鑑定能力で恩を返す

第一章

聴衆の眼差し

「サト様。改めまして、不束者ですが、よろしくお願い致します」

　家の扉の前でエレンはサトに深々と頭を下げた。
　
「ちょ、ちょっと！　やめてください、エレンさん！　こんな所でっ！」

　サトは慌ててエレンの側に駆け寄って、頭を上げるように頼んだ。
　サトが慌てるのも無理はない。
　ここは人通りの少ない裏通りではなく、公都ハメルンのメインストリート、目抜き通りである。
　人通りの多さは比べるべくもなく、絶世の美女であるエレンに通りを行く人々の視線が集まっていた。
　そんな中でエレンがサトに頭を下げたのである。
　聴衆の面前で美女に頭を下げさせる最低野郎と周りに思われるとサトが焦るのも無理はない。
　しかし、ここは現代日本ではなく、異世界である。
　ここでは未だに女性の地位は低く、この世界に暮らす人から見ればこの光景は特に気にするようなものでもなかった。
　ただただ、エレンの美貌を見たいだけなのである。

「と、とにかく家に入ろう！　ほら、こっちに来て！」

「あ……」

　サトは困惑のあまりエレンの手をガッと掴むと一緒に家の中に入っていった。
　そして、この行為の方が周りの人間から忌避されるべき行為だった。

「チッ！　今からお楽しみかよっ！」

「あの美女と…………爆ぜろ！」

　2人がいなくなった目抜き通りでは、周りにいた男達がボソボソと陰口をたたいていた。

「それにしてもすごい美人だったなぁ……嫁さんか、それとも奴隷かな？」

「どっちにしても羨ましいぜ！　まぁ、この通り沿いに家を構えてるんだ。成功してんだろうよ」
　
「ふん！　ここで落ちぶれて田舎に帰るやつも多いいんだ！　せいぜい失敗しないように…………なんか聞こえないか？」

　悪態をついていたハンター風の男が何かに気づいて周囲に問いかける。

「そうか？　俺は何も……」

「いや待て。遠くから地鳴りのような音が……や、やばいぞ！　あれが来るんだ！　おぉい！　みんな逃げろぉおおお！」

　一瞬にして辺りは騒然となった。
　通りにいた人達は蜘蛛の子を散らすように逃げまどい、叫び声と泣き声、そして少ないながらも歓喜の声が響いていた。

「な、なんだ？　何かあったのか？」

　さすがの騒ぎにサトは扉を開けて外を見る。
　そこには先ほどまでの威勢の良い賑やかさはなく、あるのはどちらかと言えば阿鼻叫喚図だった。
　サトがボケっとそれを見ていると、通りを行く人が慌てて声をかけてきた。

「おいっ！　アンタ！　早く扉を閉めて中に入っとけ！　アレが来るぞ！」

「アレ……ですか？」

　サトの疑問には答えず、男は脱兎の如くその場から消え去っていた。
　疑問だけ受け取ったサトは、あまりにも唐突な流れにアレについてその場で考察していた。
　すると、考えるまでもなく答えが向こうからやって来た。

「ウルァアアアアアアアア！」