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1章

体育なんてなきゃいいのに

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 体育の授業は2クラス合同の2時間続き。今日はバスケをするらしい。……終わった。
 勉強は嫌いじゃないけど運動は別。俺はまだ運動に対する能力が開花してない。だから体育の授業は苦手だ。その中でも球技は最も苦手なスポーツだ。

 バム…、バム…、ババム…、

「あ、……もぉっ」

 どうやっても、床にボールを叩き付けながら歩けない。ボールはまるで生き物みたいにアチコチ勝手に跳ねていく。おまけに手のひらも痛い。その痛い手のひらに戻って来るはずのボールは、爪先に当たって明後日の方向に転がっていった。
 体育は、……本当に苦手だ。

 コロコロと転がるボールを追い掛けながら、自分の最低な運動能力を呪う。
 どうして俺の手足は、こんなに言う事を聞いてくれないんだろう。一刻も早く開花して欲しい。
 縺れそうになる足を必死に動かしながら、転がるボールだけに集中してたら、ひょいっとそのボールが宙に浮いた。俺の手には戻ってこないくせに、転がった先の誰かの手にはスルッと収まるなんて、なんて生意気なボールだ。

「あ……、それ俺のボー……、……ル」

 生意気なボールから視線を30センチ程上に上げると、それはそれはキラキラとした眩しい位のイケメン様が、ニヤニヤしながら俺を見下ろしていた。

「ボーリングでもしてたのか、棚橋」
「………バスケットボールなのに、ボーリングなんか、する訳ないだろ。返してよ」

 ふぅん、と言って、俺が転がしたボールを右手でクルッと回し、人差し指を一本立てたその上で、俺の顔くらいある茶色のボールをシュルシュル回わす。
 イケメンは何をしても絵になる。皿回しならぬボール回しを、事も無げに披露する葛西は恐ろしい程カッコいい。
 その姿にぽけっと見惚れていたら、指の上のボールをスッと落とし、ダムッと床にバウンドさせた葛西は、そのままダムダムとボールを床に打ち付けながら、「俺が教えてやろうか?」と言った。

「え?」
「さっきから見てたけど、棚橋、全然出来てないだろ、ドリブル」

 み、見られてたの!?
 うわっ、恥ずかしい!!

 ボブンと顔に火がついた。
 こんな、何をやっても様になるイケメンの王様みたいなカッコいい葛西に、言う事聞かない手足とボールに舐められている、情けなさマックスな姿を見られてたなんて恥ずかしい!

「おまえさ、そうやってすぐ赤くなるの何で? やっぱり、俺のこと好きじゃん」
「ち、違う! ここ、こ、これは、そういうんじゃないんだ!」

 よし、今日はちゃんと誤魔化せた。違うって言えた。………と思う。

「ふぅ~…ん。ま、どっちでもいいけど、どうする?」
「どう……?」
 
 どうするとは、どう言うことだ?
 葛西の謎発言は本当に難しい。俺に分かるように言ってくれないかな。
 相変わらずダムダムとボールを操りながら、黙ったまま見下してくる。
 お腹の前で手持ち無沙汰の空っぽの手を、握ったり開いたりしながら葛西の言葉を考えていると、「集合!」という先生の声が体育館に響いた。

「あ~あ、残念。時間切れだね」
「え……、わ、わわっ、!」

 ひょいっとボールを放られて、お腹と両手でキャッチした。

「ま、教えて欲しくなったら声掛けろよ」

 う~わ……、カッコいい。
 フッと笑った葛西のカッコよさったらない。思わず目眩がした。頭がクラクラするほどカッコいいなんて、やっぱり葛西は凄い。
 心のアルバムにそっと「体育の葛西」と命打って、しっかりと保存しておこう。
 
 それにしても……。
 おい俺のボール。お前だけ葛西に遊んで貰ってズルいじゃないか。この裏切り物め。ちょっとは俺とも仲良くしてよ。

 両手で硬い茶色のボールを抱き締めながら、集合場所へと走った。
 肩幅の異様に大きな体育教師が両脇に2つづつボールを挟んで持っている。
 何あれ……。逆に怖い。
 モンスター映画の怪獣みたいな先生は、「よーし、全員集まったな」と言って恐ろしい宣言をしてきた。

「それじゃ15分休憩挟んで、試合するぞー。クラス毎にチーム決めとけよ」

 あぁ、…………終わった。
 チーム決めとか何の罰ゲームだろう。陰キャボッチにはハードルが高過ぎる。そりゃもう棒高跳びのバーくらい天高く聳え立つハードルだ。下を潜った方が早いだろう。要するにズルをしたい。
 チラッと隣のクラスの集団に目をやる。あの中に俺の唯一の友達、幼馴染みのてっちゃんがいる。怪獣先生は「クラス毎」と言ったけど、俺くらい地味で空気な存在なら、こっそり隣組チームに混ざっても分からないんじゃないだろうか。
 こっち向け~、俺を見ろ~、と念を込めて幼馴染みのツンツン頭に視線を送り続ける。その甲斐あってか、てっちゃんと目が合った。
 よし、俺を誘うんだ。そのチームにこっそり俺を入れてくれ。
 うんうん頷いてにこにこ顔を披露したのに、相変わらず空気が読めない幼馴染みは「はぁ?」とでも言いたげな変顔を見せた後、肩を竦めて首を横に振った。俺の願いは届かなかった。くそぅ…。
 ま、まぁ、ズルはいけないよな。
 仕方無く気持ちを入れ替えて、仲間に入れてくれそうな優しいクラスメートを探そうじゃないか……。くすん……。
 
 




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