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有ったり無かったり処されたり

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「大浴場は左の突き当りになりまーす。男性は青い暖簾の先ですからね!間違っても赤い暖簾の先に行かないで下さーい!客と言えど、殺しまーす!!」


宿屋の女性はGoodの手を下にクルッと回転させると自分の首の横をスッと横滑りさせた。


【 KILL YOU 】



俺達は縮み上がった。



「青い暖簾ですね!了解しました!」

ビシィ!

サー!イエッサー!!


ザッザッ!まるで軍隊の様に行進する俺達。


後ろは怖くて振り返れない。



暖簾の前でクドイくらい二人で確認しあって

(あれ?青って何色だっけ?)

概念もあやふやになって身の危険を感じたので一気に突入、男風呂へいざ参らん!




「一応、人居るんだね…」

脱衣所には先客として、ちょっと歳のいった男性が数名いた。

「そうですね。受付から脱衣所まで、あの宿屋の女性にしか会いませんでしたからね。僕は、てっきり客人は外へ出ているのか、閑古鳥が鳴いているのかと思ってましたが…」


籠に脱いた服を入れていく。

ファズと俺は隣同士にした。

脱ぎ終わった俺は、まだー?って感じで隣に目をやる。
一応言っておくが、やましい気持ちは全く無かった。

神に誓います。

家は仏教徒だけど。



「へっ?!ふ、ファズ??」

「はい?ああ、ちょっと待って下さい。この服抜きにくくて…」

「ち、ちがっ!」

俺は慌てる

「はいっ!脱げた!お待たせしました。行きましょう!!」


(待って。ちょっと待って!!)

「待ってファズ!」

風呂場へ行こうとするファズの腕を引っ張る

「おっと!!?危ないですよエデ?」

ファズは俺に向き直る

「だって…!ファズ………ちょっと確認なんだけど…」

俺は先生!っとこれから発言します!聞いてくださいと右手を上げた。


「はい。何でしょうエデ君。」

ファズは俺を指名し発言権を得た。


挙手した手はファズにやんわり降ろされた。

ちょっと…恥ずかしいから…との事。





「ファズは………もしかして女の子なの?」



…そう、今まで疑いもしなかったが

先程脱いたときにチラッと

たまたまチラッと見えてしまったんだ



…ファズの下半身は…つるつるで…


えっと、その何て言うか…







…男性器が付いてなかったのだ…





(俺、今まで男だと信じて疑いもしなかったけど!!どうしよう!女の子なの!?男湯連れてきちゃた!!誰かに見られた?まだセーフ?今のうちに服着て貰って女湯に行ってもらえば大丈夫?!ぐあぁー!責任取らないと駄目?!腹切り?ハラ切るしかない!!誰か俺の腹切りアシストしてくれぇ!絶対楽に死ねなさそう!…あれっ?胸も出しっぱじゃん!隠して!パイ隠してくれ!!!!)


俺は頭を抱えて唸り

ファズの下半身は白い布を巻いているが、パイはさらけ出してるので
パイ隠しの布を探す

(無い、俺の腰につけてる白い布しかない。ファズすまん、俺の布で隠してくれ…)


俺は覚悟を決め
自分の腰布に手をかけた



「ああ。」

「作るの忘れてました。」


「そうですよね。男湯ですもんね。無いと驚かせてしまいますよね。ちょっと待って下さい。すぐ用意しますから」


クルッとファズは俺に背を向ける


そして腰布に手を突っ込んでゴソゴソしてる。


「え?な、何やって…?俺、後ろ向いてたほうがいいかな…」


俺は混乱している。

何してんの!マジで!!



「あ、もう大丈夫です。出来ました。」

じゃーん!


ファズが俺に向かって腰布をオープンにする。


ひぇぇ!!!
そんな痴漢ムーブすな!!って?!






「ついてる!!何で?さっきつるつるだったじゃん!!!!」


思わず声がデカくなる

やばっ。めっちゃ響いた。


脱衣所にいた人、風呂からあがってきた人の視線が俺達に集まる。


「お騒がせしました~アハハ」

ファズが俺の手を引き風呂場へ避難する。



!?


俺の脳内は、ずーと『?』マークが出続けている





「つまり。男にも女にもなれるって事?」

「そ。」

俺達は髪も体もワシャワシャ洗いまくり
なみなみとお湯がはった風呂場へ浸かっている。

はわわ~天国じゃ~

「まあ、個体差があるから誰でもなれるわけじゃないし、でも、大抵の同期はどちらにでもなれると思うよ。」

ファズがお湯を手ですくい
俺にかけながら話す。


「ほぇ~」


「わざわざ作り替えるのが面倒だから、上も下も無しの体をスタンダードな状態にしちゃってて、さ。すっかり…忘れてました…てへ!」


「ほぇ~」

あ~溶ける、湯キモチぃ~


「聞いてる?」


「ほぇ」

溶けるぅ~俺、ここん家のお湯になるぅ~


ざぷっ


ファズがこちらに近寄る

ただでさえ近いのに

右肩が触れる



さわっ



俺の右耳にファズの手の小指の側面が当たる


「今夜、女の子の身体になってあげようか?」


フッっと息を吹きかけ

とてつもなく甘い声で俺の耳に囁く



「ほぇ~……ガボボボボボッ」

「わー!!!エデ!!」


俺は右手の人差し指を天に上げ湯へと沈んだ。




……アイル・ビー・バック……

いい夢見ろよ!




…俺、初めてのぼせたんだぜ。ダセェ。

湯は俺を受け入れてくれなかった!

家族になれなかった!

チクショウ!!

俺はこんなにも湯を受け入れたのに!

一方通行。桃色片想いだぜ!!



あ、ごめんファズ。途中から全然聞いてなかったわ!メンゴ!!




「あ、起きました?気分は如何ですか?」


俺は自分がぶん取ったベッドの上で目が覚めた。

「ん、大丈夫…んや、チョットふらふらするぅ」


まだ体調は戻らなさそうだ。


「まだ寝てて下さい。飲み水持ってきますから」

「うん。ありがと。」




俺は結局そのまま寝続け
気がつけば明日になっていた。










「この街、アルファタールは領主エンドリッヒ…歳は20歳そこそこの男性で、今は彼の兄、ハインリヒが領主の隣町、バーチュタへと出掛けているようですね。領主が留守って大丈夫ですか?この街…」


「へぇ」

ファズが何か喋っているが頭に入ってこない。

「ここら辺一帯は彼らの父親が昔統治した土地で、それを子供たちに分け与えたようです。」

「はぁ」

「アルファタールはその中でも一番規模が小さいですね、末息子だからでしょうか…?」

「…ふうん。」

ふうっ。

ファズが手に持っていた物から視線をこちらに投げる



「もう!絶対聞いてなかったじゃないですか!その生返事!!」

ぷりぷり怒り出すファズ



だって……仕方ないだろう!


俺の視線はファズの手に持っている物から一時も離れない

おかしい!絶対におかしい!

顔を上げる。

そして指を

ファズの手に持っている物に伸ばす。

ファズの目を見て口を開く。



「ファズ…ソレ…」









「アッ○ルのタブレット端末だよね?」


どう考えてもおかしいだろ!
裏に林檎マーク付いてるの見えたぞ!!


俺のスマホはAndroidなのに!!
充電切れてうんともすんとも言わなくなったのに!!


ファズは俺から目を逸らし

一旦窓の外へと視線を移し



「違います、GOD社製です。純神仕様です。」



俺に向き直って言った。

お前ぇ、目濁らせて何言ってんだ!!!!
 

「ぐぅっ!!これは、GOD社製のKAMIPADです。ぎりぃ!」


神パッドはヤメロ!紙パッドみたいだから!

音が同じなんだわ!

ファズが苦しそうにしている

きっと聞かれたらそう答えろと言われているんだろう…


上司と自分の意志との間で板挟み状態なんだな!

分かった!もう聞かない!

名前に関しては何だっていい!

俺タブレットって呼ぶから!

だからファズ!
下唇噛むな!血滲んでるから!


ファズだって必死に闘ってるんだ、俺も頑張るよ。

「ふぐぅ…」

ファズは鳴いた。





「でも凄いよな。ネット回線どうなってるん?繋がってるの?」

名前を聞いてるわけじゃないからと、自分に言い聞かせ
純粋な疑問だったのでファズに聞いてみた。


「ええ、繋がりますよ。何故かは知りませんが……聞きたいですか?通信会社名…」



「い、いぇ。聞きたくないです。ごめんなさい。」


どうやら他にも会社があるらしい


そうですか。そうですよね。興味無いですよね。

とブツブツ言ってタブレットを撫でるファズ



ファズの目が濁りまくって
タブレットの光を反射してて…

俺は過去1番の恐怖を感じた。





取り敢えず宿に居てもファズが病むので
街に出てきた。

宿の女性も出掛ける俺達に手を降って送り出してくれた。


だが、俺たちの視線は女性とは別にある




金棒が…濡れているのである。



先程ロビーにて、若い女性の集団が


「昨日の男、処されたらしいよ!」

「良かった!もう、嫌よね覗きなんて!」

「ね!違う!間違えたんだ!とか言ってたけど。絶対に嘘!助かろうとしてさ!」

「本当!命かけろっての!」

「はは、だから処されたんじゃーん!!」


アハハハハハハ!!!!

やだー!!!!ウケルー!!



では、やはりアレは…血……いや、やめよう。

見なかった、俺は何も見なかった!!

見ない知らない近寄らない!!


俺は頭を振って脳内の凶器の残像を消す。

…隣のファズはずっと遠くを見てたし、話しかけても来なかった。


ファズ…

アナタハ、ココニイマスカ?



俺達は何も聴かなかった!以上!解散!



何となく宿に帰りづらくなったので
まだ行ってない場所へと足を進める


「わー、なんか路地裏みたい。」

悪く言うと寂れてる。

人気が一気に少なくなった。


「こら、あまり離れないで。何かあったら困る」

「はーい」

少し離れてしまったファズの元へ走る

思ってたより離れてしまった。

ファズから聞かされた注意事項に

あまりファズから離れないで!と真剣な顔で言われた事がある

ファズ達には俺達異世界転生者のサポートはするが命の保証までは出来かねる、と

『僕自身は自分の力で自分を守るけど、僕自身も殺されれば死ぬし、生きててもサポート対象者が離れれば離れるほど僕の力の及ばない状態になるから』

ファズ達の能力は距離にも影響されるらしい。

万力じゃないのね。ふぅん。



あと少しでファズにたどり着く。

急に太陽が雲に隠れて
辺りが暗くなる

ぐぬぬ、目が慣れないから寄り暗く感じる。


-闇が来る-








「何だ。クセェと思ったらお前かよ」

ハハッ

ファズの背後から声がした。

嘲笑も。

黒い影が伸びる




ファズは体の向きを変え
戻ってくる俺を自身の背中に隠し

声のした方へと視線を送る

鋭く
射抜くように


「何か用か?ダスティ。」

今までに聞いたことがないファズの低い声がした。


俺からは相手の顔はよく見えない

ただ暗い

ひたすらに暗く、長く、影が伸びている




コツ
コツ

相手がこちらに歩み寄る



太陽を隠していた雲が流れ、
俺達の真上から光がさす






それはとても美しい闇色をした男性だった。





前のファズと更に前にいる男性

二人は、とても対象的な色をしている。


ファズは色素が薄く白いローブ
布から覗く肌も薄い
儚げで繊細な色をしている。

目だけは、若干赤くて
アルビノを思わせる。



対して男性は


昆虫の玉虫色とか鳩の首周りとか孔雀の色。

暗いけど黒くなくて何色とも言い難い

眼前の男性はそんな色彩をしていた。

美しい若干波打ってる長い髪が風に流れる。




肌は褐色で健康的な肉体美



と、いうか目のやり場に困る


男性の服が、

その、

あの、

え~と、一番近い服、何だっけ?あれ?

ど忘れした!

アレ!

もうちょっとで出そう!
















「そうだ!逆バニーだ!!!!!」







バサバサバサッ


俺のクソデカボイスで
どっかの鳩が集団で飛び立った。




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