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同じ材料、調理法でも妻の味付けにならないのは何故なのか
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ベッドに横になり足だけ布団に突っ込んだまま彼と会話を続ける
最も彼の話はほぼ愛妻トークだ。
彼の名は「クロード」と言い何百年と生きている御長寿隠居吸血鬼らしい。
老夫婦とは彼等が若い時からの知り合いで、歳を重ねても自分に普通に接してくる警戒心の無い老夫婦を心配していた。
「まったく…人間は危機感がなさすぎる…こんな獣も出る山の中よりも街に住めばいいものを…襲われてないかと気になって敷地内を巡回する羽目になった…」彼は腕を組み困り顔で話す
「じ…クロードさんは吸血鬼だから日光が苦手なんですか?」
「確かに日光は吸血鬼にとってよくないが、即死する程では無い。首を跳ねたり心臓を潰しせば死ぬだろうが…それは人とて同じだろう?私は目が悪くてな。光源が強いと目が見えなくなってしまうのだよ。まぁ、その分、夜目は利くんだがな。」彼が目元を擦り長いまつ毛が震える
「じ…クロードさんって、主食はやっぱ…血ですか?一般食も食べられるって言ってましたけど…」
「…………まあ、血液が1番ではあるが、毎日摂取する必要はない。それに私は妻の手料理のお陰で他の吸血鬼よりも大分人間寄りの味覚になったな。米と汁物とおかずで普通に満足出来るので人を襲う気は起きん。」
「何か…庶民的…じ、…………じゃなくてクロードさんは…」
「先程から『じ』と出るが何だ?何か言いたいことがあるなら言いなさい。」
訝しむ眼差しを向けられる。
まあ、無理もない
「あっ……………その…怒りません?」
掛け布団をもじもじ揉みながら上目遣いでクロードさんを見る
「?怒るようなことなのか?」
「…………人によっては…かな?」
「よい。言いなさい」
「あの…助けていただいて大変失礼とは思いますが…………その…発言とか年齢とか……髪色とかが…何て言うか…………その……………爺ちゃんみたいで…」
「爺…………」
クロードさんが口を開け呆然と呟く
「す、すみません!つい親戚の爺ちゃんみたいで懐かしくなって…………夏や冬休み位しか会えないから…急に思い出しちゃって…失礼ですよね!ごめんなさい!!本当にごめんなさい!!お詫びに血差し出しますんで許して下さいお願いします!」
ガバッと首筋のガウンを両手で開ける。どうぞ吸って下さい!!と彼に身体を傾ける
俺なりの謝罪パフォーマンスだ。
「いや、よしなさい。そう簡単に他人に素肌を晒すものでは無い。」
サッと素早く首元の開けたガウンを閉じられる
「爺…か。成程。椿と私の間にも子を成せれば君みたいな孫が出来ていたかも知れないな。」
ポンポン…クロードさんの白い手が俺の肩を優しく叩く
「良い良い。君は私と椿の可愛らしい孫としよう。私のことは爺なり何なり呼ぶといいさ。」
肩に置いてた手が俺の背中に回り抱き締められる
(エェ…怒られはしなかったけど…受け入れられちゃったよ…どーしよ…)
行き場のない俺の手が彼の横で浮く
彼の胸に顔を埋められながら次の行動をどうするべきか考える
「フハハ…初孫じゃ。子は成せなんだが孫が出来た…………生きてみるものだなぁ…」
彼は一瞬悲しそうな目をしたが直ぐに笑った
(クロードさんは、奥さんが亡くなって何年此処に1人で住んでたんだろう…こんなにも愛妻家な彼がずっと1人で……………)
勝手な意見だが俺はその時、クロードさんの事を可哀想だと思ってしまったんだ
だから
少しでも彼の希望に応えてあげたかった
宙に漂っていた手をクロードさんの背中にそっとまわし恥ずかしくて弱々しくなった力で抱き締め返す
「じ、爺ちゃん…………ふつつかな…孫ですが…よろしく…ね」
「…………アハハハハ!!!!今更恥ずかしがっても遅いわ!!」
俺を抱く腕に力が籠もる。
「うぐぅぅ…爺ちゃん…苦しい…」
バシバシと爺ちゃんの背中を叩くが、高齢吸血鬼の割に身体が締まっているのか叩いた俺の手の方が痛む
「ああ、すまん。つい…しかし身体つきが細いな…………椿と変わらぬでは無いか、ちゃんと食べているのか?」
抱き締めてた体が離れ視線を俺に合わせ、腕や顔を触ってくる
「普通だよ。爺ちゃんは意外に何か…筋肉がみっちりしてるね。吸血鬼って何となく細いイメージだったけど個体差があるの?」
「個体差はあるが…やはり弛んでるより締まった方が良いだろう?妻にダラけた腹なぞ見せたくないからな、持論ではあるが男は一生格好つける生き物だろ?」
フフン!と鼻息荒く爺ちゃんが喋る
「でもさ…爺ちゃん肌白いじゃん」
「ん?な、何だ…肌がどうした?」
「色白のムキムキって…何か怖くない?」
真夏のビーチより真夏のホラーゲーム寄りな気がする
「色白では駄目なのか?!」
爺ちゃんが俺の肩を揺する。不服らしい。
「んー、健康的な…小麦色のムキムキなら…」
(爺ちゃんの肌色が白すぎて不健康感がどうしても抜けないんだよな…)
「無理無理!!肌焼けないし?!ジワジワ弱体化しちゃうから!!小麦色は物理的に無理!!紫外線良く無い!!」
「えー、小麦色の爺ちゃん格好いいと思うけどな…残念」
(白い髪白い牙にサングラス…そして小麦色の肌…………吸血鬼の倫理観を消し去る夏場のビーチに居そうなイケイケちょい悪爺ちゃん…そんな吸血鬼居たら面白くないか?多分直射日光ガンガンに浴びて本人瀕死状態だろうけど)
「そ、そんなに焼けた肌が良いのか…世は美白の時代では無いのか?」
爺ちゃんは余程ショックだったのか、口に手をあてよろめきながら数歩後ろに下がる
「確かに。言われてみれば爺ちゃん美白だね。病的に白いからなりたいとは思わないけど…」
「男性でもシミ・ソバカス等肌の老化には気を使わねばな。…………さてナイーブな肌の話はもう止めよ、夜も更けてきた頃だし私は外出するからもう寝なさい。」
肌の弾力を確かめるように頬を指で突かれる
(爺ちゃん!爪!爪めっちゃ刺さる!肌の話気にしてるじゃん!!根に持ってたんか?!)
爺ちゃんの鋭利な爪に反応して鳥肌がブワッと出る。そのまま突き刺さって血が出たら怖いので爺ちゃんの手を阻止するようはらう。
彼の爪は普通に凶器だ。
爺ちゃんはションボリした顔で渋々引き下がってくれた
「今から外出するの?」
「既に私の活動時間内だからな。朝までには用事を済ませないといけない。家の鍵は外からかけておくから誰か訪ねに来ても絶対に開けてはならんぞ。返事もしなくていい。…心配せずとも日の出までには戻る」
白い手が布団を捲り、さあさあ…とベッドに身体を詰められ布団をかけられ寝かし付けられた。
寝室の明かりが消され、廊下の灯りが視界に少しだけ入ってくる以外は視界は真っ暗だ。
ガチャリと鍵がかかる音がしてからどのくらいの時間が経っただろう。
俺と同じ…異世界転生者と住んでた吸血鬼。
助けてくれたんだし、良い吸血鬼だとは思うけど…
それよりも
こっちの世界で死んだら…俺も椿さんみたいに消えるんだろうな…って考えると、身体がブルッと震える。
死んだら元いた世界に戻れるが、此方の世界では存在自体が消えてしまう…きっと椿さんの場合の爺ちゃんのように近くに居た誰かの記憶にしか残らないのだろう。
(遺体すら残らず、椿さんとの思い出だけで長い月日を生きている爺ちゃん…もし俺がこの世界で死んだら…同じ様に俺も誰かの心に残るのだろうか…)
「寒いな…」
暗い部屋で1人、身体を縮め丸まる
「爺ちゃん早く帰ってこないかな…」
瞼を瞑り布団に潜る。
今は…誰でもいいからそばに居て欲しい。自分以外の温もりを感じて眠りたい…そう思わせる夜の寒さだった。
ブワッと冷たい空気が一気に入り込み、寝ぼけたままの身体がぶるりと震える
「?!」
「お、すまん。起こしてしまったか」
「ん……爺ちゃん?……お帰り…」
寒かったのは爺ちゃんが布団を捲りベッドに入ってきたからだった
「…………ただいま。まだ早朝だ、寝てなさい」
彼の手が俺の前髪を掻き分ける
「ん…」
それが気持ちいいのとまだ寝ていたい気持ちが合わさり微睡みながら頭を枕に沈める
「おやすみ。良い夢を…」
身体に他人の重みを感じて安心したように段々と目蓋が下がり、俺はまた眠りについた
次に目が覚めたときも部屋は暗いままだった
「何時だろ…」
布団を頭まで被って寝てる爺ちゃんを起こさないようゆっくりと布団から出る
「時計は何処だ?…………暗くてわからん、取り敢えずキッチンに行って水でも貰おうかな…」
所々ランプのついた廊下を歩く。
「ちょっとだけ外見ちゃおぅ…ここなら寝室から距離あるし、爺ちゃんに光は当たらないよな」
廊下の窓に掛かっていたカーテンを少し開け頭を突っ込む
「少し日が出てるけど…霧か」
周りが木に囲まれているので判別しにくいが木々に少しだけ光が差し込んでボンヤリとした陰影をつけている
昨日の雨のせいか木々の間には白いモヤが鬱蒼とした森全体にかかる
「…………ホラー映画の、屋敷に人が集められて犯人に次々殺されてくやつじゃん…」
薄気味悪い森だ。殺人鬼とか出てきそうな…………まあ、吸血鬼はベッドで寝てるけどな。
カーテンを元に戻し1階へ行く為階段を降りていく
「気を付けないと…下手したら踏み外して死にそう…」
足元があまり見えない階段をゆっくり、着実に手摺に掴まりながら降りていく
「…と、キッチンは何処だ?」
階段を降り終え眼前には玄関。玄関の扉から視線を移し右側へと進む
「玄関から真っ直ぐ行けば何か有るだろ」
ペタペタと壁に手を付けながら真っ直ぐ進む
「あった!キッチン…………あ、今6時か…」
辿り着いた場所で蛇口を発見する
そこはダイニングキッチンになっており壁には時計が掛かっていた
クゥゥ…俺の腹がなる
「うっ…………お腹減ったな…昨日1食しか食べてなかったから…」
肌触りのいいガウン生地の上から腹を撫でる
獣に追っかけられ必死だったし、その後は貧血だったりで食欲なんて気にならなかったが安心したからかお腹が空腹でシクシク痛む気がする
「…………何か作るから待ってなさい…」
「?!爺ちゃん?」
後から小さく掠れた声が聞こえ驚く
振り返ると目をショボショボさせて白い髪があっちこっち跳ねている如何にも眠たそうな爺ちゃんが俺の横を通過してキッチンに入ってく
「爺ちゃん…おはよ」
「ん…」
一応挨拶はしたが爺ちゃんはかなり眠たそうで返事も漫ろだ
「爺ちゃん…俺も何か手伝おうか?」
フライパンをコンロに出し火を付けてる爺ちゃんに話し掛ける。
手元のフライパンを傾けて油を全体に広げている彼の目はほぼ閉じていた
「ん?…………いや、いいから向こうで座ってなさい。水が飲みたいならそこら辺の適当なグラスを使ってくれ」
「分かった…」
蛇口を捻りグラスに水を注ぎテーブルへ向かう
テーブルには椅子が4脚ある
(爺ちゃんはいつも何処に座ってるのかな?)
テーブルの上には何も無くスッキリしている
窓はカーテンで閉められており何も見えない
俺はキッチンにいる爺ちゃんが見える場所に座ることにした
ジュッ
何かが焼ける音と匂いがする
爺ちゃんの身体が右左へ動いては戻る
俺はまた眠くなって腕を枕にしてテーブルに突っ伏した
「大丈夫か。気分でも悪いか?」
肩を軽く叩かれ意識が浮上する
鼻先に食欲をそそるいい匂いがして寝ぼけて開けた口から出た涎がテーブルに落ちそうだったので慌てて手で拭う
「…少し寝てただけ…んわぁ!…朝ごはんだぁ…」
俺の前には左手側には白米、右手側には味噌汁、真ん中に鮭の塩焼きっぽいヤツ、その先に玉子焼き、右端に野菜の和え物、左端に煮物が置いてあった
「わ…和食だ…!全部爺ちゃんが作ったの?!」
「ああ…料理は妻と一緒に作っていたから多少は出来る。まあ、自分しか食べないから最近は適当だったがな…」
爺ちゃんは俺の左斜め前に座り、眉間に皺を寄せ目を閉じ腕を組みながら会話する。
朝食は俺の分だけ作ってくれたみたいで爺ちゃんの前には飲み物すら置かれて無い。
彼の白い髪がぴょこぴょこと身体と一緒に前後に揺れて、だいぶ眠そうだ。
「爺ちゃん、眠い?俺食べたらちゃんと片付けるから寝てて大丈夫だよ?」
「ん?…………ん…」
声を掛けると一瞬だけ薄く目が開くが、すぐに閉じる
「…………爺ちゃん?」
「…………」
返事は無く彼は目を瞑り下を向いたままだ
「寝ちゃったの?」
「…………」
爺ちゃんの胸がゆっくりと上下している
どうやら腕を組み、椅子に座ったまま寝てしまったようだ。
「爺ちゃん。」
トントンと肩を叩くが眠りについた彼は起きる気配がない
「運べ…………無いな。取り敢えずご飯食べてからまた声かけるか」
爺ちゃんはガッシリとした身体つきなので、とてもじゃないが俺一人では運べ無さそうだ…先に朝ごはんを食べてしまおう。
食べ物はやはり温かいうちに食べたいものだ。
「美味しい…!!」
米の甘み、味噌汁の塩味…懐かしい旨味が身体に染み渡る。
この世界に来てから焼いた肉やサンドイッチのようなシンプルな味付けばかり食べていたので日本食は有り難かった。
何より単純に白米が美味い。やはり日本人には米だ。身体が米を欲してる。
絶対に、起きたら体バキバキになるであろう格好で寝てる爺ちゃんに感謝しながら俺は朝食を次々と口に運ぶ。
やっぱ日本食は最高だな。
最も彼の話はほぼ愛妻トークだ。
彼の名は「クロード」と言い何百年と生きている御長寿隠居吸血鬼らしい。
老夫婦とは彼等が若い時からの知り合いで、歳を重ねても自分に普通に接してくる警戒心の無い老夫婦を心配していた。
「まったく…人間は危機感がなさすぎる…こんな獣も出る山の中よりも街に住めばいいものを…襲われてないかと気になって敷地内を巡回する羽目になった…」彼は腕を組み困り顔で話す
「じ…クロードさんは吸血鬼だから日光が苦手なんですか?」
「確かに日光は吸血鬼にとってよくないが、即死する程では無い。首を跳ねたり心臓を潰しせば死ぬだろうが…それは人とて同じだろう?私は目が悪くてな。光源が強いと目が見えなくなってしまうのだよ。まぁ、その分、夜目は利くんだがな。」彼が目元を擦り長いまつ毛が震える
「じ…クロードさんって、主食はやっぱ…血ですか?一般食も食べられるって言ってましたけど…」
「…………まあ、血液が1番ではあるが、毎日摂取する必要はない。それに私は妻の手料理のお陰で他の吸血鬼よりも大分人間寄りの味覚になったな。米と汁物とおかずで普通に満足出来るので人を襲う気は起きん。」
「何か…庶民的…じ、…………じゃなくてクロードさんは…」
「先程から『じ』と出るが何だ?何か言いたいことがあるなら言いなさい。」
訝しむ眼差しを向けられる。
まあ、無理もない
「あっ……………その…怒りません?」
掛け布団をもじもじ揉みながら上目遣いでクロードさんを見る
「?怒るようなことなのか?」
「…………人によっては…かな?」
「よい。言いなさい」
「あの…助けていただいて大変失礼とは思いますが…………その…発言とか年齢とか……髪色とかが…何て言うか…………その……………爺ちゃんみたいで…」
「爺…………」
クロードさんが口を開け呆然と呟く
「す、すみません!つい親戚の爺ちゃんみたいで懐かしくなって…………夏や冬休み位しか会えないから…急に思い出しちゃって…失礼ですよね!ごめんなさい!!本当にごめんなさい!!お詫びに血差し出しますんで許して下さいお願いします!」
ガバッと首筋のガウンを両手で開ける。どうぞ吸って下さい!!と彼に身体を傾ける
俺なりの謝罪パフォーマンスだ。
「いや、よしなさい。そう簡単に他人に素肌を晒すものでは無い。」
サッと素早く首元の開けたガウンを閉じられる
「爺…か。成程。椿と私の間にも子を成せれば君みたいな孫が出来ていたかも知れないな。」
ポンポン…クロードさんの白い手が俺の肩を優しく叩く
「良い良い。君は私と椿の可愛らしい孫としよう。私のことは爺なり何なり呼ぶといいさ。」
肩に置いてた手が俺の背中に回り抱き締められる
(エェ…怒られはしなかったけど…受け入れられちゃったよ…どーしよ…)
行き場のない俺の手が彼の横で浮く
彼の胸に顔を埋められながら次の行動をどうするべきか考える
「フハハ…初孫じゃ。子は成せなんだが孫が出来た…………生きてみるものだなぁ…」
彼は一瞬悲しそうな目をしたが直ぐに笑った
(クロードさんは、奥さんが亡くなって何年此処に1人で住んでたんだろう…こんなにも愛妻家な彼がずっと1人で……………)
勝手な意見だが俺はその時、クロードさんの事を可哀想だと思ってしまったんだ
だから
少しでも彼の希望に応えてあげたかった
宙に漂っていた手をクロードさんの背中にそっとまわし恥ずかしくて弱々しくなった力で抱き締め返す
「じ、爺ちゃん…………ふつつかな…孫ですが…よろしく…ね」
「…………アハハハハ!!!!今更恥ずかしがっても遅いわ!!」
俺を抱く腕に力が籠もる。
「うぐぅぅ…爺ちゃん…苦しい…」
バシバシと爺ちゃんの背中を叩くが、高齢吸血鬼の割に身体が締まっているのか叩いた俺の手の方が痛む
「ああ、すまん。つい…しかし身体つきが細いな…………椿と変わらぬでは無いか、ちゃんと食べているのか?」
抱き締めてた体が離れ視線を俺に合わせ、腕や顔を触ってくる
「普通だよ。爺ちゃんは意外に何か…筋肉がみっちりしてるね。吸血鬼って何となく細いイメージだったけど個体差があるの?」
「個体差はあるが…やはり弛んでるより締まった方が良いだろう?妻にダラけた腹なぞ見せたくないからな、持論ではあるが男は一生格好つける生き物だろ?」
フフン!と鼻息荒く爺ちゃんが喋る
「でもさ…爺ちゃん肌白いじゃん」
「ん?な、何だ…肌がどうした?」
「色白のムキムキって…何か怖くない?」
真夏のビーチより真夏のホラーゲーム寄りな気がする
「色白では駄目なのか?!」
爺ちゃんが俺の肩を揺する。不服らしい。
「んー、健康的な…小麦色のムキムキなら…」
(爺ちゃんの肌色が白すぎて不健康感がどうしても抜けないんだよな…)
「無理無理!!肌焼けないし?!ジワジワ弱体化しちゃうから!!小麦色は物理的に無理!!紫外線良く無い!!」
「えー、小麦色の爺ちゃん格好いいと思うけどな…残念」
(白い髪白い牙にサングラス…そして小麦色の肌…………吸血鬼の倫理観を消し去る夏場のビーチに居そうなイケイケちょい悪爺ちゃん…そんな吸血鬼居たら面白くないか?多分直射日光ガンガンに浴びて本人瀕死状態だろうけど)
「そ、そんなに焼けた肌が良いのか…世は美白の時代では無いのか?」
爺ちゃんは余程ショックだったのか、口に手をあてよろめきながら数歩後ろに下がる
「確かに。言われてみれば爺ちゃん美白だね。病的に白いからなりたいとは思わないけど…」
「男性でもシミ・ソバカス等肌の老化には気を使わねばな。…………さてナイーブな肌の話はもう止めよ、夜も更けてきた頃だし私は外出するからもう寝なさい。」
肌の弾力を確かめるように頬を指で突かれる
(爺ちゃん!爪!爪めっちゃ刺さる!肌の話気にしてるじゃん!!根に持ってたんか?!)
爺ちゃんの鋭利な爪に反応して鳥肌がブワッと出る。そのまま突き刺さって血が出たら怖いので爺ちゃんの手を阻止するようはらう。
彼の爪は普通に凶器だ。
爺ちゃんはションボリした顔で渋々引き下がってくれた
「今から外出するの?」
「既に私の活動時間内だからな。朝までには用事を済ませないといけない。家の鍵は外からかけておくから誰か訪ねに来ても絶対に開けてはならんぞ。返事もしなくていい。…心配せずとも日の出までには戻る」
白い手が布団を捲り、さあさあ…とベッドに身体を詰められ布団をかけられ寝かし付けられた。
寝室の明かりが消され、廊下の灯りが視界に少しだけ入ってくる以外は視界は真っ暗だ。
ガチャリと鍵がかかる音がしてからどのくらいの時間が経っただろう。
俺と同じ…異世界転生者と住んでた吸血鬼。
助けてくれたんだし、良い吸血鬼だとは思うけど…
それよりも
こっちの世界で死んだら…俺も椿さんみたいに消えるんだろうな…って考えると、身体がブルッと震える。
死んだら元いた世界に戻れるが、此方の世界では存在自体が消えてしまう…きっと椿さんの場合の爺ちゃんのように近くに居た誰かの記憶にしか残らないのだろう。
(遺体すら残らず、椿さんとの思い出だけで長い月日を生きている爺ちゃん…もし俺がこの世界で死んだら…同じ様に俺も誰かの心に残るのだろうか…)
「寒いな…」
暗い部屋で1人、身体を縮め丸まる
「爺ちゃん早く帰ってこないかな…」
瞼を瞑り布団に潜る。
今は…誰でもいいからそばに居て欲しい。自分以外の温もりを感じて眠りたい…そう思わせる夜の寒さだった。
ブワッと冷たい空気が一気に入り込み、寝ぼけたままの身体がぶるりと震える
「?!」
「お、すまん。起こしてしまったか」
「ん……爺ちゃん?……お帰り…」
寒かったのは爺ちゃんが布団を捲りベッドに入ってきたからだった
「…………ただいま。まだ早朝だ、寝てなさい」
彼の手が俺の前髪を掻き分ける
「ん…」
それが気持ちいいのとまだ寝ていたい気持ちが合わさり微睡みながら頭を枕に沈める
「おやすみ。良い夢を…」
身体に他人の重みを感じて安心したように段々と目蓋が下がり、俺はまた眠りについた
次に目が覚めたときも部屋は暗いままだった
「何時だろ…」
布団を頭まで被って寝てる爺ちゃんを起こさないようゆっくりと布団から出る
「時計は何処だ?…………暗くてわからん、取り敢えずキッチンに行って水でも貰おうかな…」
所々ランプのついた廊下を歩く。
「ちょっとだけ外見ちゃおぅ…ここなら寝室から距離あるし、爺ちゃんに光は当たらないよな」
廊下の窓に掛かっていたカーテンを少し開け頭を突っ込む
「少し日が出てるけど…霧か」
周りが木に囲まれているので判別しにくいが木々に少しだけ光が差し込んでボンヤリとした陰影をつけている
昨日の雨のせいか木々の間には白いモヤが鬱蒼とした森全体にかかる
「…………ホラー映画の、屋敷に人が集められて犯人に次々殺されてくやつじゃん…」
薄気味悪い森だ。殺人鬼とか出てきそうな…………まあ、吸血鬼はベッドで寝てるけどな。
カーテンを元に戻し1階へ行く為階段を降りていく
「気を付けないと…下手したら踏み外して死にそう…」
足元があまり見えない階段をゆっくり、着実に手摺に掴まりながら降りていく
「…と、キッチンは何処だ?」
階段を降り終え眼前には玄関。玄関の扉から視線を移し右側へと進む
「玄関から真っ直ぐ行けば何か有るだろ」
ペタペタと壁に手を付けながら真っ直ぐ進む
「あった!キッチン…………あ、今6時か…」
辿り着いた場所で蛇口を発見する
そこはダイニングキッチンになっており壁には時計が掛かっていた
クゥゥ…俺の腹がなる
「うっ…………お腹減ったな…昨日1食しか食べてなかったから…」
肌触りのいいガウン生地の上から腹を撫でる
獣に追っかけられ必死だったし、その後は貧血だったりで食欲なんて気にならなかったが安心したからかお腹が空腹でシクシク痛む気がする
「…………何か作るから待ってなさい…」
「?!爺ちゃん?」
後から小さく掠れた声が聞こえ驚く
振り返ると目をショボショボさせて白い髪があっちこっち跳ねている如何にも眠たそうな爺ちゃんが俺の横を通過してキッチンに入ってく
「爺ちゃん…おはよ」
「ん…」
一応挨拶はしたが爺ちゃんはかなり眠たそうで返事も漫ろだ
「爺ちゃん…俺も何か手伝おうか?」
フライパンをコンロに出し火を付けてる爺ちゃんに話し掛ける。
手元のフライパンを傾けて油を全体に広げている彼の目はほぼ閉じていた
「ん?…………いや、いいから向こうで座ってなさい。水が飲みたいならそこら辺の適当なグラスを使ってくれ」
「分かった…」
蛇口を捻りグラスに水を注ぎテーブルへ向かう
テーブルには椅子が4脚ある
(爺ちゃんはいつも何処に座ってるのかな?)
テーブルの上には何も無くスッキリしている
窓はカーテンで閉められており何も見えない
俺はキッチンにいる爺ちゃんが見える場所に座ることにした
ジュッ
何かが焼ける音と匂いがする
爺ちゃんの身体が右左へ動いては戻る
俺はまた眠くなって腕を枕にしてテーブルに突っ伏した
「大丈夫か。気分でも悪いか?」
肩を軽く叩かれ意識が浮上する
鼻先に食欲をそそるいい匂いがして寝ぼけて開けた口から出た涎がテーブルに落ちそうだったので慌てて手で拭う
「…少し寝てただけ…んわぁ!…朝ごはんだぁ…」
俺の前には左手側には白米、右手側には味噌汁、真ん中に鮭の塩焼きっぽいヤツ、その先に玉子焼き、右端に野菜の和え物、左端に煮物が置いてあった
「わ…和食だ…!全部爺ちゃんが作ったの?!」
「ああ…料理は妻と一緒に作っていたから多少は出来る。まあ、自分しか食べないから最近は適当だったがな…」
爺ちゃんは俺の左斜め前に座り、眉間に皺を寄せ目を閉じ腕を組みながら会話する。
朝食は俺の分だけ作ってくれたみたいで爺ちゃんの前には飲み物すら置かれて無い。
彼の白い髪がぴょこぴょこと身体と一緒に前後に揺れて、だいぶ眠そうだ。
「爺ちゃん、眠い?俺食べたらちゃんと片付けるから寝てて大丈夫だよ?」
「ん?…………ん…」
声を掛けると一瞬だけ薄く目が開くが、すぐに閉じる
「…………爺ちゃん?」
「…………」
返事は無く彼は目を瞑り下を向いたままだ
「寝ちゃったの?」
「…………」
爺ちゃんの胸がゆっくりと上下している
どうやら腕を組み、椅子に座ったまま寝てしまったようだ。
「爺ちゃん。」
トントンと肩を叩くが眠りについた彼は起きる気配がない
「運べ…………無いな。取り敢えずご飯食べてからまた声かけるか」
爺ちゃんはガッシリとした身体つきなので、とてもじゃないが俺一人では運べ無さそうだ…先に朝ごはんを食べてしまおう。
食べ物はやはり温かいうちに食べたいものだ。
「美味しい…!!」
米の甘み、味噌汁の塩味…懐かしい旨味が身体に染み渡る。
この世界に来てから焼いた肉やサンドイッチのようなシンプルな味付けばかり食べていたので日本食は有り難かった。
何より単純に白米が美味い。やはり日本人には米だ。身体が米を欲してる。
絶対に、起きたら体バキバキになるであろう格好で寝てる爺ちゃんに感謝しながら俺は朝食を次々と口に運ぶ。
やっぱ日本食は最高だな。
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