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8-1.遭遇①

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「おいアレク!新しいクエストが受注されたぞ!!」
「そうか。(カチャカチャ)随分と早いな。」
「一緒に行こうぜ!!」
「無理だ。」
「即答!?」
「2日前のクエストで手に入った薬草の乾燥がやっと終わったんだ。そいつで試してみたい事があるから今日は無理だ。」
「別に薬の調合なんていつでも出来るだろ?」
「クエストだって、後でも良いだろ?明日なら大丈夫だから誘うなら明日にしてくれ。」
「つってもなぁ…もう受領申請しちまったよ。」
「(クルッ)はぁ!?」
「伝えに来るまでの間に誰かに取られちまうと思ってよ。」
「お前、また勝手に……」
「さて……お前が行けないってんなら、俺は1人で行って来る事にしよう。」
「……わかった。わかったよ。直ぐに準備するから待ってろ。」
「おう!待ってるぜ!!」



「っはぁ!?」

 ここは山小屋。いつもと違って、珍しく目覚めが良い。

「……何だ?あの夢は?」

 大人の…カイルと……私?

「………(くしゃくしゃくしゃっ)」

 ここ最近、前世の夢ばかりを見ていたが、今日の夢は違う様だな。

 妄想?……いや、それにしては随分とリアルだったな。

「(くぅぅぅ…)」

 ……とりあえず、食事にするか。

 わたしはアレク。かつて拷問を受けて命を落とし、この世界に転生した男だ。

 恩人を探して町に出た帰り道でカイルに助けられた後、廃村で寝たらとんでもない悪夢を見た。

 まず、とんでもない苦痛で踠き苦しんだ挙句、森の獣達に襲われて、捌いて、小屋建てて、小屋ごと燻製してから寝床に着くという夢だ。その後、別の夢を見て今に至る。

「………」

 つまりあれは……いやいや、まだ決まった訳じゃない。

 夢の中で夢を見てたって可能性もあるだろ。

 それにしても、夢があんなにも心地良いと思えたのはいつぶりだろうか?前世でも、碌な夢は見られなかったからな。

「(ガチャッ)」

 そうして、外へ続く扉を開ける。

「………」

 眼前にはよく見知った小屋。

 そして、若干薄まりつつも漂う獣の血の残り香。

 その瞬間私は、あの出来事が夢ではなかった事を再確認した。

 ……まだ夢の中ってオチじゃないよな?

「(ガチャッ)」

 何でも良いから、今は食事だ。

ー30分後

 何はともあれ、しばらく肉には困らないな。

 さて、今日はどうするかな?

 あんな事が起こった後だし、町には出ない方が良いな。

 となると……

「……よし、森に行くか。」

 いつも通り、森へ入って素材の採取を行おう。

 実は、素材が足りなくなって来ていた。

 主にスパイス関連、特に塩が……

 まだ多少余裕があるが、乾燥の期間も考慮して早めに採取した方が良いだろう。

 考えるのはやる事をやった後だ。

 決して、現実逃避ってわけではない。

ー数十分後

「……よし、こんなもんか。」

 いつも通り、問題なく採取が終わった。

 黙々とした作業の間に幾分か冷静になった為、昨日までの出来事を整理してみた。

 まず、いつも通りに町へ向かった。

 そして帰りに……3馬鹿に絡まれた。

 連中の呼称が3馬鹿以外に思いつかない。仕方ないか。

 ここまではいつも通りだった。

 いつもならその後、薬草とか諸々をカツアゲされてから帰るだけだった。

 だが、今回はカイルが現れた。

 カイルは3馬鹿を挑発して、あっさり返り討ちにした。

 その後、私が立ち去ろうとしたところをカイルに呼び止められて、一緒に3馬鹿を手当てして薬を……薬?

 そういえば、いつもの薬を最後に飲んだのっていつだった?

 いつもはカツアゲされる時間も考慮して廃村で飲む事にしてた。
 けど、手当やいざこざで時間が掛かった挙句、精神的に疲れたから廃村に着いたら速攻で寝てたんだっけか。

 て事は、あれらは薬の飲み忘れによるもの…?

「………今更だけど、(スッ)一応飲んどくか」

 この薬は日持ちしない。けど、調合寸前の薬液なら結構日持ちする。
 だから、事前に分量を揃えた2つの薬液を持ち歩く事で、出先でも薬の調合が出来る様になる。

「(…コプコプコプ)」

 これまでも頻繁に利用してきた方法だ。混合前なら数日は持つし、どこだろうと問題なく出来たての薬が飲める事は実証済みだ。

「(チャポチャポチャポッ)………」

 よし、出来た。早速飲んでみよう。

「(コクコクコクッ)」

 いつもの味、いつもの香り、いつもの感覚……心なしか、体が軽くなった様な気さえする。そういえば、こうして森の中で飲むのは初めてだったかな。

「……さて…んぐっ!?」

 何だ!?この匂い……鉄……?いや、違う!!

「(ザッザッザッ)」

 この先から匂いがしている。普段はこんなに濃い匂いはしない筈だ。一体何が……

「っ!?なんだ!?…これは…!?」

 見ると、至る所に獣達の残骸。そのどれもこれもに、大きな爪痕が残っている。

「一体何が…」
“「グォォォォッ(ガッ)」"
「……へ?(ゴキゴキゴキッグッシャァァァァァッ!!)」

 気付くと、不意の方向から打ち込まれた一撃を、まともに食らっていた。
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