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手続きを済ませた後、メールを確認してがっくりと肩を落とした。
未読のメール――母だ。
(ここに、連絡してどうするつもりだったのよ)
確かに連絡されていた。もちろん見ていない。
文句を言いながら夕食を済ませると自室に引きこもった。
お気に入りの動物モチーフの雑貨が散りばめられた可愛らしい部屋。
透子が座るのはなぜかベッドの上。布団の上に置いた携帯電話を前に背中を丸めてちょこんと正座している。
まるでご飯のお預けを喰らった愛犬のようなスタイル。
(さっそく連絡、しなきゃ……!)
手に取ったのは――折りたたまれたコピー用紙。
十二桁の番号とアルファベットの羅列が行儀よく並んでいる。それは透子にとって大切な個人情報だ。
メモを確認しながら番号を入力して、やっぱり消した。
「……電話じゃダメよ」
恭平さんとは初対面ではないがいきなり電話をかけるのは気が引ける。
電話を掛けても応じてくれない可能性もある。さっそく壁にぶち当たった。
「やっぱりメールのほうがいいよね?」
上目づかいで悩みを相談する相手はつぶらな瞳の――ウサギのヌイグルミ。
当たり前だがどれだけ待っても返事はない。
連絡はしたいが――タイミングがうまくつかめない。
(がっついてると思われるのも嫌だし……)
緊張で身体が凝り固まっている。
「社会人だし、きちんとお礼をしなきゃいけないと思うのよ……ね?」
やっぱりウサギのヌイグルミに相談してしまった。
見上げた時計の針は午後十時を過ぎた。
「あまり遅い時間にメールをするのって失礼になるのかなぁ……」
電子メールに時間は関係ない。というツッコミはしてくれない。
混乱した脳内になぜかビジネス研修の注意事項が頭をよぎった。
(返事は早く、短く、簡潔に。そして常に報告、連絡、相談――って誰に相談するのよ?)
とうとう一人ツッコミまで始めてしまった。よく分からないパニックが頭の中まで伝播してしまったらしい。
少し落ち着こうと深呼吸をして携帯をすくい上げた。
打ち込んだ文面はシンプルを心掛けた。
『携帯を届けてくださってありがとうございました』
(……よし。やっぱりシンプルに感謝を伝えるのが一番よね)
宛先のアドレスに間違いがないか、メモと入力したアドレスをしつこいくらい確認を繰り返す。初めて送る相手にしつこく確認しても不安になる。
「……よし」
アルファベットを一文字ずつ確認するのは何回目かの最終チェック。
時間をかけるほど新たな葛藤につながってしまう。
ついには――文面はこれでいいのだろうかと気になってしまった。
(いや、感謝を伝えるのならばお礼の言葉が先に……!)
実にくだらないことを悩みに悩んで――気がつけば三十分が経過していた。
(緊張し過ぎて、気持ち悪くなってきた)
透子はそっと胃の辺りをさすってため息を落とした。
(私が気にするほど相手は気にしていないのかもしれない。だったらさっさと送ったほうがいいかもしれない)
そう、決心したところだった。
「透子、いつまでも遊んでいないで早くお風呂に入ってちょうだい」
ドア越しに聞こえた母の声に驚いて送信ボタンをタップしてしまった。
「あわわっ、ちょっ、待って……っ!」
事務的な送信済みの表示を見て、深いため息をついた。
(ちゃんと届いたかしら……)
しつこいくらいアドレスを確認したので大丈夫だろう。
大きなプロジェクトを達成したくらい疲れた。携帯をにぎったままベッドに突っ伏して苦笑する。
(……なにやってるんだろう、私)
ただのお礼のメールなのに片思いの告白したような気分だ。
「まだ、なーんにも始まってないのに」
ベットに突っ伏したまま、ぼそぼそとつぶやいた。
冷静になればなるほど滑稽過ぎて笑えてくる。千賀に知れたら間違いなく笑いの種だ。
(……お風呂、入ろう)
どうせ返事は明日だろうと起き上がった透子の予想を裏切る軽快な着信音。
「――――!」
飛びついてロックを解除すると――返信が一件。
そっと確認したアドレスは――先ほど確認した相手。件名にはReの文字。
(返事が、来た……っ!)
ベッドの上に正座して背筋を伸ばして内容を確認する。
『ちゃんと届いてよかったです。またお会いできると嬉しいです』
文面はデートのお誘い――いや。ただの社交辞令だろう。
(いや。社交辞令だとしてもなにも答えないわけにはいかない)
差し障りのない言葉で「はい」と短く返事を送った。
(会ったばかりの人に期待し過ぎよね。……お風呂に入ろうっと)
のろのろと立ち上がりかけた透子の膝のあたりで携帯が着信を告げる。
『明後日の十七時、場所は――』
(え?)
まるで待ち合わせの場所と時間を伝えるようなメールだ。
慌ててもう一度、文面を確認して頷いた。
(デートのお誘いだ!)
笑顔で了承の返事を送ってクローゼットに駆け寄った。
そこには年ごろの女性らしい色とりどりの衣装が詰め込まれているのだが初めてのデートにぴったりなコーディネートは見当たらない。
(明日、買いに行かなきゃ!)
※※※
お城の舞踏会ではなく食事会のお誘いです ( *´艸`)
ウサギちゃんのヌイグルミを前に悶える透子さん。
乙女のシュチュエーションに楽しくなってまいりました。
ではでは (≧▽≦)ノ
未読のメール――母だ。
(ここに、連絡してどうするつもりだったのよ)
確かに連絡されていた。もちろん見ていない。
文句を言いながら夕食を済ませると自室に引きこもった。
お気に入りの動物モチーフの雑貨が散りばめられた可愛らしい部屋。
透子が座るのはなぜかベッドの上。布団の上に置いた携帯電話を前に背中を丸めてちょこんと正座している。
まるでご飯のお預けを喰らった愛犬のようなスタイル。
(さっそく連絡、しなきゃ……!)
手に取ったのは――折りたたまれたコピー用紙。
十二桁の番号とアルファベットの羅列が行儀よく並んでいる。それは透子にとって大切な個人情報だ。
メモを確認しながら番号を入力して、やっぱり消した。
「……電話じゃダメよ」
恭平さんとは初対面ではないがいきなり電話をかけるのは気が引ける。
電話を掛けても応じてくれない可能性もある。さっそく壁にぶち当たった。
「やっぱりメールのほうがいいよね?」
上目づかいで悩みを相談する相手はつぶらな瞳の――ウサギのヌイグルミ。
当たり前だがどれだけ待っても返事はない。
連絡はしたいが――タイミングがうまくつかめない。
(がっついてると思われるのも嫌だし……)
緊張で身体が凝り固まっている。
「社会人だし、きちんとお礼をしなきゃいけないと思うのよ……ね?」
やっぱりウサギのヌイグルミに相談してしまった。
見上げた時計の針は午後十時を過ぎた。
「あまり遅い時間にメールをするのって失礼になるのかなぁ……」
電子メールに時間は関係ない。というツッコミはしてくれない。
混乱した脳内になぜかビジネス研修の注意事項が頭をよぎった。
(返事は早く、短く、簡潔に。そして常に報告、連絡、相談――って誰に相談するのよ?)
とうとう一人ツッコミまで始めてしまった。よく分からないパニックが頭の中まで伝播してしまったらしい。
少し落ち着こうと深呼吸をして携帯をすくい上げた。
打ち込んだ文面はシンプルを心掛けた。
『携帯を届けてくださってありがとうございました』
(……よし。やっぱりシンプルに感謝を伝えるのが一番よね)
宛先のアドレスに間違いがないか、メモと入力したアドレスをしつこいくらい確認を繰り返す。初めて送る相手にしつこく確認しても不安になる。
「……よし」
アルファベットを一文字ずつ確認するのは何回目かの最終チェック。
時間をかけるほど新たな葛藤につながってしまう。
ついには――文面はこれでいいのだろうかと気になってしまった。
(いや、感謝を伝えるのならばお礼の言葉が先に……!)
実にくだらないことを悩みに悩んで――気がつけば三十分が経過していた。
(緊張し過ぎて、気持ち悪くなってきた)
透子はそっと胃の辺りをさすってため息を落とした。
(私が気にするほど相手は気にしていないのかもしれない。だったらさっさと送ったほうがいいかもしれない)
そう、決心したところだった。
「透子、いつまでも遊んでいないで早くお風呂に入ってちょうだい」
ドア越しに聞こえた母の声に驚いて送信ボタンをタップしてしまった。
「あわわっ、ちょっ、待って……っ!」
事務的な送信済みの表示を見て、深いため息をついた。
(ちゃんと届いたかしら……)
しつこいくらいアドレスを確認したので大丈夫だろう。
大きなプロジェクトを達成したくらい疲れた。携帯をにぎったままベッドに突っ伏して苦笑する。
(……なにやってるんだろう、私)
ただのお礼のメールなのに片思いの告白したような気分だ。
「まだ、なーんにも始まってないのに」
ベットに突っ伏したまま、ぼそぼそとつぶやいた。
冷静になればなるほど滑稽過ぎて笑えてくる。千賀に知れたら間違いなく笑いの種だ。
(……お風呂、入ろう)
どうせ返事は明日だろうと起き上がった透子の予想を裏切る軽快な着信音。
「――――!」
飛びついてロックを解除すると――返信が一件。
そっと確認したアドレスは――先ほど確認した相手。件名にはReの文字。
(返事が、来た……っ!)
ベッドの上に正座して背筋を伸ばして内容を確認する。
『ちゃんと届いてよかったです。またお会いできると嬉しいです』
文面はデートのお誘い――いや。ただの社交辞令だろう。
(いや。社交辞令だとしてもなにも答えないわけにはいかない)
差し障りのない言葉で「はい」と短く返事を送った。
(会ったばかりの人に期待し過ぎよね。……お風呂に入ろうっと)
のろのろと立ち上がりかけた透子の膝のあたりで携帯が着信を告げる。
『明後日の十七時、場所は――』
(え?)
まるで待ち合わせの場所と時間を伝えるようなメールだ。
慌ててもう一度、文面を確認して頷いた。
(デートのお誘いだ!)
笑顔で了承の返事を送ってクローゼットに駆け寄った。
そこには年ごろの女性らしい色とりどりの衣装が詰め込まれているのだが初めてのデートにぴったりなコーディネートは見当たらない。
(明日、買いに行かなきゃ!)
※※※
お城の舞踏会ではなく食事会のお誘いです ( *´艸`)
ウサギちゃんのヌイグルミを前に悶える透子さん。
乙女のシュチュエーションに楽しくなってまいりました。
ではでは (≧▽≦)ノ
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