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才能の兄と運だけの弟。
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-では、行ってきます。-
そう言ってまた1人子供が巣立ってゆく。
〈ああ、また1人私達の手から離れて危ない他の世界に行ってしまったわ〉
[なんだい?寂しいのかい?]
〈当り前よ。私達の可愛い子供よ?心配するのは当然でしょう?〉
[しかし、これもまた経験。そうしてあの子達も大人になってゆくのだから]
〈理解はしているわ。でも子供はいつまで経っても子供なの!だって私は子供達の母親なのだから。〉
[ふふ。過保護な母親だね。そして私は放任主義な父親だ。]
〈貴方は子供に興味が無いんだわ!まったく!…………私達にも子供が作れれば多少は気持ちも変わるかしら。〉
[またその話しかい?仕方がないよ私達は一つなのだから。向かい合うことすら適わないのに、子供だなんて夢のまた夢さ。]
〈ええ。そうね。私達は背中が一緒の面と面。辛うじてお互いの手は重ねられるけれど、口付けも出来やし無いわ。〉
[声も身体もこんなに近いのに]
〈ああ。でも、やはり私、子供が欲しいの〉
[私だって貴女との子供は欲しいさ、でも…]
〈だから私ね考えたの!……………産めなければ、創れば良いって!貴方もこれなら父親になれるわ!〉
[創る?考えもしなかった、それは良い考えだ。…………2人で親になろう!]
〈ええ。私、やっと母になれるわ。ずーと自分達だけの子供が欲しかったの!〉
いつも外の世界に旅立つ子達を見ているだけなんて嫌だったの
生きている全てが愛おしい。その気持ちは変わらない。ただ、特別な存在が出来ただけ。
あなた達にとっては普通の事、でも背中合わせな私達には出来無いこと。
嗚呼!私達の愛し子よ。私はあなたを愛します。今迄で見送ったどの子供達よりも!
神なのに優越をつけるだなんでイケナイ事だけど…私達は親になる。
我が子の幸せを願って何が悪いの!
その日私達に我が子という概念が産まれた。
まだ中身も入っていない。
私達はこれから子育てをする!ああ、楽しくて仕方がない!
私達しか居ない空間で、私と貴方は語り続けた。
(気まずい…………)
畑で1人縮こまる。
俺は昨日弟にトンデモナイ事をしてしまった。
宿の敷地に入るのも躊躇う
俺は逃げる様に畑作業に没頭した。
まだ日が出たばかりで辺りは薄暗い。
しかし何時までも逃げてられない。だって実家だし。今は奇跡的に出会ってないが、時間の問題だ。
「ぐあああ……アイツがあんなもん寄越さなければ…」
舞い上がって指輪を買い、勝手に玉砕した友人を恨む
夜は悶々として余り寝れなかったので若干寝不足気味なのも地味に辛い。
「…………眩し」
空が明るくなってきた。目に入る光が辛い
「……………風呂行くか。」
俺は木に立て掛けてた農具を取り
畑を後にする
「あのねぇ…………この時間は従業員の入浴時間なんだって何回言わすの!」
男風呂に居るオッサン達に言う。
いいじゃないか。俺たちの仲だろ?とオッサン達はまったく聞く耳を持たない。
彼等は朝風呂が好きすぎる、注意されてもまた来る。
「はぁ…1人で入りたかったんだけどなー」
オッサン達に負けトボトボと脱衣所に移動する
俺の体は砂だらけだ
上を脱ぎ、下も脱ぐタオル片手に風呂場へ行く
石鹸をタオルに擦りながら自身の身体に視線を落とす
畑作業してるせいか筋肉が他の男よりあると思う。
(家計ってのもあるかな…)
我が家は女も筋肉質だ。
全てが並の女性より厚い。だから俺はあのピンク髪どエロメイドのようなボン・キュッ・ボンな身体が好きだ。
我が家の女は胸と言うより装甲だ。弾丸位なら多分跳ね返す。
「身体細かったな…」
昨日見た身体を思い出す。
はっ!いかん!
脳内を払拭しようと石鹸で髪を洗う。
指に髪が引っ掛かる
「髪…………サラッとしてたな…」
はっ!いかん!イカン!
泡がついたタオルで背中をガシガシ洗う。痛い
「背中…………」
洗っていた手が止まる
弟の背中についた跡を思う
「あれ以上良くなんねぇのかなぁ…」
「っし!」
俺は湯の入った桶を持ち。全身を流した。
因みに俺は全身石鹸派。
郵便でーす。と朝から配達員が荷物を渡す
「おつかれさん」
大体が請求書や、店のチラシや女性会の便りだが、1枚だけ宿泊客宛だ。
「あ」
宛名は俺が避け続けてる弟
送り主は
「これは届けんと…」
バーチュタ領主ハインリヒの名が記されていた。
コンコン!
「いるか?」
(出来れば細い兄ちゃん出てこい!)
「ああ。…………ランドさんおはようございます」
出て来たのは希望してた方で安心する、が、少しだけがっかりした。
「エ…………坊主に手紙来てたぜ」
名前を呼ぶのも意識してしまい、あわてて誤魔化す
「はい?エデ……貴方に手紙ですって」
中にいるエデに声をかける
「?」
エデがヒョコっとベッドから顔を出し此方へ来る
「!!」
ギュル…
(可愛い!)
俺の喉が鳴る
エデは手紙を受け取るとベッドに戻った
もう少し見ていたかったが長居する理由も無いので立ち去る
ドアが閉まる直前、未開封の手紙をもったままのエデと目が合った。
色付いた頬と唇と何か言いたそうな目に時が止まったかの様に俺は硬直し
部屋の扉は閉ざされた。
廊下には固まったままの俺だけが取り残される。
「ぶ…………………ブチ犯してぇ」
ガアアアン!!
自分の頭を柱に思い切りぶつける。
誰かっ!!頼む!!
過ちが起こる前に誰か俺を処してくれ!!!!
「ハインリヒさんからだ。」
手紙を見る。名前はなんとか理解できたが手紙の内容までは俺では理解出来なかったのでファズに読んでもらった。
どうやら近々ハインリヒさんがアルファタールに来るらしい。
時間が有れば宿屋に寄る。との事。
(ルージュさんは一緒に来るのかな?)
「ファズを紹介しないとね」
俺は手紙を読み怪訝な顔をするファズに言った。
書斎で我が家の執事長が申し訳無さそうに話す
私は書類から顔を上げた
「今…何と言った?」
「はい。…………エンドリッヒ様にお見合いの話が来ていまして…」
「何故私にそれを話す。今迄話は来てても私に通さなくても構わないと言ったはずだが?」
「ええ。今回はエンドリッヒ様の相手方に姉君がおりまして…………正直に申しますと【兄弟姉妹同士仲良くダブルお見合い致しませんか?】と。」
執事長は苦笑する
私は呆れていた
ギシッ
椅子に寄り掛かる
「断ればいい」
「エンドリッヒ様側が…受けてしまいまして」
「…………彼奴は…」
眉間に手を置く
「また……断りきれなかったか…」
弟は政治に疎く周りの幹部に流されがちだ。
「まぁ、向こうとしてはハインリヒ様の様に…………40歳過ぎて良い人も居ない殿方にはなって欲しくない。と思ってる方も少なくないのではないでしょか。」
「…………おい。」
執事長を見る。
「私に一方的な非があるような言い方をするな!お前にだって一因はあるぞ。」
「はて。何のことやら」
(コイツ!私に来た見合い話を【旦那様に見合い話が来ておりましたが私の独断と偏見でお断りの返事をしておきました。これが相手方の肖像画です。】と、本人不在のまま事後報告で肖像画だけ見せつけてくる癖に!)
「旦那様は幼少期のトラウマで若干女性付き合いが苦手なのですから、偶には羽目を外すのも良いかと。」
「羽目を外したら駄目だろうが」
「まぁ。旦那様の事ですから。そこは私、信じております故。」
「…………」
目を細め執事長を睨む
「会場はアルファタールのエンドリッヒ様のお屋敷になりますので数日後には出発となります。」
「まだ仕事が…」
「エデ様に会いに行かれては?」
「うっ……む。」
「御二人が行けば、エデ様も喜ばれると思いますよ」
「ああ。……………………今さらりとルージュを混ぜなかったか?」
「ははは。私は誰と行くとは言っておりませんよ」
はははと年老いた執事長が笑う。
「…………行こう。文を書く。彼女にも伝えておけ。」
「はい。旦那様。」
宿屋のロビーにて
「ね~。エンドリッヒ様お見合いするんですって!」
「そうみたいね。でもまたお流れでしょ」
「多分ね。でも優しいから断れないのよねー」
「そうそう。前のご令嬢ストーカーになっちゃって問題起こしてたわね。【貴方を殺して!私も死ぬ!】って!」
「ね!領主様相手をヤンデレに堕としがち!」
「中途半端な優しさは罪なのよねー」
「顔ヨシ金ヨシ性格ヨシ!我等の白馬の王子様!」
「我が国の秘宝。むしろ変な虫がつかない様に保護しないと!」
「確かに!私達がお護りしないと!」
「ペガサスは穢させない!」
「クソビッチが、この魔剣の錆にしてやろうか…」
シャキーン
ベロリ
女性達は武器を取り出し、舌で舐める。
目は血走っている。
彼女達は以前見た「処すガールズ」だ。
「あわわわ…ファズ」
「エデ!見てはいけません!!」
ファズの手で目を隠される
(あれ?今、魔剣持ってる人いなかった?……………………いいや、気の所為!)
俺達は階段を登り部屋に逃げ帰った。
そう言えばリージュに暫く会っていない。
バーチュタへ来る途中で具合が悪くなったって聞いたけど、もう大丈夫だろうか…
(ダスティ何か聞いてるかな?急に窓から入ってこないかなぁ………)
俺は部屋の窓を開ける。部屋にいる間は大体開けるようになった。
窓の外にはお見合い騒ぎで少し賑やかさが戻った街並みが広がる
(手紙ではハインリヒさんも来るらしいがお見合いは関係無いんだろうか?)
「まぁ、領主のお見合いなんて俺には関係ないか…………」
俺は結局エンドリッヒの顔さえ知らないのだから。
ここはアルファタール領主の屋敷内
「はぁ…」
この所、毎日気持ちが沈み溜息が漏れる。
「そんな顔をなされますな。」
我が家の執事長が言う。
「何でお見合いなんて受けたんですか!ボクはまだそんな気分じゃないって何回も言っているのに!」
執事長を責める
「まぁまあ、会うだけですし、今回はハインリヒ様もいらっしゃるとの事ですし…」
「それが余計に嫌なんです!」
兄は若くしてバーチュタを制し能力を発揮して今に至るが、私はまだ彼の足元にも及ばない。
兄が私位の歳には政権を握り他国と交渉し領地を安定化させるため走り回っていたらしい。
(それに比べてボクは。)
このアルファタールの土地は父が制圧した時ですら武器を持たず、闘わず全面降伏状態で無傷で手に入れた土地だ。
元々、平地に有る為土地は作物栽培等が盛んだったので食べる物に苦労する事も無かった。
ボクはただ、何も分からず領主の椅子に座っていただけ。
領民も皆優しく。ボクが領主になる時についてきた父の部下が政治を行った。
流石に居た堪れなくて剣を振るうようになった。
私は人を切ること位しか出来無い。
コレしかしてないからか剣術の腕は多少自信がある。もはや皮肉だ。
兄はかなり前から見合いを断っていると聞く。
すると、その残りが「あわよくば」とボクに来る。ボクは「ついで」なのだ。
別にボクじゃ無くてもいい。
ボクじゃなくても…
「妹君はプラチナブロンドの可愛らしいご令嬢らしいですよ」
執事長の言葉に意識が戻される
「そう。…………」
君に会いたい。
ボクは彼に出会った時の事を思い出す。
流されるのが嫌なのに何も出来無い自分が嫌になって街に出た。
屋敷の者に黙って街に出るのが好きだった。
恐らく気付いているだろうが…
その日は途中で土砂降りになり布を雨避けにして、とにかく走る
屋根がある場所を探し近付く
足元だけ見て走っていたので先客が居ると気付くのが遅れた
(しまった。誰か居る…………顔を見られるのは困る、仕方がないが場所を変えよう)
一瞬止まるがまた次を探しに走り出す。
バシャバシャ
後から自分以外の足音がする
(気付かれたか?!)
スピード上げる
バシャバシャ
追ってくる人物もスピードを上げた。
腕が引かれお互いの身体が滑る
「サキ……ヤネ……ナイ…………モドロ?」
ザアアアアア
ボクの手を掴む彼の黒い髪と黒い瞳が雨に濡れて、ソレがとても美しくて見惚れてしまう。
私は彼に恋をしている。
見合いなんて意味がない。
でもいつかはボクも何処かの女性と一緒になりこの地を護らなければならない。
例え愛する人が他に居ようと…………
「こんな家に産まれなければよかった。」
誰よりも恵まれている筈なのに、ボクは罰当たりな言葉を呟いた。
そう言ってまた1人子供が巣立ってゆく。
〈ああ、また1人私達の手から離れて危ない他の世界に行ってしまったわ〉
[なんだい?寂しいのかい?]
〈当り前よ。私達の可愛い子供よ?心配するのは当然でしょう?〉
[しかし、これもまた経験。そうしてあの子達も大人になってゆくのだから]
〈理解はしているわ。でも子供はいつまで経っても子供なの!だって私は子供達の母親なのだから。〉
[ふふ。過保護な母親だね。そして私は放任主義な父親だ。]
〈貴方は子供に興味が無いんだわ!まったく!…………私達にも子供が作れれば多少は気持ちも変わるかしら。〉
[またその話しかい?仕方がないよ私達は一つなのだから。向かい合うことすら適わないのに、子供だなんて夢のまた夢さ。]
〈ええ。そうね。私達は背中が一緒の面と面。辛うじてお互いの手は重ねられるけれど、口付けも出来やし無いわ。〉
[声も身体もこんなに近いのに]
〈ああ。でも、やはり私、子供が欲しいの〉
[私だって貴女との子供は欲しいさ、でも…]
〈だから私ね考えたの!……………産めなければ、創れば良いって!貴方もこれなら父親になれるわ!〉
[創る?考えもしなかった、それは良い考えだ。…………2人で親になろう!]
〈ええ。私、やっと母になれるわ。ずーと自分達だけの子供が欲しかったの!〉
いつも外の世界に旅立つ子達を見ているだけなんて嫌だったの
生きている全てが愛おしい。その気持ちは変わらない。ただ、特別な存在が出来ただけ。
あなた達にとっては普通の事、でも背中合わせな私達には出来無いこと。
嗚呼!私達の愛し子よ。私はあなたを愛します。今迄で見送ったどの子供達よりも!
神なのに優越をつけるだなんでイケナイ事だけど…私達は親になる。
我が子の幸せを願って何が悪いの!
その日私達に我が子という概念が産まれた。
まだ中身も入っていない。
私達はこれから子育てをする!ああ、楽しくて仕方がない!
私達しか居ない空間で、私と貴方は語り続けた。
(気まずい…………)
畑で1人縮こまる。
俺は昨日弟にトンデモナイ事をしてしまった。
宿の敷地に入るのも躊躇う
俺は逃げる様に畑作業に没頭した。
まだ日が出たばかりで辺りは薄暗い。
しかし何時までも逃げてられない。だって実家だし。今は奇跡的に出会ってないが、時間の問題だ。
「ぐあああ……アイツがあんなもん寄越さなければ…」
舞い上がって指輪を買い、勝手に玉砕した友人を恨む
夜は悶々として余り寝れなかったので若干寝不足気味なのも地味に辛い。
「…………眩し」
空が明るくなってきた。目に入る光が辛い
「……………風呂行くか。」
俺は木に立て掛けてた農具を取り
畑を後にする
「あのねぇ…………この時間は従業員の入浴時間なんだって何回言わすの!」
男風呂に居るオッサン達に言う。
いいじゃないか。俺たちの仲だろ?とオッサン達はまったく聞く耳を持たない。
彼等は朝風呂が好きすぎる、注意されてもまた来る。
「はぁ…1人で入りたかったんだけどなー」
オッサン達に負けトボトボと脱衣所に移動する
俺の体は砂だらけだ
上を脱ぎ、下も脱ぐタオル片手に風呂場へ行く
石鹸をタオルに擦りながら自身の身体に視線を落とす
畑作業してるせいか筋肉が他の男よりあると思う。
(家計ってのもあるかな…)
我が家は女も筋肉質だ。
全てが並の女性より厚い。だから俺はあのピンク髪どエロメイドのようなボン・キュッ・ボンな身体が好きだ。
我が家の女は胸と言うより装甲だ。弾丸位なら多分跳ね返す。
「身体細かったな…」
昨日見た身体を思い出す。
はっ!いかん!
脳内を払拭しようと石鹸で髪を洗う。
指に髪が引っ掛かる
「髪…………サラッとしてたな…」
はっ!いかん!イカン!
泡がついたタオルで背中をガシガシ洗う。痛い
「背中…………」
洗っていた手が止まる
弟の背中についた跡を思う
「あれ以上良くなんねぇのかなぁ…」
「っし!」
俺は湯の入った桶を持ち。全身を流した。
因みに俺は全身石鹸派。
郵便でーす。と朝から配達員が荷物を渡す
「おつかれさん」
大体が請求書や、店のチラシや女性会の便りだが、1枚だけ宿泊客宛だ。
「あ」
宛名は俺が避け続けてる弟
送り主は
「これは届けんと…」
バーチュタ領主ハインリヒの名が記されていた。
コンコン!
「いるか?」
(出来れば細い兄ちゃん出てこい!)
「ああ。…………ランドさんおはようございます」
出て来たのは希望してた方で安心する、が、少しだけがっかりした。
「エ…………坊主に手紙来てたぜ」
名前を呼ぶのも意識してしまい、あわてて誤魔化す
「はい?エデ……貴方に手紙ですって」
中にいるエデに声をかける
「?」
エデがヒョコっとベッドから顔を出し此方へ来る
「!!」
ギュル…
(可愛い!)
俺の喉が鳴る
エデは手紙を受け取るとベッドに戻った
もう少し見ていたかったが長居する理由も無いので立ち去る
ドアが閉まる直前、未開封の手紙をもったままのエデと目が合った。
色付いた頬と唇と何か言いたそうな目に時が止まったかの様に俺は硬直し
部屋の扉は閉ざされた。
廊下には固まったままの俺だけが取り残される。
「ぶ…………………ブチ犯してぇ」
ガアアアン!!
自分の頭を柱に思い切りぶつける。
誰かっ!!頼む!!
過ちが起こる前に誰か俺を処してくれ!!!!
「ハインリヒさんからだ。」
手紙を見る。名前はなんとか理解できたが手紙の内容までは俺では理解出来なかったのでファズに読んでもらった。
どうやら近々ハインリヒさんがアルファタールに来るらしい。
時間が有れば宿屋に寄る。との事。
(ルージュさんは一緒に来るのかな?)
「ファズを紹介しないとね」
俺は手紙を読み怪訝な顔をするファズに言った。
書斎で我が家の執事長が申し訳無さそうに話す
私は書類から顔を上げた
「今…何と言った?」
「はい。…………エンドリッヒ様にお見合いの話が来ていまして…」
「何故私にそれを話す。今迄話は来てても私に通さなくても構わないと言ったはずだが?」
「ええ。今回はエンドリッヒ様の相手方に姉君がおりまして…………正直に申しますと【兄弟姉妹同士仲良くダブルお見合い致しませんか?】と。」
執事長は苦笑する
私は呆れていた
ギシッ
椅子に寄り掛かる
「断ればいい」
「エンドリッヒ様側が…受けてしまいまして」
「…………彼奴は…」
眉間に手を置く
「また……断りきれなかったか…」
弟は政治に疎く周りの幹部に流されがちだ。
「まぁ、向こうとしてはハインリヒ様の様に…………40歳過ぎて良い人も居ない殿方にはなって欲しくない。と思ってる方も少なくないのではないでしょか。」
「…………おい。」
執事長を見る。
「私に一方的な非があるような言い方をするな!お前にだって一因はあるぞ。」
「はて。何のことやら」
(コイツ!私に来た見合い話を【旦那様に見合い話が来ておりましたが私の独断と偏見でお断りの返事をしておきました。これが相手方の肖像画です。】と、本人不在のまま事後報告で肖像画だけ見せつけてくる癖に!)
「旦那様は幼少期のトラウマで若干女性付き合いが苦手なのですから、偶には羽目を外すのも良いかと。」
「羽目を外したら駄目だろうが」
「まぁ。旦那様の事ですから。そこは私、信じております故。」
「…………」
目を細め執事長を睨む
「会場はアルファタールのエンドリッヒ様のお屋敷になりますので数日後には出発となります。」
「まだ仕事が…」
「エデ様に会いに行かれては?」
「うっ……む。」
「御二人が行けば、エデ様も喜ばれると思いますよ」
「ああ。……………………今さらりとルージュを混ぜなかったか?」
「ははは。私は誰と行くとは言っておりませんよ」
はははと年老いた執事長が笑う。
「…………行こう。文を書く。彼女にも伝えておけ。」
「はい。旦那様。」
宿屋のロビーにて
「ね~。エンドリッヒ様お見合いするんですって!」
「そうみたいね。でもまたお流れでしょ」
「多分ね。でも優しいから断れないのよねー」
「そうそう。前のご令嬢ストーカーになっちゃって問題起こしてたわね。【貴方を殺して!私も死ぬ!】って!」
「ね!領主様相手をヤンデレに堕としがち!」
「中途半端な優しさは罪なのよねー」
「顔ヨシ金ヨシ性格ヨシ!我等の白馬の王子様!」
「我が国の秘宝。むしろ変な虫がつかない様に保護しないと!」
「確かに!私達がお護りしないと!」
「ペガサスは穢させない!」
「クソビッチが、この魔剣の錆にしてやろうか…」
シャキーン
ベロリ
女性達は武器を取り出し、舌で舐める。
目は血走っている。
彼女達は以前見た「処すガールズ」だ。
「あわわわ…ファズ」
「エデ!見てはいけません!!」
ファズの手で目を隠される
(あれ?今、魔剣持ってる人いなかった?……………………いいや、気の所為!)
俺達は階段を登り部屋に逃げ帰った。
そう言えばリージュに暫く会っていない。
バーチュタへ来る途中で具合が悪くなったって聞いたけど、もう大丈夫だろうか…
(ダスティ何か聞いてるかな?急に窓から入ってこないかなぁ………)
俺は部屋の窓を開ける。部屋にいる間は大体開けるようになった。
窓の外にはお見合い騒ぎで少し賑やかさが戻った街並みが広がる
(手紙ではハインリヒさんも来るらしいがお見合いは関係無いんだろうか?)
「まぁ、領主のお見合いなんて俺には関係ないか…………」
俺は結局エンドリッヒの顔さえ知らないのだから。
ここはアルファタール領主の屋敷内
「はぁ…」
この所、毎日気持ちが沈み溜息が漏れる。
「そんな顔をなされますな。」
我が家の執事長が言う。
「何でお見合いなんて受けたんですか!ボクはまだそんな気分じゃないって何回も言っているのに!」
執事長を責める
「まぁまあ、会うだけですし、今回はハインリヒ様もいらっしゃるとの事ですし…」
「それが余計に嫌なんです!」
兄は若くしてバーチュタを制し能力を発揮して今に至るが、私はまだ彼の足元にも及ばない。
兄が私位の歳には政権を握り他国と交渉し領地を安定化させるため走り回っていたらしい。
(それに比べてボクは。)
このアルファタールの土地は父が制圧した時ですら武器を持たず、闘わず全面降伏状態で無傷で手に入れた土地だ。
元々、平地に有る為土地は作物栽培等が盛んだったので食べる物に苦労する事も無かった。
ボクはただ、何も分からず領主の椅子に座っていただけ。
領民も皆優しく。ボクが領主になる時についてきた父の部下が政治を行った。
流石に居た堪れなくて剣を振るうようになった。
私は人を切ること位しか出来無い。
コレしかしてないからか剣術の腕は多少自信がある。もはや皮肉だ。
兄はかなり前から見合いを断っていると聞く。
すると、その残りが「あわよくば」とボクに来る。ボクは「ついで」なのだ。
別にボクじゃ無くてもいい。
ボクじゃなくても…
「妹君はプラチナブロンドの可愛らしいご令嬢らしいですよ」
執事長の言葉に意識が戻される
「そう。…………」
君に会いたい。
ボクは彼に出会った時の事を思い出す。
流されるのが嫌なのに何も出来無い自分が嫌になって街に出た。
屋敷の者に黙って街に出るのが好きだった。
恐らく気付いているだろうが…
その日は途中で土砂降りになり布を雨避けにして、とにかく走る
屋根がある場所を探し近付く
足元だけ見て走っていたので先客が居ると気付くのが遅れた
(しまった。誰か居る…………顔を見られるのは困る、仕方がないが場所を変えよう)
一瞬止まるがまた次を探しに走り出す。
バシャバシャ
後から自分以外の足音がする
(気付かれたか?!)
スピード上げる
バシャバシャ
追ってくる人物もスピードを上げた。
腕が引かれお互いの身体が滑る
「サキ……ヤネ……ナイ…………モドロ?」
ザアアアアア
ボクの手を掴む彼の黒い髪と黒い瞳が雨に濡れて、ソレがとても美しくて見惚れてしまう。
私は彼に恋をしている。
見合いなんて意味がない。
でもいつかはボクも何処かの女性と一緒になりこの地を護らなければならない。
例え愛する人が他に居ようと…………
「こんな家に産まれなければよかった。」
誰よりも恵まれている筈なのに、ボクは罰当たりな言葉を呟いた。
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