純情Ωの願いごと

豆ちよこ

文字の大きさ
上 下
6 / 13

泣き虫αの告白 その2

しおりを挟む


ーーーー理央が好き
 

 そう自覚するともうダメだ。
 頭の中に理央の事ばっかり浮かんでくる。
 身長差が激しいから、いつも見上げるように俺と目を合わせてくれた。並んで歩くと右回りの可愛いつむじがよく見えた。顔の半分くらいの大きな眼鏡を掛けてるけど、あれは多分そばかすを隠したいんだろう。隠さなくたっていいのに…。だってすごく可愛い。小さい鼻もさらさらの艶々した黒髪も、ホントはちょっと触ってみたかった。眼鏡のせいで分かりづらいけど、理央の真っ黒の瞳は潤々してて何時だってキラキラして見えた。小さい口から覗く、真っ白くてちょっと大きめの前歯が、ハムスターみたいで可愛かった。

 ああ、ダメだ…。思い浮かぶのは理央の可愛いところばっかりだ。

「ぅ…わぁ……。俺、どうしよう。理央にどんな顔して会ったらいいんだよ」


「そんなポンコツダメダメへなちょこ拗らせアルファの流星に、残念なお知らせです」

「な…っ、言い方っ!」

 ひどいっ!
 そこまで扱き下ろさなくたっていいだろっ!

「うるさい。ホントの事だろ。 だから安心しろ。おまえはもう、理央に会わせないから」
「無理っ! そんなの絶対、無理っ!」

 そりゃ、今は自覚したてで恥ずかしさが先に立つけど、会わないとかそんなの無理だ。この先会えないなんて、俺死んじゃう。寂しくて死ぬ!

「やっぱり追いかければよかった。あんな顔した理央を、放っておくなんてできない」
「あのまま追いかけたところで、お前に何が出来た? 余計にあの子を傷付けるだけだ」

「そ…んなこと。どうして…」
「分かるよ。 だって理央は……、」

 何かを言い掛けた七央のポケットから、電子音が鳴った。それを迷いもなく取り出し、一瞥して耳にあてる。
 は? 俺との話しより電話を取るか? うー…わ、何こいつ…。ホントもう、ヤダ。

「はい。 …え? そう…。 …分かった。すぐに行きます」

 通話を終えた七央は俺をチラッと見て、それからまた大きく溜息を吐く。いちいち癪に障る態度だな。

「おい、へなちょこ」

 ムスッとして返事はしなかった。だいたい俺、へなちょこじゃない。

「いいか、よく聞け。お前は暫く理央に会うな。少なくとも僕がいいって言うまでは、絶対にあの子の側に寄るなよ。ーーその代わり、もう一度だけチャンスをやる。確か来月だったよな、九条家三男の誕生パーティ。 それまでにちゃんと考えろ。 お前が理央にどうして惹かれたのか、どうしたいのか…。僕が納得出来る答えを出せたら、理央に会う許可をやる。だからそれまでは、勝手にあの子に会ったりするなよ」

 会っちゃダメって、そりゃないよ…。せっかく好きだって自覚したのに。

「お前の駄目なところは、考えなしに直感で突き進むところだ。もう少し思慮深くなれ。考えてから行動しろ。何でもかんでも猪突猛進に事を運ぶな。きちんと考えて、最善の道を探れ。相手の気持ちを、思い量れるようになれ。 ーー…僕の言ってる事、分かるよな? いいか、理央には会うなよ。勝手な事してあの子を傷付けるような事があれば、今度こそお前の息の根を止めてやるからなっ!」

 最後の本気とも冗談ともとれる脅し文句以外、いつも二人の兄からよく言われる事だった。それを殆ど話した事もない七央からも指摘されて、少し…いや、かなり落ち込んだ。
 誰が見ても俺って、相当のポンコツなのか…って。

「……分かった」

 そんな俺が理央に会って、七央の言う通り本当に理央を傷付ける事になったら、と思ったら怖くなった。

「七央…ってさ、いったい何者なの?」

 一番気になるのはやっぱり理央との関係だ。何かただの幼なじみ、ってだけじゃない気がする。それと兄さん達の事も、どうして知ってるのか分からない。

「それも次いでに考えとけ。 それじゃ、僕はもう行くよ」
「え? いや、ちょっと待ってよ。いっこだけ教えて欲しいんだよ」

「何だよ。 僕、急いでるんだけど?」

 スタスタ物凄い速さで歩き出す七央を大股で追い掛けながら、これだけは答えて貰わないと困る事を必死に聞き出す。

「あのさ、理央はその…。 ベータ…、なのか?」

 だっておかしいんだ。七央の傍にはいつも理央の姿があって、それこそ初めて会ったあのパーティでも“あの匂い”はそこからしてた。
 見た目で七央をオメガだと勘違いして、勝手にあれは七央のものだと思いこんでたけど、こうして理央のいない七央からは“あの匂い”なんか全くしない。
 それ…って、つまりその……


「ぅわ……、っぶねぇ。急に止まるなよっ」

「もしも理央がベータなら…? お前はどうするの? 諦める? ベータの理央には用がないから?」

 その問い掛けに、俺は後頭部を殴られたような衝撃を受けた。

 理央が、ベータだったら……?

 言い淀む俺を見て、七央は何故かがっかりしたような顔をする。そしてまた大きな溜息を吐いた後、何も言わずに背を向けて歩き出した。
 俺はもう…、後を追うのはやめた。言われた言葉が胸に突き刺さってる。それから、俺が今までどれだけ考えなしのポンコツだったのか、その時漸く理解していた。
 
 
『ベータの理央に分かるわけないだろ』


何時だったか、俺が理央に言ったあの台詞が、頭の中で警笛みたいに鳴り響いていた。

 あれを言われた時の理央は、どんな顔をしていたっけ。 何となくがっかりした顔をしていなかったか?
 あんなに近くにいて、自分の匂いにも気付かないアルファなんて…って、きっと呆れただろう。もしかしたら怒ったかも…。いや、理央は無闇矢鱈に怒り散らかす七央みたいな奴じゃない。だからあるとすれば…

「傷付けた…?」

 俺は最低だ…。
 好きな子の隣でその子の匂いに気付かないどころか、全く違う奴のものと間違えた。しかもその間違えた相手のことを、散々褒めて讃えてうっとり眺めるなんて……。

「最悪だ……。俺、なんてバカなんだ」

 叶うならあの時に戻って自分の横っ面を張り倒したい。目を覚ませ、ちゃんと隣を見ろって。
 
 よくよく考えたら気付けたはずだ。
 あのパーティで初めて見掛けた時、俺の視界に最初に入ってきたのは七央じゃない。

ーーー大きな黒ぶち眼鏡のおチビ

 あの時から俺は、理央を見てたじゃないか。慌てふためいて吃ってるのも、笑っちゃったけど可愛いなって思ったからだし、毎回七央に会いに行こう、って時は必ず最初に理央を探してた。
 七央と話が出来なくても全然よくて、いつだって理央とふざけたり笑い合ったりするのが心地よかった。漫才みたいな会話も楽しくて、理央が他の事に捕らわれそうになるのを邪魔したり、ちゃんと話を聞いてよ、って振り向かせたくて必死だった。
 
「ホント…、何してたんだ、俺……」

 さっき、七央に抱きかかえられるように支えられてた理央を見て、何て思った?

『ズルい』

 そう思ったんだ。あの時はそれがどんなベクトルだったのか、ぼんやりとしか分からなかったけど、今ならちゃんと分かる。

ーーー俺だって理央を抱っこしたい

 七央に『理央に近付くな』って言われた時ははっきり意識した。絶対に嫌だ、って。

「そうだよな。七央に嫌いって言われても、別にあっそ、としか思わなかったけど、理央に会うなって言われた時は、ムカついたし」

 ちゃんと考えたら分かるじゃないか。こんなにも、理央に惚れてるんだって。

「ああ……、もぉ……。 ほん、と俺、バカだ」


 理央を好きだと自覚すればするほど、自分の至らなさに落ち込むばかりだった…。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

華麗に素敵な俺様最高!

モカ
BL
俺は天才だ。 これは驕りでも、自惚れでもなく、紛れも無い事実だ。決してナルシストなどではない! そんな俺に、成し遂げられないことなど、ないと思っていた。 ……けれど、 「好きだよ、史彦」 何で、よりよってあんたがそんなこと言うんだ…!

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

処理中です...