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5-1.班長の裏切り

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「さて、階段で同期を突き落とした君の処罰だが……」
「ですから!俺は突き落としてなんていません!階段でいきなりあいつが殴り掛かって来たんです!それを咄嗟に避けたら、あいつが勝手に…」
「抜かすな!相手が植物状態で話せないのを良い事に、そんな出まかせを吹聴するとはなぁ?恥を知るがいい。」
「でまかせなんかじゃありません!班長、あなたは信じてくれますよね?」
「………」
「班長?」
「今しがた、お前の懲戒免職が決まった。」
「……は?」
「上の決定だ。もう、どうすることも出来ない。」
「そんな!?……そんな……」
「すまないが……これは、確定事項だ。」
「あ…ぁぁ……」



「(ガバッ)あ゛あ゛あ゛っ!!…はぁ…はぁ……はぁ………」

 ここは小屋、かなり古い。上からの圧力に屈して濡れ衣を着せる馬鹿も………班長も居ない。

「……夢……またか。」

 わたしはアレク。かつて拷問を受けて命を落とし、この世界に転生した男だ。

 今は、この小屋で恩人を待ち続けている。いるのだが……

「……(クシャッ)勘弁してくれ。」

 忘れようとする度に、前世の事をこうして夢に見る。……本当にただの悪夢だったなら、どれだけ幸せだろうか。

 ……綺麗さっぱり忘れたい。前世の事も、何もかも。

 転生したなら、前世の記憶に助けられることもあるかもしれない。以前の失敗を繰り返さない様に出来るだけでも幸福と考えられるかもしれない。

 だが、私はそれを幸福だと思えそうにない。


 ここまで苦しまねばならないのだから。


 どうにかして、忘れられないものだろうか?

 それが出来ないなら………いっそ一思にここで…

“「(プニッ)」“
「……ん?」
“「(スリスリ)??」“

 気付くと、同居人が手の甲に擦り寄って来ていた。

“「(プニプニ)???(スリスリ)???」“

 その様子は、心配してくれているかの様にも見える。

「……大丈夫(ナデナデ)……大丈夫だよ。いつもの悪夢を見ただけだ。……ありがとな、プヨ。」
“「♪♪」“

 こいつはプヨ。半透明で弾力のある私の同居人だ。こいつのお陰で、悪夢を見ても…まぁ……大分マシになってると思う。
 例えこいつにそのつもりがなくても…私の思い違いだったとしても、今の私にはそれだけで充分嬉しかった。

 少なからず、憂鬱な気分は払拭されてるし。

「さて……支度するか。」
 そうして過ごすうちに、あの日からもう1年が経とうとしていた。

 あの人が戻って来た時のために、筋トレ・薬学の勉強・自身の治療薬の調合など、やる事はたくさんある。

「(キュッ)これでよし…と。」

 けど、最近は他にもやる事が増えた。

「じゃ、ちょっと行って来るから、今日も留守番頼む。」
“「○(プルン)」“

 森を出て、以前の廃村を目指す。最近は、そこを基点に人がいる村を探しに行く様になった。匍匐じゃないと、直ぐに着くんだよなぁ。……ほんと、これも早く忘れたい。

 そうこうしているうちに、廃村に着いた。

 以前、とある一団から聞いた話によると、この廃村から人がいる所まではそう遠くないらしい。だから、廃村を拠点にして近くの村々を探索してみる事にしたのだが……徒労に終わった。

「……」

 数ヶ月間この近辺を探していたが、『こっち側』に人の住む町村はなかった。……いや、厳密には村はあった。だが、そのどれもが廃村だった。

 それも、大分昔から無人だった様だ。

「となると……」



〈ヒュォォォォォォッ〉
「…………『あっち側』か。」

 巨壁を見上げて呟いた。

 あの人は『人の住んでいる所が近い』と言っていた。壁の向こうとは言ってなかったから壁の『こっち側』を念入りに探した。

 やはり、あの壁の向こうなのか?
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