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幼馴染と愚痴大会
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「――というわけよ!」
一通り愚痴を聞かされたそいつは目じりに涙を浮かべてそれはそれは楽しそうに笑い転げている。
缶ビールを手に鼻息荒いのは緩く波打つ栗色の髪にヘーゼル色。御年二十九歳、あと数週間でめでたく三十路に突入予定。
ここのところ残業が続いて元々色白なお肌は荒れ気味だ。名前は桑原里奈。
「そりゃ、災難だったな」
「ここんところ毎日よ! あの部屋は壁が薄いの! あたしは聡志みたいな高給取りじゃないし、安アパート暮らしだからしょうがないと言っちゃしょうがないんだけど。干物女でも若い女の喘ぎ声を聞かされちゃいたたまれないってもんよ!」
「こちらはご無沙汰ってか? で、オトナリさんは若いの?」
同じビールの缶を手に意地悪そうに笑うのは癖のある黒髪に淡い栗色の目の男性。里奈の幼馴染で志賀聡志。
名前を聞けば誰しも知っている大手の広告代理店に勤務。
(地位も身分もあってあたしの数倍は稼いでる)
「二十歳ぐらいのかわいい男の子よ。あっちも元気みたいでね。女の子をとっかえひっかえしてるみたいで、昼も夜も……たまんないわよ」
残り少なくなったビールをあおり、げんなりと肩を落とす。
「オレはそういう対象で見てもらえないの?」
「ムリ。彼女のいる聡志を相手にそういうことを考えたことない」
里奈は都内の大学を卒業後、就職氷河期にどうにかもぎ取った内定は安月給の事務。まさか大卒でニートというわけにもいかず就職した。
これまで男女交際は順調とは言えなかった。里奈とて男性経験がないわけではない。学生時代は付き合ったり別れたりしたけれどうまくやっていた。
最近では年齢のこともあっていろいろ警戒されている。
(――色気より食い気よ)
専ら幼いころから器用な聡志の手料理を目当てに給料日前はココに転がり込んでる。
「彼氏は? 順調じゃないのか?」
「先週、別れた」
「なんで?」
「アイツ、高校の同窓会で再会した彼女とヤケボックイで盛り上がっちゃって、勢いそのまんまで一夜限りの関係のつもりが――デキちゃったんだって」
ダメ押しの一言で聡志がビールを吹き出しそうになってむせた。
「あたしという彼女がありながらヒドくない!? そろそろかなって期待してたのに裏切り行為よ!」
「そりゃ、ヒドイ」
「で、いたいけな傷心娘がむしゃくしゃしてるところに隣の若造のナニする声が聞こえてきたってわけ」
残り少なくなってきたポテトフライをつまんで口に放り込んでかみ砕く。
「そりゃ、かわいそうに」
「でしょ、でしょ?」
さすが持つべきものは幼馴染と、ずいと聡志の方へ身を乗り出して眉根を寄せる。
「――お前じゃなくて隣の彼女の方が、だ」
「どういう意味よ」
意図するところを察して目を吊り上げて睨んでやる。
怖い顔をしたつもりだが聡志は笑って隣に座る。あたたかく大きな手で里奈の肩を引き寄せて耳元でささやく。
「こんな干からびたオバさんに聞かれてるなんて、ねぇ?」
「オバさんは余計じゃない?」
「そうだなぁ、折角だからオレたち付き合ってみる?」
真顔で言われて驚いてまじまじと聡志を見る。思ったより間近にある幼馴染の顔に里奈の鼓動が跳ね上がった。
一瞬、魅力的な誘い文句に心がなびきかけた。が理性は踏み越えてはいけない一線を訴える。
「――冗談。かわいいカノジョが泣くよ?」
「そーでした」
睨んだ里奈に聡志はからからと楽しそうに笑う。
残念なことにこういう高スペックな男は女性に困らない。
一通り愚痴を聞かされたそいつは目じりに涙を浮かべてそれはそれは楽しそうに笑い転げている。
缶ビールを手に鼻息荒いのは緩く波打つ栗色の髪にヘーゼル色。御年二十九歳、あと数週間でめでたく三十路に突入予定。
ここのところ残業が続いて元々色白なお肌は荒れ気味だ。名前は桑原里奈。
「そりゃ、災難だったな」
「ここんところ毎日よ! あの部屋は壁が薄いの! あたしは聡志みたいな高給取りじゃないし、安アパート暮らしだからしょうがないと言っちゃしょうがないんだけど。干物女でも若い女の喘ぎ声を聞かされちゃいたたまれないってもんよ!」
「こちらはご無沙汰ってか? で、オトナリさんは若いの?」
同じビールの缶を手に意地悪そうに笑うのは癖のある黒髪に淡い栗色の目の男性。里奈の幼馴染で志賀聡志。
名前を聞けば誰しも知っている大手の広告代理店に勤務。
(地位も身分もあってあたしの数倍は稼いでる)
「二十歳ぐらいのかわいい男の子よ。あっちも元気みたいでね。女の子をとっかえひっかえしてるみたいで、昼も夜も……たまんないわよ」
残り少なくなったビールをあおり、げんなりと肩を落とす。
「オレはそういう対象で見てもらえないの?」
「ムリ。彼女のいる聡志を相手にそういうことを考えたことない」
里奈は都内の大学を卒業後、就職氷河期にどうにかもぎ取った内定は安月給の事務。まさか大卒でニートというわけにもいかず就職した。
これまで男女交際は順調とは言えなかった。里奈とて男性経験がないわけではない。学生時代は付き合ったり別れたりしたけれどうまくやっていた。
最近では年齢のこともあっていろいろ警戒されている。
(――色気より食い気よ)
専ら幼いころから器用な聡志の手料理を目当てに給料日前はココに転がり込んでる。
「彼氏は? 順調じゃないのか?」
「先週、別れた」
「なんで?」
「アイツ、高校の同窓会で再会した彼女とヤケボックイで盛り上がっちゃって、勢いそのまんまで一夜限りの関係のつもりが――デキちゃったんだって」
ダメ押しの一言で聡志がビールを吹き出しそうになってむせた。
「あたしという彼女がありながらヒドくない!? そろそろかなって期待してたのに裏切り行為よ!」
「そりゃ、ヒドイ」
「で、いたいけな傷心娘がむしゃくしゃしてるところに隣の若造のナニする声が聞こえてきたってわけ」
残り少なくなってきたポテトフライをつまんで口に放り込んでかみ砕く。
「そりゃ、かわいそうに」
「でしょ、でしょ?」
さすが持つべきものは幼馴染と、ずいと聡志の方へ身を乗り出して眉根を寄せる。
「――お前じゃなくて隣の彼女の方が、だ」
「どういう意味よ」
意図するところを察して目を吊り上げて睨んでやる。
怖い顔をしたつもりだが聡志は笑って隣に座る。あたたかく大きな手で里奈の肩を引き寄せて耳元でささやく。
「こんな干からびたオバさんに聞かれてるなんて、ねぇ?」
「オバさんは余計じゃない?」
「そうだなぁ、折角だからオレたち付き合ってみる?」
真顔で言われて驚いてまじまじと聡志を見る。思ったより間近にある幼馴染の顔に里奈の鼓動が跳ね上がった。
一瞬、魅力的な誘い文句に心がなびきかけた。が理性は踏み越えてはいけない一線を訴える。
「――冗談。かわいいカノジョが泣くよ?」
「そーでした」
睨んだ里奈に聡志はからからと楽しそうに笑う。
残念なことにこういう高スペックな男は女性に困らない。
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