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クリナ
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コンコン
扉がノックされた。
ちょうどノウノのメンテナンスが終わったところだった。
ノウノはベッドから立ち上がり、扉を開けた。
扉の前に立っていたのは、栗みたいな髪の毛の少女だった。頭部が栗みたいになっているわけではない。あくまで、比喩である。髪の色も形も、栗みたいだった。目は草食動物みたいで可愛げがある。
「あ、あの……。さっきは、どうも」
と、栗頭はそう言うと、ペコリと頭を下げた。
さっき?
何のことだろうか、とノウノは困惑した。
あ、思い出した。たしか最初に蛇女に絡まれていた少女である。
「たしか株式会社エモーションのアバターだったっけ?」
「はい、そうです。さきほど絡まれているところを、助けていただいて、ありがとうございました」
と、少女はもう一度、頭を深く下げた。
「いや、べつに良いって」
助けようと思って蛇女とバトルしたわけじゃない。むしろ、バトルしたかったから、ちょうど良かったのだ。
「バトル見てました。とても恰好良かったです。フォローもしました!」
少女はまるで、憧れの対象を見るような目で見てくる。
自分も立派なVDOOLになったんだなぁ、という実感がわいてきた。
エダがノウノの膝小僧を突いてきた。ディスプレイに文字が表示されている。「株式会社エモーションとは、コネを作っておきたい。フォロバしておいたらどうじゃ」とのことだった。
「フォロバしておくわ」
と、エダの指示通り、ノウノのほうからも、エダのアカウントをフォローしておいた。
株式会社エモーションとのつながりも大事だが、これからの学園生活において、友人のひとりぐらい作っておいたほうが良いだろうと思ったのだ。
「良いんですか! ありがとうございます」
「だけど、株式会社エモーションのアバターなら、私が出て行かなくても、あの蛇女たちも張り合えたんじゃないの?」
エモーションというと、絶賛成長中の企業である。あのロジカルンに匹敵するのではないかと言われていたりもする。
「いえいえ」と、少女は頭をぶんぶん左右に振った。「私なんかはポンコツなんで、とてもじゃないけど、ロジカルンのアバターには勝てません」
「そうなんだ」
「なにかの偶然で、エモーションの応募に通過できて、このアバターをもらえたんですけど、バトルの成績が芳しくなくって……」
ははは、と少女は苦笑していた。
アバターが優秀でも、やはり中身によって、差が出てくるものなんだろう。どうしてこの少女がエモーションの選考を通過できて、私が落ちたのよ――と、ちょっと不服に思った。
まあ、選考を判断している人の気分とか、時の運もあるのだろう。
とはいえ、べつに少女に嫌悪感を抱いたわけではない。むしろ、弱者の気持ちはわかるつもりだ。
ノウノもつい最近まで――っていうか、今朝までは弱者だったのだ。
「名前はなんて言うの?」
「私は、クリナです」
名前も栗みたいだ。名前に合わせたアバターなんだろうか。
「私はノウノよ。編入してきたばっかりだから、わからないことも多いの。これからよろしくね」
「あ、はい。私で良ければ、なんでもお手伝いします」
ノウノが差し出した手を、クリナがにぎってきた。
「さっそくなんだけど、私、女王とバトルしたいんだけど、バトルを断られちゃったの。選考があるとか聞いたんだけど、詳しいことを教えてくれない?」
「じょ、女王とバトルするつもりなんですか!」
と、クリナは悲鳴のような声をあげていた。
「そう。そのつもりで、この学園に来たんだから」
「さすがですね」
女王とバトルするための条件を、クリナは教えてくれた。
選考は2度あるらしい。
1次選考では、フォロワーが学園内で上位10位以内に入っている必要がある、とのことだ。
そして2次選考では、その残った10人で競い合って、1位になった人が女王とバトルする権利を得るとのことだった。
「道のりは遠いわね」
選考か、と思った。
すこし憂鬱になる。
VDOOLになる選考に24社も落ちてきたことを思い出したのだ。
「今現在、学園でフォロワー数1位が、300万の女王です。ですけど、選考に女王は入りません。その1位の女王とバトルするための選考ですから」
「2位から11位に入る必要があるってことね」
「これが現在の、2位から11位のフォロワー数です」
と、クリナがディスプレイを表示させてくれた。
1位の女王はさておいて、2位のフォロワー数は120万人だった。11位が90万となっている。
上位のほとんどが、ロジカルンとエモーションのアバターであるようだった。
ちらほら他企業のアバターも入っているようだ。
「100万人ぐらいのフォロワーが必要ってことね」
「そうなりますね」
今現在のノウノのフォロワーが5万人だから、まだまだ数が足りないということになる。もっとバズる必要があるわけだ。
「それにしても、1位の女王が300万で、2位が120万人って、1位と2位でものすごい差ね」
「そりゃもう、女王は最強ですから。ロジカルンの最新鋭の技術が使われていますし、それを使いこなしている女王も、きっと優秀なんだと思います」
私なんかとは違って、とクリナは自虐的なつぶやきを落としていた。
「まあまあ。でも、企業のVDOOLってだけで、一般人からしてみれば、憧れの対象なんだから元気だしなさいよ」
と、ノウノはクリナの肩をやわらかく叩いた。
「は、はい! ノウノさんからそう言われると、元気が出てきました!」
とのことだ。
単純である。
クリナの部屋番号は「288」。ノウノの隣室らしい。これからよろしくね、と挨拶をかわして別れた。
扉がノックされた。
ちょうどノウノのメンテナンスが終わったところだった。
ノウノはベッドから立ち上がり、扉を開けた。
扉の前に立っていたのは、栗みたいな髪の毛の少女だった。頭部が栗みたいになっているわけではない。あくまで、比喩である。髪の色も形も、栗みたいだった。目は草食動物みたいで可愛げがある。
「あ、あの……。さっきは、どうも」
と、栗頭はそう言うと、ペコリと頭を下げた。
さっき?
何のことだろうか、とノウノは困惑した。
あ、思い出した。たしか最初に蛇女に絡まれていた少女である。
「たしか株式会社エモーションのアバターだったっけ?」
「はい、そうです。さきほど絡まれているところを、助けていただいて、ありがとうございました」
と、少女はもう一度、頭を深く下げた。
「いや、べつに良いって」
助けようと思って蛇女とバトルしたわけじゃない。むしろ、バトルしたかったから、ちょうど良かったのだ。
「バトル見てました。とても恰好良かったです。フォローもしました!」
少女はまるで、憧れの対象を見るような目で見てくる。
自分も立派なVDOOLになったんだなぁ、という実感がわいてきた。
エダがノウノの膝小僧を突いてきた。ディスプレイに文字が表示されている。「株式会社エモーションとは、コネを作っておきたい。フォロバしておいたらどうじゃ」とのことだった。
「フォロバしておくわ」
と、エダの指示通り、ノウノのほうからも、エダのアカウントをフォローしておいた。
株式会社エモーションとのつながりも大事だが、これからの学園生活において、友人のひとりぐらい作っておいたほうが良いだろうと思ったのだ。
「良いんですか! ありがとうございます」
「だけど、株式会社エモーションのアバターなら、私が出て行かなくても、あの蛇女たちも張り合えたんじゃないの?」
エモーションというと、絶賛成長中の企業である。あのロジカルンに匹敵するのではないかと言われていたりもする。
「いえいえ」と、少女は頭をぶんぶん左右に振った。「私なんかはポンコツなんで、とてもじゃないけど、ロジカルンのアバターには勝てません」
「そうなんだ」
「なにかの偶然で、エモーションの応募に通過できて、このアバターをもらえたんですけど、バトルの成績が芳しくなくって……」
ははは、と少女は苦笑していた。
アバターが優秀でも、やはり中身によって、差が出てくるものなんだろう。どうしてこの少女がエモーションの選考を通過できて、私が落ちたのよ――と、ちょっと不服に思った。
まあ、選考を判断している人の気分とか、時の運もあるのだろう。
とはいえ、べつに少女に嫌悪感を抱いたわけではない。むしろ、弱者の気持ちはわかるつもりだ。
ノウノもつい最近まで――っていうか、今朝までは弱者だったのだ。
「名前はなんて言うの?」
「私は、クリナです」
名前も栗みたいだ。名前に合わせたアバターなんだろうか。
「私はノウノよ。編入してきたばっかりだから、わからないことも多いの。これからよろしくね」
「あ、はい。私で良ければ、なんでもお手伝いします」
ノウノが差し出した手を、クリナがにぎってきた。
「さっそくなんだけど、私、女王とバトルしたいんだけど、バトルを断られちゃったの。選考があるとか聞いたんだけど、詳しいことを教えてくれない?」
「じょ、女王とバトルするつもりなんですか!」
と、クリナは悲鳴のような声をあげていた。
「そう。そのつもりで、この学園に来たんだから」
「さすがですね」
女王とバトルするための条件を、クリナは教えてくれた。
選考は2度あるらしい。
1次選考では、フォロワーが学園内で上位10位以内に入っている必要がある、とのことだ。
そして2次選考では、その残った10人で競い合って、1位になった人が女王とバトルする権利を得るとのことだった。
「道のりは遠いわね」
選考か、と思った。
すこし憂鬱になる。
VDOOLになる選考に24社も落ちてきたことを思い出したのだ。
「今現在、学園でフォロワー数1位が、300万の女王です。ですけど、選考に女王は入りません。その1位の女王とバトルするための選考ですから」
「2位から11位に入る必要があるってことね」
「これが現在の、2位から11位のフォロワー数です」
と、クリナがディスプレイを表示させてくれた。
1位の女王はさておいて、2位のフォロワー数は120万人だった。11位が90万となっている。
上位のほとんどが、ロジカルンとエモーションのアバターであるようだった。
ちらほら他企業のアバターも入っているようだ。
「100万人ぐらいのフォロワーが必要ってことね」
「そうなりますね」
今現在のノウノのフォロワーが5万人だから、まだまだ数が足りないということになる。もっとバズる必要があるわけだ。
「それにしても、1位の女王が300万で、2位が120万人って、1位と2位でものすごい差ね」
「そりゃもう、女王は最強ですから。ロジカルンの最新鋭の技術が使われていますし、それを使いこなしている女王も、きっと優秀なんだと思います」
私なんかとは違って、とクリナは自虐的なつぶやきを落としていた。
「まあまあ。でも、企業のVDOOLってだけで、一般人からしてみれば、憧れの対象なんだから元気だしなさいよ」
と、ノウノはクリナの肩をやわらかく叩いた。
「は、はい! ノウノさんからそう言われると、元気が出てきました!」
とのことだ。
単純である。
クリナの部屋番号は「288」。ノウノの隣室らしい。これからよろしくね、と挨拶をかわして別れた。
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