2 / 47
1章
恋の自覚は突然に
しおりを挟む白紙で提出した5時間目の自習プリント。その後の6時間目もぼんやりと過ごし、気付けばホームルームも終わった放課後になっていた。
葛西が好き───。
頭の中はそれだけで埋め尽くされて、それ以外の思考は遮断された。これはどういう事だ。好きってなんだ?
「おーい、まな。帰るぞ」
「………………………」
「まな? おい、学斗。そんな赤い顔してどうした? 熱でも出たか?」
隣のクラスから迎えに来た幼馴染みの山本哲朗が、でっかい手のひらをおでこに充てた。そこで漸く我に返る。
既に教室は疎ら。隣の席ですやすや寝ていた筈の葛西の姿ももうない。
「てっちゃん………」
「おう」
「てっちゃん………、俺………」
「うん」
「俺、葛西が好きなの?」
「…………は?」
ふと蘇る記憶。
───「また入学式で会おうね」
高校の合格発表の日。貼り出された合格者番号のボードの前で、そう言ってくれた名も知らぬ他校の中学生。それが葛西と初めて出会った日だ。
いつか、あの時のお礼を言いたいと思っていた。去年はクラスが違ったから話す機会も全然なくて、入学から随分経った夏頃になって漸く『かさいひろき』という音だけの名前を知った。
掻き集めた小さな情報を繋ぎ合わせて、宝物を探し当てた気持ちになったのを思い出す。
あの頃のノートには、色んな漢字の『かさいひろき』が残ってる。
「てっちゃん、俺ね………、葛西が好きなんだって」
「へぇ」
それをまさか、ご本人様から指摘されるとは思いも依らなかった。
しかも初めて交わした会話。夢にまで見た『かさいひろき』との初会話。それがこんな結果を生むとは想像もしなかった。
葛西が好き。
そうか……。俺は葛西が好きなのか。
西陽を浴びた左隣の机が、光を反射させてキラキラと輝く。
おい、葛西の机。おまえは主が帰った後でも眩しいな。そんなにピカピカさせて、俺のほっぺたを焼くんじゃない。ただでさえ熱い頬が、余計に熱くなるじゃないか。
「おい、ますます赤くなってるぞ。本当に大丈夫か?」
うるさいよ、てっちゃん。ちょっと黙っててくれないか。俺は今、究極に悩んでるんだ。
だって、だってだって………。
───『ねぇ、俺のこと好きなの?』
頭の中でリプレイされる葛西の言葉に、ボカンと顔から火が噴いた。
そしてもう一つ、突如として浮かんだ言葉に心臓が爆音を立てて騒ぎ出す。
「うわぁぁああ!!! 俺、死んだかも! 顔から血が吹き出してない!? 血管切れたー!!!」
「うわっ、おかしくなった! おい、しっかりしろ学斗。大丈夫だから、もう帰ろう!」
幼馴染みに抱えられるように学校を出て、フラフラしながら帰り道を歩く。
おかしい……。絶対に変だ。
考えれば考える程、思考の迷宮に嵌ってしまう。
あれが初めての会話だなんて信じたくない。しかも相手は好きな人。眩しくて、カッコよすぎて、気付くといつもチラ見しちゃう葛西宏樹。
葛西はすごい。俺が気付かなかった俺の気持ちをスバリ言い当てた。
「葛西は、天才だ……」
「あ? いや、アイツ馬鹿だぞ。テストの後はいつも補習させられてたし」
何言ってんだ。葛西は凄いんだぞ。学校の勉強よりもっと高度な、人の心の正解を持ってるんだからな。それに、何と言ってもカッコいい。この世のカッコいいを、全部独り占めしてるんじゃないかな。
「ふへへ…。俺の好きな人、すごい……」
「はあ?」
そんな好きな人との初会話があれでいいのか。俺には難しくてよく分からない。
何時か、正しい会話が出来るようになったら聞いてみたい。何しろ葛西は凄いからな。きっとこの悩みもズバッと解決してくれるに違いない。
「ふへへ…。すごいなぁ葛西。カッコいいなぁ」
「はぁ……。今更、何言ってんだか……」
熱に浮かされた様な浮遊感が、幼馴染みに担がれてるからだとも知らぬまま、俺は何時までも「葛西はすごい」を繰り返す。お供のてっちゃんが「はあ」とか「へえ」とか、生返事で返すのも気にならない。
葛西が好きだ。うんうん。俺は葛西が途轍もなく好きだ。そんな初めての好きな気持ちを、あのカッコいい同級生が教えてくれた。
「ふふ…、ふへへ…」
「おい…。お前、帰ったら熱計れよ」
うんざりとされながら送り届けられた自宅玄関で、糸が切れたようにパタリと倒れ込んだ。
───計った熱は38.2度。
次の日の朝はケロッとしてたから「知恵熱か?」なんて、またまた幼馴染みを呆れさせた。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
チョコは告白じゃありませんでした
佐倉真稀
BL
俺は片桐哲哉。大学生で20歳の恋人いない歴が年齢の男だ。寂しくバレンタインデ―にチョコの販売をしていた俺は売れ残りのチョコを買った。たまたま知り合ったイケメンにそのチョコをプレゼントして…。
残念美人と残念イケメンの恋の話。
他サイトにも掲載。
華麗に素敵な俺様最高!
モカ
BL
俺は天才だ。
これは驕りでも、自惚れでもなく、紛れも無い事実だ。決してナルシストなどではない!
そんな俺に、成し遂げられないことなど、ないと思っていた。
……けれど、
「好きだよ、史彦」
何で、よりよってあんたがそんなこと言うんだ…!
参加型ゲームの配信でキャリーをされた話
ほしふり
BL
新感覚ゲーム発売後、しばらくの時間がたった。
五感を使うフルダイブは発売当時から業界を賑わせていたが、そこから次々と多種多様のプラットフォームが開発されていった。
ユーザー数の増加に比例して盛り上がり続けて今に至る。
そして…ゲームの賑わいにより、多くの配信者もネット上に存在した。
3Dのバーチャルアバターで冒険をしたり、内輪のコミュニティを楽しんだり、時にはバーチャル空間のサーバーで番組をはじめたり、発達と進歩が目に見えて繁栄していた。
そんな華やかな世界の片隅で、俺も個人のバーチャル配信者としてゲーム実況に勤しんでいた。
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
好きな人の婚約者を探しています
迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼
*全12話+後日談1話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる