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俺もか弱い姉ちゃんが欲しかったぜ。と兄ちゃんは遠い目をして言った。

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シャカシャカ…

俺はリージュが散らかしてった家具を直した後、窓を開け窓辺に寄りかかり歯を磨いていた。
「あ、ファズー!!」
建物から外に居るファズに声を掛ける。
(やべっ歯磨き粉垂れた…)
口元を拭う

バタリッ!
「倒れた…」
ファズは宿屋の入り口でぶっ倒れた。


俺は急いでうがいをし、宿屋の入り口に向う。
「おわっ!危ねーぞ!!」
「ごめーん!」
途中で宿屋の弟さんとぶつかりそうになったがギリ避けて外にでる。

「ファズ大丈夫?」
ぶっ倒れたファズにかけ寄る。
「み、水を…」
「坊主どした?」弟さんが追いかけてきた。
「ファズに水を下さい。」
「あいよ!ちょっと運ぶから退いてな」
よっ!
弟さんの逞しい腕で軽々と運ばれるファズ。
(俺にも、あんな筋肉があれば…)
ぺちん!
自分で叩いた腕からは情けない音がした。

「水、有難う御座いました。」
「良いってことよ。困ったときはお互い様さ。」
そう言ってニカッと笑った弟さんは
自分の仕事へ戻っていった。

無精髭だし、頭ボサボサだし、服はいつも汚れたツナギだけど凄く優しくしてくれる。
有難う看板息子。有難う水。

部屋にいるのは俺達2人になった。
「………ん?リージュの匂いがする気が…」
スンスン
(やべっ!)
「あっ!さっきまで居てね!何かファズに、用事があったみたい、資料?のページが足りない?とか何とか…?言ってたかな~あはあ。」
「そうですか、後で確認してみます。」
「うん。」


「外、人凄かったね。俺のこと結構探した?」
ファズがタブレットを見てる目を俺に向ける
「探しましたとも!全然見つからなくて焦りましたよ!?」
「予想以上だったね。身動き取れなかったもん」
「そうですね。時間帯が悪かったですね。」
「時間帯?何で?」
「?領主、エンドリッヒ一行が丁度帰ってきてたんですよ。見ませんでしたか?」
「見てないわー。」
(だってその時俺リージュにイラマ…何でもないわヤメヨ)
「どんな感じ?噂通りカッコよかった?」
「…エデ。僕は君を探してたんですよ!必死に!見る暇なんてありませんよ!!」
「左様ですか。失礼しました。…でも、ちょっと見たかったなー。噂のイケメン領主。」
「………連れの兵士達簡易的な服装だったし、領主自身は馬車の中だったのでよく見えなかったですが、金髪碧眼の優男って感じでしたよ。」
「へー」
(ファズ…お前本当は普通に凱旋見学してたんじゃないの?俺の事、ちゃんと探してくれてた?)
ファズへの信用度が20下がった。

ファズは資料のやり直しをしてて俺は暇なので宿内を散策する。

(あれっ!裏庭で煙が昇ってる。火事か?!)

「弟さーん。何してんの?」
「よぉ坊主。ほっそい兄ちゃんはもう大丈夫なんか。」
ダイジョーブイ!とVサインを返す俺。

そこでは弟さんが枯れ葉を燃やしていた。
「大丈夫?捕まらない?」
「へっ?何で?!」
(この世界では焚き火はOKらしい。)
「んー。卒業アルバムとか自作の詞とか子供の頃に書いた数年後の自分宛の手紙とか燃やしてんのかな~と思って。俺で良ければ話聞くよ。」
「燃やしてねーし。そんな事で捕まらねーし。坊主に話す話題もねーわ。」
ガシッ!
逞しい腕でヘッドロックをかけられる。
「ヤメテお兄ちゃん!!頭潰れちゃう!!俺、兄ちゃんと違ってか弱いから!!」
「誰がお前の兄ちゃんだ!おらっ!」
やめて~!ギャハハハ2人で擬似兄弟遊びをして笑った。
「ほーん、坊主にも姉がいるのか」
ほいっ!と焼き芋を渡される。
焚き火の中身はサツマイモっぽい芋だった。
何の芋かは分からない。
「熱っ!うん、妹も居るけどね。俺真ん中。」
「ふーん。俺は下は居ないなー。欲しかったけどな。下の兄弟。」
「何で?」
「だって可愛いだろ?俺より弱くてさ。」
「?強い弱いの問題なの?」
「そうさ!俺の上はアレだぞ?強過ぎる…」
「女性は皆強いもんだよ」
「そうかねぇ…うちのは頭5つ位飛び抜けてないかねぇ…」
「それは、まぁ。うん。」
目を逸らす。
「じゃあ、俺が弟になる!」
立候補します!と挙手する。
「お、生意気な弟だな!」
「俺もお兄ちゃん欲しかったん!利害の一致ってやつ!!」
「ん~?害は何処いったん?」
俺は酒は飲めないので焼き芋で兄弟の盃を交わした。
因みに兄ちゃんの将来の夢は
『金髪ロングの、胸も尻も大きな美女と一夫多妻制で結婚する』
という小学生でも書かないアホな夢だった。
「無理だったね」
って言ったら
「まだわかんないだろうが!」と割と本気で怒られた。
兄ちゃんは、まだ夢を諦めていないらしい。
(絶対に無理だって…だって家族がインパクトあり過ぎだもん…)

俺達は無心で芋を喰っている。
「坊主、明日は何か用心あんのか?」
「ん?無いよ。」
「弟に坊主呼びはやめてよ兄ちゃん。俺の名前はエデね。」
「あいよ。じゃあ俺の名前はランドだから…ランド兄ちゃんで良いぞ。エデ……明日ちょっと兄ちゃんにつきあえよ」
ガシッ!肩に、腕が回される。
「何処か連れてってくれんの?」
「おう。」
「やった!行く行く!」
「よし」
「じゃあ、あの細い兄ちゃんにちゃんと言っとけよ!あと、この芋兄ちゃんにも渡しとけ!」
「了解!!また明日ね!ランド兄ちゃん!」
ば~い!手を振り合う俺達。
芋を抱えながらファズに明日の外出をおねだりする。
「…ちゃんと弟さんがついててくれるなら良いですけど…」
渡された芋を食べながら渋々了承するファズ。
「うん!大丈夫!!ランド兄ちゃんいるし!」
「…いつ弟になったんですか…」
呆れてるファズ。
ついさっき!と元気よく答えたらファズは天を仰いでしまった。




「サイテー。マジあり得ん。」
「スマンって。こうでもしないと抜けられなかったんだよ。」
俺達は街のバーの入口に立っていた。

「何か兄ちゃんカッコつけちゃって、ワックスつけて、いつものは着ないチノパン履いてシャツ着てさ!本当は俺とのお出掛けがメインじゃなくて合コンが本命だったなんてヒデーよ!俺仕事を抜けるための言い訳にされただけじゃん!楽しみにしてたのに!兄ちゃんに玩ばれた!!」
「わー!すまんかったって!大声だすな、あと言い方やめて!!観光客の案内なら仕事休めるだろ?どうしてもこの合コンに行きたかったんだよ!兄ちゃんはこの出会いに掛けてんだよ!!」
(必死だ、余りに必死だった。)
「でも、俺どうしたらいいん?バーには入れないし、文字も読めんし…金もわからんし…宿屋に帰ったら兄ちゃんの合コンバレちゃうし…」
八方塞がりだ。
「そうだな。だからコレ服につけとけ。我が家の紋章だ。これがあれば宿屋の家族だと思って街の人が良くしてくれる。金はツケになるから好きなもん気にせず食ってこい。」
「…いいの?」
「いいさ。巻き込んじまったからな。夕方には帰るからエデは少し先に帰ってていいぞ。天気も悪くなるみたいだしな。俺のことは「金髪美女の尻追いかけてたから置いてきた。」って言っとけばいいさ。」
「おーい!ランド!!行くぞー!」
兄ちゃんの友達が呼ぶ。
「おお。わかった!今行く!」
「じゃあ行くな!」
「うん、兄ちゃん合コン頑張って!」
「おう!」
ランド兄ちゃんは俺に力こぶを見せ二カっ!て笑ってバーに入って行った。
(どうせなら上手く行ってほしいな。)
何て思いながら街へと繰り出した。




俺の右手には何の肉か分からない肉串を持ち
左手には街の至る所で配られてる体に貼れるシールを2枚持っている。
シールには領主の家系の紋章が描かれているらしい。
コレを配っていた女性は両頬に貼って『こうやって貼るんですよ!着けるのは簡単ですが意外と剥がし辛いのでポロッと取れちゃう心配が無いんですよ~!良かったらどうぞ~!』と渡してきた。
「こんなん…どうするん?」
俺は困っていた。
ムシャッ!もぐもぐ!最後の肉を飲み込む。

(…ますか…聞こえていますか?)
脳内に声が反響する。
久々に聞いた!この声は我が親友!?イマジナリー野崎!!

(そうです。貴方の親友です。久々の登場ですよ。歓び、崇め、敬いなさい。)
何て厚かましいんだ!びっくりしたわ!!

(まあ、それは良しとしましょう)
いいんかい
(そのシール…まさか、捨てたり、中途半端で面白みのない腕とかに貼るのでは無いでしょうね。?)
え?要らないから捨てようかと…

(駄目です。シールを配ってたお姉さんを思い出しなさい、あんなにシールが余って、彼女が可哀想とは思わないんですか?)
確かに、沢山余ってたけど…俺関係無い…

(いけません。彼女を笑顔にするんです。)
いや、何でさ。

(笑いに全力をかける、それが出来てこその男気と言うものでは?)
俺別に男気求めてないし…

(はあ、貴方にはガッカリしました。昔の貴方なら両胸にシール貼れる位の度胸があったでしょうに…おめぇ、ちっせぇ男になっちまったな。オラ!ガッカリだぞ!)
心底落胆した様子で息を吐くイマジナリー野崎。
「ああ、そうかよ!やってやらぁ?!俺の男気見せてやるぜ!!」

俺は公衆トイレに立て籠もり
イマジナリー野崎に(もっと右!あ、チョイ下!ああ離れた!右っ!!)とか言われながら何とか両胸に領主の紋章シールを着けることに成功した。
満足感は確かにあった。何か大事は事をやり遂げた感は確かにあったのだ。
だが同時に、人としての捨ててはいけない大事な何かを捨ててしまった気がする。
取り敢えず俺はシャツのボタンを閉めた。
上が制服で本当に良かったと思った。


トイレから出て外を見る
「雲が結構出て来たな…」
上空の雲は流れが速くなっていた。

「ファズとランド兄ちゃんへのお土産だけ見て帰ろ。」
(動くとシールに肌が引っ張られて変な感じがする…)
今更ながら何でシールを胸に貼ったんだろうと思った。アホかな俺?アホだな。







ざあああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

眼前には滝のような雨。スコールってやつ?
白い。雨の勢いが強すぎて、もはや白い。
そして痛そう。
「危なっ。あと数秒遅かったら直撃だったわ。」
ポツリと頭に雨が当たり、手を広げたらパラパラと雨が降りだしたので軒先を探して走った。
「何で雨しのげる屋根ここしか無いん?」
やっと見つけ出した屋根は奥の道路の更に奥側だった。ほぼ人目につかない場所。
そして、その先は確認したが屋根が無かった。

俺はこの場所から動けなくなってしまった。



バシャバシャ!!
この豪雨の中
誰かの足音がする。

バシャバシャ!!!!先程より近い。
どんどんコチラに近づいてくる。

バシャバシャ!!!!
やはり人が走ってる!目視出来る程近くに来てる。

バシャッ!
茶色い布を雨よけにした人が俺の場所まで来て…
……………バシャッ!
此方の足元に一瞬視線を落とす
が、そのまま奥に向かって走り出す。

「ちょっ!」
その先には屋根など無い。

「あ゛~!!待って!!!」
俺は跡を追う様に走り出す。
「早っ?!待って?!その先に屋根は無いよ!!戻ろう!!」
俺は加速する
グッ!!
「待ってってば!!」
腕を掴む。
余韻で二人共体が前に少し滑る
「サキ……ヤネ……ナイ…………モドロ?」
ハァハァ…
俺はカタトコしか喋れなくなった。

相手は驚いた顔をしていたが
コクリっ
相手は頷く。

ハァハァ…ゼェ…ハァ…
肩で息をしているのは俺だけだった。

あれ?俺運動不足なんかな…。若干吐きそうなんだが…

うぇっ…と口から音が出る。
茶色い布を被った人は俺の手をやんわり離し、俺の背中を擦りながら俺が元居た場所へとエスコートしてくれた。
(何かごめんなさい…気使わせちゃった…)


止まって欲しくて腕を引いた時
振り返った拍子に布からチラリと見えた
この人の容姿は
少女漫画の世界に出てくる王道中の王道
『金髪碧眼の王子様』の様であった。










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