道なんだから、そんな急がなくても
「わぁっとっとっとっとっ!?」
「(ゴッ)ぬあっ?!(ドシャアッ) へぶっ!!」
後ろから誰かが突っ込んできて前に倒れ込んだ。
「……いってて……」
聞き覚えのある声がする。
それも、ついさっき聞いたばかりの鮮明なやつだ。
いや、そんな筈はない。そんな筈は…
「あっ!すっ…すまねぇ!!急いでいて(スクッ)大丈夫か…って、あれ?なんでここに居るんだ!?」
「………」
それはこっちのセリフだ。
何故だ?
さっき見送った筈のこいつが、何故ここに居る?
俺は数歩しか歩いてねぇ。
「あっ、それより怪我ないか?(スッ)」
「(ガシッ)……大丈夫だ。(スクッ)」
幸い、受け身が間に合ったから問題ない。
「本当に大丈夫か?」
「あぁ、大した怪我もしてないから気にすんな。」
「そうか(パッ)……じゃっ、またな!(ダダダダッ)」
そう言って、一目散に走り去っていった。
「……(パラッパラッパラッ)なんだったんだ?」
服についた砂を払いながら呟く。
「わぁっとっとっとっとっ!?」
「(ゴッ)んがっ?!(ドシャアッ) へぶっ!!」
再び後ろから何かが突っ込んできて前に倒れ込んだ。
「……いってて……」
聞き覚えのある声がする。
こういうのを、デジャヴっていうんだっけな。
「あっ!すっ…すまねぇ!!(ムクッ)先を急いでて…って、あれ!?何でここに!?」
あいつだ。
「怪我はないか?(スッ)」
さっきも聞いたな。
このやりとり、2回目だな。
「(ガシッ)……大丈夫だけど(スクッ)お前…」
「(パッ)ほんとすまねぇ!じゃっ急いでるからまたな!(ダダダッ)」
「あっ…待て!!」
こちらが静止をする前に、既に見えなくなっていた。
「……話ぐらい聞けよ。」
「わぁっとっとっとっとっ!?」
「させるかっ!!(ガシッグィッ)」
「ぬあっ!?」
すかさず、技をかけて前方に投げる。
「…三度目は同じじゃねぇよ。」
さっきから受け身ばかりだったからな。
今度はこちらから技を掛けることにした。
「(クィッ)」
「っ!!(ピタッ)」
…と、同時にこちらへ引っ張って止める。
「……ぇ……え?」
技を掛けた相手は、疑問符を浮かべて前のめりで静止した。
「(グイッ)大丈夫か?」
「……あぁ(ストッ)何とか。」
手を掴んで引っ張り上げる。さっきとは逆の構図だ。
「ごめんな?3回目だから、流石に投げちまった。」
「………仕方ねぇよ。悪いのは俺だし。」
怪我がない様で良かった。まぁ、怪我しない様に投げたわけだが。
「じゃっ、急いでるから…」
「(グィッ)待て。待て待て待て。」
まだ手は掴んだままだ。そう何度もタックルされてたまるかよ。
「な、なんだ?」
「『なんだ?』じゃねぇよ。どうして毎度毎度後ろから突っ込んで来るんだよ。会場までは、ほぼ一本道だよな?」
悪質な嫌がらせか?
そもそも、私に何か恨みでもあんのか?
初対面の筈だよな?
「……わからねぇ。まっすぐ走ってった筈なのに、気付いたらここに戻って来てたんだ。」
「………」
嘘をついている様には見えない。悪い奴じゃない事もなんとなくわかる。
そもそも、やろうとして出来る様な芸当じゃない。
けど、不可解だ。
この事象は、全くもって不可解としか言いようがない。
この道……ちゃんと会場に続いてるんだよな?
「(パッ)そもそもお前さ、なんでそんなに急いでんの?」
「いや……実はおれ、極度の方向音痴らしいんだ。自分では方向感覚がおかしいつもりはないんだけどなぁ?」
そりゃそうだろう。俺も、あれは方向感覚以前の問題な気がする。
「だからいつも、なるべく早く出発して走って……今朝だって、朝5時に出発してこのザマだ。」
「ごじっ…!?」
それは果たして、極度って言葉で片付けられるレベルなのだろうか。
「けど……そうだよな。だからって人に怪我させたりするのは…ダメだよな。………今度は、ちゃんと歩いてくよ。」
そうして貰えるとありがたい。
「じゃあ…俺行くわ。……本当に…すまなかった。(トボトボトボトボ)」
そう言って、今度は歩いて行く。
全く、人騒がせな…
「待て。」
「(ピタッ)……なんだ?」
「お前、何でそこまでして入学式に出たいんだ?」
参加するったって、せいぜいが数十人のうちの1人だ。そんな特別感があるとは思えない。
ましてや、貴族の学校だ。疎外感で息苦しくなるだけだろう。
そこまでして出たい、こいつの理由ってなんだ?
「さぁ……何でだろうな?」
「…は?」
「あいにく、理由はまだわからない。てか、今は理由をはっきりさせる必要がないと思ってる。」
「……どういう意味だ?」
「俺は『理由があるから』行動するわけじゃねぇんだよ。」
「??」
「俺は、『やりたいから』行動するんだよ。」
「………」
ますますわからないな。
「俺が本心からそうしたいんだ。だから、その行動には必ず何か理由がある。俺自身が気が付いてない様な理由が必ずある筈なんだ。だが、理由を探してたらチャンスを逃しちまう。『思い立ったが吉日』って言うだろ?やりたいかどうか。そこが俺にとっては大切なんだよ。」
「…あぁ……そういう事か。」
「だから、俺は俺の心の赴くままに、やりたいかどうかで行動してる。ただそれだけだ。」
……なるほど。やりたいかどうか…か。
「……まぁ、迷っちまってそれが出来ないんだけどな。」
「なら、一緒に行こう。」
「……え?」
「俺が引率すれば、迷わないだろ?」
「えっ!?ちょっ…ちょっと待て!!」
「何だ?」
「それは流石に悪いよ。色々迷惑掛けたし………」
「俺は気にしてない。」
「だが、俺と一緒に行って迷って授業にも遅刻なんてしたら…」
「そん時は一緒に謝る。『遅刻してすみませんでした』ってな。」
「……何で、そこまでしてくれるんだ?」
「さぁな。(トコトコトコ)俺も理由はわからねぇ。……………けど、そうだなぁ。強いて言えば(ピタッ)」
「そうしたいから……かな?」
「!」
「(クルッ)そんなことより、早く行こうぜ。まだ遅刻したわけじゃないだろ?」
「あ………ああ!!(ダダッ)」
何だか、ウジウジ悩んでた自分が馬鹿みたいだな。
理由や計画が無くても、ただやりたいと思えば目標は決められるし、目指す事も出来る。
そもそも、やりたいって気持ち自体が充分な理由だ。
学園に通う理由だなんだは後回しだ。
やっていけるかどうかも後回しだ。
ただ飛び込んで、ひたすら突き進めば良い。
それだけだ。
そうして、新たに出来た友人と共に俺は、本当の意味で歩み始めた。
「ついたぜ。何とか間に合ったようだな。」
驚いた。
まさか検問の人達が素通りさせてくれるとは。
それどころか、街の人達も道を開けてくれた。
しかも笑顔で。
「カーボ、ごめんな?無理させちまったか?」
“「ヒヒーンブルブルブル」“
「まだまだ走り足りない?はっはっ!やっぱりお前は最高だ!」
“「(ペロペロペロ)」“
「ははっ、よしよし。(なでなで)」
まぁ、何となく理由はわかるな。
とにかく、お陰で入学式開始までだいぶ余裕が出来た。
「すみません。わざわざ学園の前まで送って貰っちゃって。」
「良いって事よ。それより、さっきの道順は覚えたか?買い物に行くときはさっきの道を使え。最短かつ比較的安全なルートだ。」
最短なのはともかく、安全なのはこのおじさんのおかげなんだろうな。
「本当に何から何までお世話になりました。今、料金を…」
「おいおい、何言ってんだ?今日はめでたい日だろ?金なんて取らねぇよ。」
「えっ?いいんですか?」
「もちろんだ。(ニカッ)」
御者のおじさんは、笑って答えてくれた。
「じゃ!勉強頑張れよあんちゃん!!」
「はいっ、ありがとうございました!」
「いくぜカーボ!風に成れ!!」
“「ヒヒーンッ(パカラッパカラッパカラッ)」“
あっという間に馬車が遠のいて行く。
スピード狂なのかな?
「……」
今度帰省する時も世話になろう。
そして今度は、ちゃんと払おう。払いそびれた分も上乗せして。
「……さてと」
向き直ると、目前には聳え立つ古城風の建物。
ここが今日から俺が通う学園か。
「………」
いざ目の前にすると、
やっぱり怖気付いてしまいそうだ。
「……っ!(パンッパンッ)」
自身の頬を叩き、喝を入れる。
日和っている場合じゃない。
俺は、ここへ何をしに来た?
せっかく合格したんだから、なってやろうじゃないか、薬師に。
「………(テクテクテクテク)」
そうして俺は、門を潜る。
「(ピタッ)っ!!」
門を潜った俺を最初に出迎えてくれたのは…
《(サワァァァァァァァッ)サラサラサラ…》
淡いピンクの雨だった。
「……凄いな。」
ピンクの雨を降らせていたのは、門から続く道沿いに生える焦げたブラウンの木。
その枝先には、幹の色とはまるで対局的な淡いピンクの花が咲き乱れ、風が吹く度はなびらを散らしている。
この花は、毎年この時期になると満開になるらしい。
帝都に伝わる逸話によると、王都建国時に遠い所から持ち込まれた一つの苗木が増えたものだとか。
「……まさかな(テクテクテクテク)」
にわかには信じがたい話だ。多少は話を盛っているんだろう。
こんなに綺麗なんだから、話を盛る必要はないだろうに……と、そんな事を考えながら並木道を渡る。
確かこの先に案内板があるはずだ。
「えっと…あぁ、あれか………ん?」
「(キョロキョロッキョロキョロッ)……あっれぇ?」
並木道を超えた先には案内板と、案内板に背を向ける様にして地図を片手に辺りを見渡す少年がいた。
……どういう状況だ?見たところ、俺と同じ新入生の様だが。
「(タッタッタッタッ)おい、どうしたんだ?」
「ん?…あっ!丁度良いところに!!お前さ、ブレルスク学園ってどこかわかるか?」
「(ピタッ)……え?」
「迷ってんだ。今日は入学式だから遅刻しない様に早めに出たんだが、どうしてもわかんねえんだよ。」
こいつ、何言ってんだ?
「頼む!知っているなら教えてくれ!」
「いや、どこも何も…ここがそのブレルスク学園だろ?」
「へ?」
「あと、入学式の会場ならそこの案内板を見ればわかるだろ?」
「案内板?(クルッ)……あれ!?何でここに!?」
「……」
こいつの視野が狭いのは、焦ってるからか?
それとも素か?
「(ガシッ)ありがとう!!(ブンブンッ…パッ)じゃあ、またな!(ダダダダッ)」
そう言い残すと一目散に走り去って行き、既に見えなくなっていた。
「……忙しない奴。」
案内板の前で道に迷うなんて、ある意味器用な奴だ。
入学早々のネタ作りか?
ま、どっちでも良いか。俺も早いとこ行こう。てか……
「(トコトコ)…別に走らなくても、この時間なら間に合うだろ。」
ここから会場まではほぼ一本道なんだから、そんな急がなくても
「わぁっとっとっとっとっ!?」
「(ゴッ)ぬあっ?!(ドシャアッ) へぶっ!!」
後ろから誰かが突っ込んできて前に倒れ込んだ。
「……いってて……」
聞き覚えのある声がする。
それも、ついさっき聞いたばかりの鮮明なやつだ。
いや、そんな筈はない。そんな筈は…
「あっ!すっ…すまねぇ!!急いでいて(スクッ)大丈夫か…って、あれ?なんでここに居るんだ!?」
「………」
それはこっちのセリフだ。
何故だ?
さっき見送った筈のこいつが、何故ここに居る?
俺は数歩しか歩いてねぇ。
「あっ、それより怪我ないか?(スッ)」
「(ガシッ)……大丈夫だ。(スクッ)」
幸い、受け身が間に合ったから問題ない。
「本当に大丈夫か?」
「あぁ、大した怪我もしてないから気にすんな。」
「そうか(パッ)……じゃっ、またな!(ダダダダッ)」
そう言って、一目散に走り去っていった。
「……(パラッパラッパラッ)なんだったんだ?」
服についた砂を払いながら呟く。
「わぁっとっとっとっとっ!?」
「(ゴッ)んがっ?!(ドシャアッ) へぶっ!!」
再び後ろから何かが突っ込んできて前に倒れ込んだ。
「……いってて……」
聞き覚えのある声がする。
こういうのを、デジャヴっていうんだっけな。
「あっ!すっ…すまねぇ!!(ムクッ)先を急いでて…って、あれ!?何でここに!?」
あいつだ。
「怪我はないか?(スッ)」
さっきも聞いたな。
このやりとり、2回目だな。
「(ガシッ)……大丈夫だけど(スクッ)お前…」
「(パッ)ほんとすまねぇ!じゃっ急いでるからまたな!(ダダダッ)」
「あっ…待て!!」
こちらが静止をする前に、既に見えなくなっていた。
「……話ぐらい聞けよ。」
「わぁっとっとっとっとっ!?」
「させるかっ!!(ガシッグィッ)」
「ぬあっ!?」
すかさず、技をかけて前方に投げる。
「…三度目は同じじゃねぇよ。」
さっきから受け身ばかりだったからな。
今度はこちらから技を掛けることにした。
「(クィッ)」
「っ!!(ピタッ)」
…と、同時にこちらへ引っ張って止める。
「……ぇ……え?」
技を掛けた相手は、疑問符を浮かべて前のめりで静止した。
「(グイッ)大丈夫か?」
「……あぁ(ストッ)何とか。」
手を掴んで引っ張り上げる。さっきとは逆の構図だ。
「ごめんな?3回目だから、流石に投げちまった。」
「………仕方ねぇよ。悪いのは俺だし。」
怪我がない様で良かった。まぁ、怪我しない様に投げたわけだが。
「じゃっ、急いでるから…」
「(グィッ)待て。待て待て待て。」
まだ手は掴んだままだ。そう何度もタックルされてたまるかよ。
「な、なんだ?」
「『なんだ?』じゃねぇよ。どうして毎度毎度後ろから突っ込んで来るんだよ。会場までは、ほぼ一本道だよな?」
悪質な嫌がらせか?
そもそも、私に何か恨みでもあんのか?
初対面の筈だよな?
「……わからねぇ。まっすぐ走ってった筈なのに、気付いたらここに戻って来てたんだ。」
「………」
嘘をついている様には見えない。悪い奴じゃない事もなんとなくわかる。
そもそも、やろうとして出来る様な芸当じゃない。
けど、不可解だ。
この事象は、全くもって不可解としか言いようがない。
この道……ちゃんと会場に続いてるんだよな?
「(パッ)そもそもお前さ、なんでそんなに急いでんの?」
「いや……実はおれ、極度の方向音痴らしいんだ。自分では方向感覚がおかしいつもりはないんだけどなぁ?」
そりゃそうだろう。俺も、あれは方向感覚以前の問題な気がする。
「だからいつも、なるべく早く出発して走って……今朝だって、朝5時に出発してこのザマだ。」
「ごじっ…!?」
それは果たして、極度って言葉で片付けられるレベルなのだろうか。
「けど……そうだよな。だからって人に怪我させたりするのは…ダメだよな。………今度は、ちゃんと歩いてくよ。」
そうして貰えるとありがたい。
「じゃあ…俺行くわ。……本当に…すまなかった。(トボトボトボトボ)」
そう言って、今度は歩いて行く。
全く、人騒がせな…
「待て。」
「(ピタッ)……なんだ?」
「お前、何でそこまでして入学式に出たいんだ?」
参加するったって、せいぜいが数十人のうちの1人だ。そんな特別感があるとは思えない。
ましてや、貴族の学校だ。疎外感で息苦しくなるだけだろう。
そこまでして出たい、こいつの理由ってなんだ?
「さぁ……何でだろうな?」
「…は?」
「あいにく、理由はまだわからない。てか、今は理由をはっきりさせる必要がないと思ってる。」
「……どういう意味だ?」
「俺は『理由があるから』行動するわけじゃねぇんだよ。」
「??」
「俺は、『やりたいから』行動するんだよ。」
「………」
ますますわからないな。
「俺が本心からそうしたいんだ。だから、その行動には必ず何か理由がある。俺自身が気が付いてない様な理由が必ずある筈なんだ。だが、理由を探してたらチャンスを逃しちまう。『思い立ったが吉日』って言うだろ?やりたいかどうか。そこが俺にとっては大切なんだよ。」
「…あぁ……そういう事か。」
「だから、俺は俺の心の赴くままに、やりたいかどうかで行動してる。ただそれだけだ。」
……なるほど。やりたいかどうか…か。
「……まぁ、迷っちまってそれが出来ないんだけどな。」
「なら、一緒に行こう。」
「……え?」
「俺が引率すれば、迷わないだろ?」
「えっ!?ちょっ…ちょっと待て!!」
「何だ?」
「それは流石に悪いよ。色々迷惑掛けたし………」
「俺は気にしてない。」
「だが、俺と一緒に行って迷って授業にも遅刻なんてしたら…」
「そん時は一緒に謝る。『遅刻してすみませんでした』ってな。」
「……何で、そこまでしてくれるんだ?」
「さぁな。(トコトコトコ)俺も理由はわからねぇ。……………けど、そうだなぁ。強いて言えば(ピタッ)」
「そうしたいから……かな?」
「!」
「(クルッ)そんなことより、早く行こうぜ。まだ遅刻したわけじゃないだろ?」
「あ………ああ!!(ダダッ)」
何だか、ウジウジ悩んでた自分が馬鹿みたいだな。
理由や計画が無くても、ただやりたいと思えば目標は決められるし、目指す事も出来る。
そもそも、やりたいって気持ち自体が充分な理由だ。
学園に通う理由だなんだは後回しだ。
やっていけるかどうかも後回しだ。
ただ飛び込んで、ひたすら突き進めば良い。
それだけだ。
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