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8-3.遭遇③

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ー数十分後ー


 よし、これでおおよその検討が付いた。

 どうにも、今まで練習とかで作ってきた薬の効果は相当強力だったみたいだ。

 この塗り薬を塗ると獣達の傷はあっという間に塞がり、立って歩けるまでに回復した。流石に傷が大きいと縫合も必要になるが、異質な性能である事に変わりはない。

 今思えば、薬を塗った3馬鹿の傷も異常に早く治っていたな。

「………」

 少なくとも、あの人の残したメモ通りに作った薬がとんでもない代物になるという事は間違いないだろう。当然、この飲み薬もだ。

 だとしても、ぐちゃぐちゃになった身体が薬だけで治るものだろうか?

 いや、そもそもあのクマからの一撃は本来なら即死する攻撃だった筈だ。そんな状態で生きていられるとはとても思えない。

「……馬鹿げてる……まだ、夢の中か?」

 だが、間違いなくそんな馬鹿げた出来事が自分の身に起きている。

 それもこれも薬の影響によるものならば、とんでもない事だ。

 てか、それを毎日飲んでいた私って………

「…………」

 いや、薬についてはこれから飲まなければ良い。症状も改善したし、本来の病は完治したという事だろう。薬を飲む理由はもうない。

 取り敢えず、そろそろ帰るかな。

“「グォォォォッ」“
“「キシャァァァァッ」"
“「ガルゥゥアァァァッ」"

 だが、その前にもう少し試してみる必要がありそうだ。

ー1時間後

「(バタンッ)…ふぅ。」

 何とか、小屋に着いて一息付く。

 結論から言うと、これまで習慣的に服用していたあの薬はとてつもなく高次的な回復薬……いや、強化薬って言った方が良いか?

 とにかく、筋力増強薬の類で間違いないだろう。

 効果はおよそ10分前後。服用してからすぐに発動するものであり、そこからしばらくの時間を経てから副作用の様に不快感が訪れる。不快感はしばらく続くが、体感で30分程度で気にならなくなる。

 尚、不快感が訪れると同時に、獣が一切近づいて来なくなった。

 その10分間が服用直後に感じる浮遊感と、不快感が服用間隔が訪れた際に感じる体調不良と重なっている様に思える。

 それを踏まえた上で、仮説を立ててみた。

 私は、筋力……と言うよりは身体機能が弱くなる病にかかっていた。

 だから、今まではあの人の薬で一時的に身体機能を向上させることで健康を維持していた。

 その効果は、最初の10分間で細胞を活性化させることで、次の服用間隔まで緩やかに持続するものであった。

 故に、薬を服用して一定の時間内は怪力や超回復などのドーピングみたいな効果を発揮する。

 そして、時間が来ると健康な細胞が相対的な沈静化を起こして体調が悪くなる。

 一応、これなら色々な事に説明が付く。

 この仮説が正しければ、薬の服用を重ねていた私は、ドーピングを長引かせていた状態だったと言えるだろうし、人をあれだけ突き飛ばせてもおかしくはないと思う。あの悪夢も、薬の服用を断った事によるこれまで全てのフィードバックだと考えれば一応説明は付く。そのフィードバックを乗り切った事によって肉体が元の状態に戻ったと考える事も出来る。

「………」

 だが、納得する事はできない。

 前世で薬学はさっぱりだったが、薬とはそう言うものなのだろうか?

 わからない。

 現時点では、こんな稚拙な仮説しか立てられない。

 しかも、これだと相対的沈静化状態で獣達が襲ってこない説明が出来ない。

 そもそも、この仮説には大きな穴がある。

 それは、森の獣たちには何の効果も無かったという事だ。

 傷薬は問題なく効果を発揮した。

 恐らく、まだ試していないその他諸々の薬も効果を発揮するだろう。

 しかし、この薬だけは効果が全く見られない。

 現状わかっている事は、この薬は私にだけ強化薬及び回復薬として機能することだ。

 未だに、謎は深まるばかりだ。

 だが、やる事は決まった。

 

 薬の勉強や調合はこれからも続ける。

 現在の自分を理解するためというのもあるが、いつかあの人が戻ってくる時までに、本に頼らず出来る様に練習しなければならない。

 ただ、この薬とメモ帳の事は絶対に秘密にしなければならない。

 もし誰かに知られれば、良くて盗まれるか攫われるか飼い殺し。悪けりゃ飼い殺しどころかレシピを奪われて口封じに殺されるかもしれない。

 営利目的で近づいて来る連中も大勢出て来る。

 争いを誘発しかねないから、絶対に市場で流通させる訳にはいかないな。

 だが、そんな事よりも……

「…カイル……」

 この薬に関わる人間は間違いなく危険に晒される。

 現時点で、塗り薬の事を知っているのは私とカイルだけだ。

 あの3馬鹿は、現場を見てないから多分わからないだろうし、見られていたとしても、与太話と思われて誰も信じないだろう。

 だが、こんな薬がある事を知られれば、カイルが危険に晒される可能性も出て来る。

 とにかく、あいつにこれ以上知られる訳には……ん?

「………」

 そういえば、三馬鹿の治療時に私が薬を持っている事を何故か知っていたな、あいつ。

 それも、薬の性能をまるで知っているかの様な口ぶりだった。

 あいつは、初対面の頃から謎が多い。不可解な言動も多く見受けられる。

 あいつは何かを知っている。これは、ほぼ確信と言っても良いだろう。

 だが経験上、あいつみたいなタイプは営利目的で関わって来るとは思えない。一体、何が目的だ?

「………(ガチャッ)」

 これ以上は考えてもわからない。直接聞いた方が早いな。

「(ギィィィッ)」

 さて……やることも決まった所で……

《ドドンッ》

 扉の前には、例のクマの他にも返り討ちにした獣達が山を作っている。

「……燻製にするか。」

 また、スパイスを採りに行かなきゃな。
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