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第二章
不公平
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「奴隷から解放?」
いきなりのリサからの申し出にエレンは言葉をそのまま返す事しか出来なかった。
「そうよ。あとはサトちゃんとエレンちゃんがここにサインすれば、エレンちゃんは晴れて奴隷から解放されるわ」
リサがどこからか取り出した紙は奴隷解放証明書だった。
奴隷身分からの解放を正式に証明する公的な書類であり、これが領主に受理される事で奴隷から市民となるのである。
「お、お母さん! そんな勝手なっ! 私は今のままで……って! サ、サト様っ!?」
エレンは抗議の声をあげたが、その隙にサトはリサから書類を受け取ると、サッと自身のサインを書いてしまった。
「前にも言ったけど、俺は元々解放するつもりだったからね。お膳立てが済んでるなら俺の方は問題ないよ。あとはエレンさんが決めたらいい」
そう言ってサトはエレンに書類とペンを渡した。
「で、ですがっ!? 奴隷の解放に多額のお金が必要なはずです……そんな大金は……」
「ああ、それはチャラにしたから大丈夫よ」
リサがあっけらかんとそう言ったが、エレンには意味がわからなかった。
「チャ、チャラって……そんなわけには……」
「貴女は負債や犯罪で奴隷になったわけじゃないわ。人攫いによって奴隷にされた不当な奴隷なのよ。不当な扱いから解放されるのにお金が必要なんておかしいわよ」
「そ、そんな理屈通じるわけないじゃない! それに私が奴隷になったのは100年近くも前で、今さら……」
「その辺は天の声でね。色々大変だったみたいだけど、皆んなの協力でなんとかなったわ」
「皆んな?」
エレンの疑問に答えず、リサはエレンを手招きして店の奥へと移動した。
「聞いたわよ~貴女達、協定を結んでたのね」
「なっ!? だ、誰からそれを……」
「ふふふっ……4人が対等な立場でサトちゃんにアピールできるように。いつも側にいるエレンちゃんは自宅では何もしない。力の強いアメリアちゃんは力尽くで襲わない。貴族であるミネルヴァちゃんは権力を使わない。商会組合の副ギルドマスターのクロエちゃんはその立場を使わない。なるほど、確かに一見公平に見えるわね」
4人だけの秘密をあっさりバラされて赤面するエレンだったが、リサは構わず言葉を続けた。
「でも、この条件に他の3人は公平じゃないって思ったのよ。エレンちゃん、貴女はサトちゃんの側に居られればいいって言ったそうね?」
「い、言ったけど……それの何が不満なのよ?」
「他の3人はサトちゃんのお嫁さん狙い、なのにエレンちゃんだけは違う。奴隷だから、奴隷だったという引け目に無理矢理自分の願望を押さえ込んでいたから。それが我慢できなかったようね。3人は貴女の奴隷解放のために色々駆け回ったみたいよ」
エレンは言葉を失った。
恋敵である3人が不利になるのを承知で、自分のために動いてくれていた事に。
「なんでそんな事……頼んでもないのに……」
エレンの瞳から大粒の涙が溢れ出た。
リサはそれを優しく拭い、エレンを抱きしめた。
「アメリアちゃんはね、『勝負は正々堂々にゃ! 真っ向から勝負して私が勝つにゃ!』ですって」
「っ!? あ、あの駄猫……」
「ミネルヴァちゃんは『貴族の責務、民に対して不利な事は構わない。だが、有利である事は許されん』だって」
「ミネルヴァ様……」
「クロエちゃんは『私のモットーは明朗会計なんです。だからフェアじゃない条件は私のモットーに反するんです。だから、これは私の問題なので、エレンさんは気にしなくていいんです』って」
「クロエちゃんまで……」
リサの胸に顔を埋める形で見えなかったが、エレンは涙で顔をぐちゃぐちゃにしていたのは声だけでもわかった。
「エレンちゃんに本当に良いお友達が出来て、ママは嬉しいわ。でもね、その上で一番幸せになって欲しい。貴女が見つけた最高の男性と添い遂げて欲しいの。これはママからのお願いよ」
その言葉でエレンは理解した。
3人だけではない。
きっとリサも何かしら尽力したのであろうと。
それを知ったエレンは一層強くリサを抱きしめた。
「マ、ママ……うっ、うわぁああああ! あぁあああああああ!」
最後の砦が崩れたかのようにエレンの積年の涙が一気に流れ、リサはそれを優しく受け止め続けた。
この日、エレンは正式に奴隷から解放されたのである。
いきなりのリサからの申し出にエレンは言葉をそのまま返す事しか出来なかった。
「そうよ。あとはサトちゃんとエレンちゃんがここにサインすれば、エレンちゃんは晴れて奴隷から解放されるわ」
リサがどこからか取り出した紙は奴隷解放証明書だった。
奴隷身分からの解放を正式に証明する公的な書類であり、これが領主に受理される事で奴隷から市民となるのである。
「お、お母さん! そんな勝手なっ! 私は今のままで……って! サ、サト様っ!?」
エレンは抗議の声をあげたが、その隙にサトはリサから書類を受け取ると、サッと自身のサインを書いてしまった。
「前にも言ったけど、俺は元々解放するつもりだったからね。お膳立てが済んでるなら俺の方は問題ないよ。あとはエレンさんが決めたらいい」
そう言ってサトはエレンに書類とペンを渡した。
「で、ですがっ!? 奴隷の解放に多額のお金が必要なはずです……そんな大金は……」
「ああ、それはチャラにしたから大丈夫よ」
リサがあっけらかんとそう言ったが、エレンには意味がわからなかった。
「チャ、チャラって……そんなわけには……」
「貴女は負債や犯罪で奴隷になったわけじゃないわ。人攫いによって奴隷にされた不当な奴隷なのよ。不当な扱いから解放されるのにお金が必要なんておかしいわよ」
「そ、そんな理屈通じるわけないじゃない! それに私が奴隷になったのは100年近くも前で、今さら……」
「その辺は天の声でね。色々大変だったみたいだけど、皆んなの協力でなんとかなったわ」
「皆んな?」
エレンの疑問に答えず、リサはエレンを手招きして店の奥へと移動した。
「聞いたわよ~貴女達、協定を結んでたのね」
「なっ!? だ、誰からそれを……」
「ふふふっ……4人が対等な立場でサトちゃんにアピールできるように。いつも側にいるエレンちゃんは自宅では何もしない。力の強いアメリアちゃんは力尽くで襲わない。貴族であるミネルヴァちゃんは権力を使わない。商会組合の副ギルドマスターのクロエちゃんはその立場を使わない。なるほど、確かに一見公平に見えるわね」
4人だけの秘密をあっさりバラされて赤面するエレンだったが、リサは構わず言葉を続けた。
「でも、この条件に他の3人は公平じゃないって思ったのよ。エレンちゃん、貴女はサトちゃんの側に居られればいいって言ったそうね?」
「い、言ったけど……それの何が不満なのよ?」
「他の3人はサトちゃんのお嫁さん狙い、なのにエレンちゃんだけは違う。奴隷だから、奴隷だったという引け目に無理矢理自分の願望を押さえ込んでいたから。それが我慢できなかったようね。3人は貴女の奴隷解放のために色々駆け回ったみたいよ」
エレンは言葉を失った。
恋敵である3人が不利になるのを承知で、自分のために動いてくれていた事に。
「なんでそんな事……頼んでもないのに……」
エレンの瞳から大粒の涙が溢れ出た。
リサはそれを優しく拭い、エレンを抱きしめた。
「アメリアちゃんはね、『勝負は正々堂々にゃ! 真っ向から勝負して私が勝つにゃ!』ですって」
「っ!? あ、あの駄猫……」
「ミネルヴァちゃんは『貴族の責務、民に対して不利な事は構わない。だが、有利である事は許されん』だって」
「ミネルヴァ様……」
「クロエちゃんは『私のモットーは明朗会計なんです。だからフェアじゃない条件は私のモットーに反するんです。だから、これは私の問題なので、エレンさんは気にしなくていいんです』って」
「クロエちゃんまで……」
リサの胸に顔を埋める形で見えなかったが、エレンは涙で顔をぐちゃぐちゃにしていたのは声だけでもわかった。
「エレンちゃんに本当に良いお友達が出来て、ママは嬉しいわ。でもね、その上で一番幸せになって欲しい。貴女が見つけた最高の男性と添い遂げて欲しいの。これはママからのお願いよ」
その言葉でエレンは理解した。
3人だけではない。
きっとリサも何かしら尽力したのであろうと。
それを知ったエレンは一層強くリサを抱きしめた。
「マ、ママ……うっ、うわぁああああ! あぁあああああああ!」
最後の砦が崩れたかのようにエレンの積年の涙が一気に流れ、リサはそれを優しく受け止め続けた。
この日、エレンは正式に奴隷から解放されたのである。
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