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泣き虫αの告白 その5
しおりを挟む父や母、二人の兄からこんこんと説教を受け、すっかり意気消沈していた俺に、昴兄さんは最後にトドメを刺した。
「七央、本当に申し訳ない。理央くんにはこんな愚弟ではなく、もっときちんとした方を探そう」
「昴さん…、ありがとうございます」
ちょっと待ってよ…。
俺は確かにどうしようもないバカだけど、だからって理央を、そんな簡単に諦めるなんて出来ない。
「嫌だ!! 他の誰かなんて、そんなの嫌だ!」
「流星、お前がどれだけ、理央くんに失礼な事をしたのか、分かっているのか?」
「分かってる。だから後悔もしたし、反省もしてる。でも、だからって、そんな簡単に理央を諦めたくない!」
「いい加減にしなさい。そんな、聞き分けのない子供みたいな事を言って」
「だって…! 俺やっと、気付いたから、気付いたばっかりなんだよ。 なあ、七央。お願いだからもう一度だけ、理央に会わせてくれよ。ちゃんと今までの事誤って、俺の気持ちも伝えたい」
「ーーー…流星。 この前、僕が言った事覚えてる?」
「ああ。覚えてるよ」
「なら答えてよ。 きみは理央のどこに惹かれたの?」
散々考えたんだ。
「素直で、飾らないところ」
ずっと理央の事ばっかり、たくさん考えてたんだ。
「理央を、どうしたいの?」
だからこんな質問、今更だ。
「幸せにしたい。理央が、いつも笑っていられるようにしてやりたい」
その隣に、いつも一緒にいたい。
「どうして?」
好きだから。
「大好きだから」
家族の前でだって、泣けちゃうくらい、大好きなんだ。
「もしも理央がベータだったら?」
どうでもいいよ、そんな事。
「関係ない。オメガだろうがアルファだろうが、例えベータだろうが…、バースなんて関係ない。俺は、理央が好きなんだ。理央が、理央だから大好きなんだ」
「ーーーそんなに、泣くほど?」
「そーだよっ! しょ…、しょうがないだろっ、…理央の事考えてると、む…胸が苦しいんだ。 あ…、会いたくて、堪らないんだよ」
いつだって理央に会いたかった。あんな別れ方をしてから、もう二週間近く会えないままで、その間たくさん理央の事を考えた。
どこが好きかとか、どうなりたいとか、そんな事はとっくに答えが出てて、この頃はずっと『会いたい』ばっかりだ。
あのはにかむような笑顔が見たい。
可愛いつむじを眺めながら隣を歩きたい。
俺がヘタれた事を言ったら叱って欲しい。
誂って、膨れっ面して、ちょっと怒って、それでその後、めいっぱい笑ってくれたら嬉しい。
「俺…、理央とずっと、一緒にいたいんだ」
「ーーー 分かった」
「七央…?」
「流星には、もう一度だけチャンスをあげる。その代わり、僕と昴さんの事をあの子にちゃんと話すまで、もう少し時間をくれる?」
「え…? もしかして、理央は何も知らないのか?」
「話す暇、なかったから。 …ね、昴さん」
「ぁ…、そ、そうだね」
……ん?
何をそんなに照れて……
「ああ! そっか、発情期だ」
「ーーー……っ!」
「流星……。 だからっ、どうして君はそう、考えなしに発言するんだよ! このバカ!」
あ…。
ごめん…。
真っ赤になってしまった昴兄さんの横で、また氷の夜叉がブリザードオーラを出していた。
だから、ごめん…てば。
その後、理央がどんなにいい子でどんなに可愛いかを、散々家族の前で言わされた。
『今から楽しみだわ』
母さんは会ったこともない理央のことをすっかり気に入ってしまったし、身長が150センチもないって話をしたら、父さんと恒星兄さんは興味津々だった。
『父さんも恒兄も、興味持ち過ぎ! 理央に失礼な事したら許さないからな』
何故か家族にまで牽制する羽目になった。うちはアルファ一家だからな…。俺の心配事は絶えない。ここに連れて来られるようになったら、絶対俺の膝の上に乗せて、片時も離れないようにしよう…。
そんな俺に七央は呆れ顔で、昴兄さんからも苦言を呈された。
『まだ流星のものではないだろう。先ずは理央くんにきちんと謝って、許して貰うことが出来たら、の話だろう』
……はい。 仰る通りです。
『そうだぞ、流星。そんなにいい子だと言うなら、私だって会ってみたい。だが、お前次第じゃそれも叶うかどうかも分からないんだ』
『流星…、あなたちゃんと謝れるの?』
『言葉もしっかり選ばないといけない。お前、本当に大丈夫か?』
『ちょっと練習してみなさい』
嫌だよ…。家族相手に何させる気だよっ。
『しかし…、そんなに魅力的な子なら、流星には勿体ないかもしれないな…』
『…そうねぇ。こんな情けない子じゃ、何だか申し訳ないわ』
『外見だけは、立派なのだがなぁ…』
そこまで心配される…って、俺どんだけダメな奴なの……。
結局、その後もあーだこーだと家族会議は続いた。
いつまで経っても変わらない矛先に、家族皆の前で丸裸にされた気分だったけど、その話の中心に理央がいるってだけで、俺は何だか嬉しかったんだ。
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