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君への贈り物

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外は強雨、雷が轟き強風に煽られた木々がバキバキと折れる音がする

ワタシは…大きな屋敷の
照明が消えた真っ暗なベッドで
この屋敷の主人の上に跨って腰を振っている。

素敵、美しい、艶やか、アバズレ、ビッチ…何と言われようがワタシには気にならない
何故ならこの行為は食事なのだから。
私達が存在する為の行為。
人間だってお腹が空いたら食べるでしょ?
だから食べるの…人から…生気を。
一番簡単で効率が良い。
相手も気持ち良くなれるし、ワタシはお腹が膨れる。
つい気まぐれで子供なんか作ってしまったけど

ワタシは母親には向かないわ。
だってワタシは淫魔ですもの。

雷雨の音に怯え自分の部屋を飛び出し
母と一緒に寝たいと枕を持って私達の寝室のドアに手を掛けて
驚愕の眼差しで私達の行為を見ている我が子がドアに居るのを知りながら
ワタシは自分の食事を優先し子供を無視して
屋敷の主人の上で喘ぎ跳ねている

そんなの母親では無いでしょ?
ワタシはただの独りのメス。
子供なんて育てられる訳がないし、育て方も分からない

だからワタシは手放した。
あの子はワタシを恨んで当然ね。
母親らしい事なんて何一つとしてしてこなかったのだから。 





「あらまぁ。ワタシのうっかりさん!」
テヘっ
どうやら馬車に鞄を忘れてきてしまったらしい。
「今から戻っても…ま!旦那様が回収してくれてるだろうし、きっと後で持って来てくれるでしょう!たぶん!」

大丈夫。あの人はそういう人だから。
文句を言いながらも来てくれる人。
でなければワタシは貴方の側に居なかった。
真面目で器用貧乏で少し抜けていて何時も眉間に皺を寄せている

「旦那様お見合いどうなったかしら?あの朴念仁の事だから相手の話まったく聞いてなさそう…………フフッ」

目を半目にしながら紅茶を啜り話を右から左へ流す旦那様を想像して笑う。

彼の執事長は旦那様に見合い来ると断りを入れていた。
最初の頃ワタシは何故本人に見せる前に断るのか聞いたが、
『相応しい方では無い為』と言って返された
選んでいたらお爺ちゃんになっちゃいますよ!と言ったら
『それでも構わない。』
執事長はワタシを見て
『貴女が居るから。』
と笑って言った。
「ワタシ転職するかも知れないじゃないですか~このご時世」
『おや、それは困りますなぁ…ハハ』
執事長は、こりゃ参った!と薄くなった頭をペチンと叩いた



「あれ?ルージュさん?何で此処に?」
受付にいる筋肉質の男性が驚いた様子でワタシに聞く。
「宿泊したいのですが。部屋は空いてますかしら?」
ちょっと待ってね…と紙を見る
「開いてるよ。部屋はどこでも良いかい?」
「出来ればエデちゃんの近くが良いのですが…………」
【エデ】
その単語が出た時男性が一瞬止まった

「え?あ、ああ…わかった。じゃあコレかな?」
「有り難う御座います」
男から部屋の鍵を貰う

「にしても何で宿に泊まるん?こっちの屋敷にハインリヒ様居るんだろ?一緒じゃないの?」
「メイド同士の確執とか、男性兵士の眼がありまして…」
嘘だが適当に答えて濁らせた。
「へー美人も大変だな。」
ガハハハと豪快に笑うとても気さくで人当たりのいい男。

だが、この男からはエデの香りがする。

ワタシは鼻が利く

効率よく食事にありつく為に性欲が昂ぶっている人間を匂いで判別出来るのだ
それと、性的行為をした人間が発する匂いにも敏感だ
つまり

この男はあの子に欲情し性的接触をした事が有る。

以前、男に会った時はそんな匂いはしなかったのに…
(あの子がこの男にこれ以上何かされない様に…………ワタシが此処で…………)


ワタシは目の前の男の手を取る
「?!」
突然手を握られ驚く男、顔も赤い
「ワタシ…旦那様と離れて心細くて…」
身体をしならせ密着させる
「え?!何?!」
男は慌てだす
「アナタみたいな素敵な男性が居てくれると心強いですわ♡」
男の厚い胸板に自分の胸を押し付ける
「まっ!!?!どしたの!メイドさん?!」
離れようと身を引く男
ワタシは男の逞しい腕に手を絡め
「アナタ…今、良い人いるの?」
と囁いた


彼はワタシの手を掴み… 
ワタシに…


「ただい……………兄ちゃん…と…………ルージュさん?」

ワタシの後方から
あの子の声がして振り返る


(ああ、またやってしまった……どうしてワタシはこうなのだろう………)


視線の先の私達を見るあの子の瞳は
あの日ワタシが見捨てた我が子と同じ目をしていた。


ワタシと男がそのままの状態で固まる

「あっ…………エデちゃん」
「エデ…」

やっと絞り出した2人の声は掠れていた。


私達を見るあの子の眼が一瞬動いた。

「た、ただいま!ルージュさんどうしたの?1人?ハインリヒさんは?」 

あの子は何事も無かったかのように努めて明るく喋りワタシに駆け寄る

「あ、旦那様は弟君のお屋敷におりますよ。ワタシは此方で宿泊しようかと…」
「やったぁ!ルージュさんと一緒だ!遊びに行ってもいい?」
「ええもちろん。近くの部屋を取りましたので」
「じゃあ行こっ!俺荷物持つよ!」
ワタシの荷物を持ち早足で横を通り抜ける

硬直する男の方を見ずに。

「エデっ!!」
男はあの子を呼ぶが振り返らないで階段へ行ってしまう
「エデ……………………」
一階からは小さくあの子を呼ぶ男の声がした


タタタタ…
ルージュさんの荷物を持って走る
俺を呼ぶランド兄ちゃんの声は無視した
何故か胸が締め付けられる様に痛い

「エデ。行き過ぎよ。」
ポンとルージュさんに肩を叩かれる
「あっごめんなさい」
どうやら部屋を通り過ぎてしまった様だ
「荷物、運んでくれてありがとう。」
ルージュさんが笑顔で言う

俺も笑顔で応えた…………はず。




「エデ……元気がないですね。どうかしました?お腹が減りましたか?」
ファズが俺に尋ねる
「ううん。大丈夫。あっ!ルージュさんの事紹介するの忘れてた。」
「どこかで会ったらで良いですよ。今日は友人と遊んで疲れたでしょう?」

「…!…………うん。そうだね」
ドリーとの行為を思い出して顔が熱くなる。

「そろそろお風呂にしましょうかね?」
「あ、うん。一応ルージュさんにも声掛けてくるね」
部屋から出てルージュさんの所へ行く

ファズは『男性が女性の部屋に行くのはチョット…………着替えてたら悪いし』との理由で先に行ってしまった。
ルージュさんも『まだ荷解きが終わってないので後にします』だって…
俺は1人で階段を降り男風呂へ向かう

「おわっ!」
「わっ?!」
廊下を歩いてると右から来たランド兄ちゃんとぶつかりそうになった

(気まずい…………)
空気が重い。
「わりぃ……エ」
「ごめん…!」
俺は謝罪の言葉だけ残して風呂へ走る
『エ』
ランド兄ちゃんは何か続きを話そうとしてたが、俺が遮って逃げた
話の先が聞きたくなかった。

そして俺はランド兄ちゃんから逃げて逃げて
避け続けて3日も経つ


その間に宿に何故か怒り気味のハインリヒさんが来て
鞄の中から紫色の容器を取り出し俺に渡した。

「何これ?」
「ボディクリームだ。少しつけてみなさい」
男の俺にボディクリーム?
?って顔をしていると痺れを切らしたハインリヒさんに容器を取られ片方の手を引っ張られる
ハインリヒさんの横から
「やだ旦那様、強引!」と声が上がる
ハインリヒさんは俺の掌を上にして下に自分の手を添えた
トロッ
乳白色の液体が少しだけ流れて掌の中央に寄る
(ボディクリームよりミルクっぽいな……トロッとしてる…)


指先に少しつけてみる
「…………!!!!」
空気に香りが混ざり漂う…この香りは…
懐かしい香りに肌に鳥肌が立つ
!!
勢いよくハインリヒさんを見る
彼はうっすら微笑んでいた。

ハインリヒさんの手から離れ掌を自分に引き寄せる
乳白色の液体の香りを嗅ぐ
「っ!…………これ…………俺の……好きな香り………」
「そうか。それは良かった。」
ハインリヒさんの声は穏やかで優しかった



あの人の香りがする。
あの人は毎日手入れのため外の薔薇園に行っていた。
帰ってきた時に抱き締められるとその匂いがして好きだった、外に出られなかったから余計に


鼻の奥がツンとなる

俺は自分の腕に涙を落した。



「コレは君のために作ったものだ、遠慮無く貰ってほしい。」
「ありがとうございます。大切に使います」
俺は紫色の容器を落とさないよう握りお礼を言う

ハインリヒさんも隣に居るルージュさんも微笑んでいた。
とても嬉しかったけど、この場に彼が居ないのが悲しかった。
彼に会ったら話がしたい。
今までの分も…たくさん。




宿屋の前に立ち、振り返る二人に手を振る。
ハインリヒさんはルージュさんの荷物を持っててあげている。
やっぱりルージュさんにはハインリヒさんが1番しっくりくる。


(あの時ランド兄ちゃんとルージュさんは何を話していたんだろう…)

俺はランド兄ちゃんを避け続けたままルージュさん達を見送った。

そう言えば
お見合いは案の定破談になったらしい。

ルージュさんはお見合いについて最初から気にして無さそうだったし、ハインリヒさんも普通通りだった。
(心配にならないのかな…………)


俺は、それが大人の考えなのだと自分自身に無理矢理納得させ二人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。






ガンッ!!
ビールのグラスを乱暴に置いた

「オイオイ……大丈夫か?」
後ろに立った奴に強めに肩を叩かれる
「うっせ!大丈夫じゃねぇよ!!」
俺はヤケになって答える
「ったく……奥で1人寂しく飲んでたから声掛けてやったのにコレだよ。」
「別に俺は独りで飲みたかったの!お前なんてよんでねーよ!チキショー!!」
「本当にどうしたんよ最近。合コンに誘っても来ねーし、かと思えば珍しくヤケ酒してるし…」

友人が隣の椅子を引いた。
「何かあんなら話聞くぞ?」
その一言が癪に触る
俺は眉を吊り上げ眉間に皺が寄るのを感じる

グッ!
ビールを傾け
ゴクゴクッ!!
一気に喉に流し込む
ガンッ
「ぷはぁっ!」
また乱暴にグラスを置く
マスターにもう1本と指差す
彼は呆れ顔だったが入れてくれた

「…………あのなぁ…」
俺は隣の男の顔を睨む
「お前が!あんなの渡すから!!思いっ切り避けられちまったじゃねーか!!!!」

「……………………」

ガヤガヤと賑やかなバーが俺の怒号で静まり返る。
皆、何事だ?喧嘩か!!?!とチラチラ見てくる

「え!?」

友人は突然大声を出され一瞬何を言われたか理解出来てないみたいでポカンとしていた

「クソが!!」
何杯目か分からないビールに手を付ける

「えっと?…ランドお前…彼女出来たってこと?」
「ちげぇよ」
「?じゃあ…………良いと思ってた子に箱見られた?」
「…………見られたし…使った」

「使った!!?!」
友人が驚いて大声を出す
また注目が集まる

「使ったなら…………恋人じゃん?え?プレイが下手過ぎて嫌われたってこと?」
「違う!!…………と思う。気持ち良いって言ってたし…」
俺は語尾が細くなる
「じゃあ意識しだして余所余所しくなった…………のかな?」
「余所余所しいってよりも完全に避けられてる!最近まともに会話すら出来無い…ツラい」

ガンッ!!
俺は頭をカウンターにぶつける
結構キているのである。

とうとう辛さに耐え切れず俺は酒の力に頼る為久々にバーに来た。
何だかんだ色々あったから久々で散々合コンやら普通の飲み会とかで来てた場所なのに少し懐かしく感じた。

「う~ん。関係修復出来ないなら次の恋探したほうがいいんじゃないか?」
「ばっ!!?!…………そうかもな。…」
一瞬『馬鹿野郎!!』と言ってしまいそうだったが踏み止まった、確かにそれも一つの案だ。

「お前ずーと此処で飲んでる間、何回か女の子に声掛けられてたろう?どれか行っちまえばいいんじゃねぇか?」
確かに飲んでる間何人かに声を掛けられたが皆断った。
独りで飲みたかったし…
あの子の代わりが務まるとは思わなかった。

「全部断った」
「あちゃ~!まあ、断っちまったんならしょうがない。次の合コンセッティングしてやるから期待して待ってろよ!」
「別にいい」
「そんなこと言うなよ!ボン・キュッ・ボン!な女の子集めっからさ!な?元気だせ!!」
パァン!!
肩を叩かれる。
「イテェ!この筋肉ダルマ!!」
友人は俺を叩いた手をぶんぶん振っていた
知るか、もっと鍛えろ。


「気をつけて帰れよ!」
「おー」
相手を見ずに手をあげてバーを後にする


夜風に当たりながら歩いて帰る
最近は空気が冷えてきたから酔気覚ましには丁度いい




『アナタ…今、良い人いるの?』
そう言ったメイドの言葉を思い出す。


あの後すぐエデが来てしまったから、彼女にちゃんと伝わっていたかは分からないが…

俺はあの時ハッキリと言ったんだ






「好きなヤツならいる」

って。





















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