鑑定能力で恩を返す

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第一章

エレンの想い

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 頭上で4つのグラスがチンっと打ち鳴らされた。
 そして各々がグラスを口に運び、中身を喉へと送っていった。
 一息ついた後、最初に口を開いたのはエレンだった。

「私は皆さんとは立場が違いますから、最初に話させてもらいます。私の名はエレン。サト様の奴隷です。ですから、主人あるじの隣を歩ける身分で無いことは重々承知しています」

 エレンは淡々と語り、他の3人もそれを黙って聞いていた。

「ですが、私も1人の女。かつて、賤しい男によって奪われた幸せを取り戻してくれたサト様への忠義は、この中の誰よりも強いと自負しております! ですので、半端な想いの者がサト様の隣に居座るなど堪えられません! そのような者が近づいて来たら、私は全てを賭して排除致します。それを御留意いただきたく思います」

 エレンはそう言うと他の3人を値踏みするかのように順に視線を走らせた。
 その様子に苦笑を洩らしたのはアメリアだった。

「ふん、何が『隣を歩ける立場じゃない』にゃ。邪魔者は排除するって事でしょ? 旦那様に近づく者を全て排除すれば肩書きはともかく実態としては夫婦と同じにゃ」

「それにサトの事だ。いつまでもお前を奴隷とはすまい。解放されれば結婚も出来よう」

「今は高みの見物って感じ? 奴隷って身分からしたら低みの見物かな? 高低差は関係ないよね。重要なのは観る視点を変える事なんだから」

 3人からの反論にも動じず、エレンは表情を崩すことはなかった。

「何とでも言いなさい小娘共。私はダンピールのエレン。真名を捧げ、サト様に一生お仕えすると決めたのです。サト様の側に来たければ、私を越えてみせなさい」

 3人は怜悧な微笑を浮かべるエレンに底知れぬ魅力を感じずにはいられなかった。

「厄介な女にゃ。その気になれば公都中の男を虜に出来るかもしれないってのに、1人の男に固執するにゃんて」

「普段は顔を伏せておるし、魔法で己の魅力が伝わらないようにしているのだろう。でなければ、これだけの女だ。貴族共が放っておくわけがない」

「人間じゃなかったんだぁ。うーん、これってもしかして、ただの平民の人族の私が一番不利なんじゃない? エレンさんの話が終わったんなら次は私が話していいかな?」

 クロエはその場に立って、皆を見た。
 そして、全員が頷くのを確認すると、演劇のような大きな仕草と共に高らかに話し始めた。

「私の名はクロエ! 公都裏町一の酒場《歌う花嫁亭》の看板娘とは仮の姿! ある時は裏通りのお年寄りのアイドル! ある時は天真爛漫な街娘! しかしてその正体は……」

 他の3人はクロエの芝居かかった語りに溜息を吐き、冷たい視線を向けていた。
 しかし、クロエは気にせず語り続ける。

「その正体は……ハメルン商会組合の副組合長、クロエ・ランベールなのだ!」

「「「なぁにぃいいいいいい!?」」」

 
 
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