鑑定能力で恩を返す

KBT

文字の大きさ
上 下
67 / 155
第一章

姦しい

しおりを挟む
 ロンメル商店の中は静まり返っていた。
 人がいないわけではない。
 ただ、中にいる人達全員が人形のように固まったまま動かなかっただけだった。
 暫しの静寂の後、最初に時を動かしたのは嗄れた声の男だった。

「サトが必要とは、どういう意味ですかな? アルヴォード女伯爵」

 人族の老人の声が静かに広がる。
 それをきっかけに止まっていた2人の女の時も動き始めた。

「そ、そうにゃ! い、いくら何でもあんまりにゃ! 私が先に眼をつけたのに後から横取りなんて酷いにゃ!」

「またライバルが増えるのですか? サト様の魅力なら致し方ないとはいえ、これ以上は厄介ですね」

 いがみ合っていたはずの猫獣人と女ダンピールはミネルバァとサトの間に慌てて割って入り、2人を離すように距離をとった。
 その様子を当のミネルバァは不思議そうに見ていたが、急にハッとなって顔を赤らめる。

「ば、馬鹿者っ! 誰がサトに求婚すると言ったっ!?」

「その赤くなった顔はなんにゃっ!?」

「もしやもしやですね! 求婚なんて誰も言ってないのに! メイドがメイドなら主人も主人です! 破廉恥です!」

「お前に破廉恥がどうのこうのと言われとうないわ!」

「それより御主人! 求婚は駄目にゃ! こうなったら先に既成事実を!」

「やめなさい! この発情猫!」

 顔を赤らめながら説明を続けるミネルバァに、メイド服を脱ごうとするアメリアに必死にそれを止めつつ、自身の服をはだけさせるエレン。
 三者三様の女性達の言動にサトとロンメルは驚きを通り越して呆れ始めていた。
 サトはお茶を入れ、茶菓子を用意し、ロンメルと共に成り行きをカウンターから見守る事にした。

「……ん? この茶葉はどこ産じゃ? 良い味しとるのぅ」

「ああ、それはこの間バァラダさんが持ってきたんですよ。『臭いし、苦くて食えたもんじゃないけどなんとか金にしてくれ!』って」

「やれやれ、あいつは茶葉もわからんのか……じゃが、ダンジョン産の茶葉など珍しいからのぅ。仕方ないか」

「でもハンター達は茶を好みませんからね売れないんで。それでウチで飲む用にしたんです。気に入ってもらえて良かったです」

「おっ? 茶菓子はマルガばあさんとこのクッキーか?」

「ええ。あっ、そういえばマルガさんがロンメルさんとお茶をしたいって言ってましたよ」

「あのばあさん、話が長くてなぁ……」

「駄目ですよ。そんな言い方しちゃ。そうそう、マルガさんと言えばこの間、タヌキの毛皮で腹が……」

「「「こらぁ!!」」」

 3人の女達はまったりと過ごす2人に一斉に怒りの声を上げた。

「何を優雅に貴様らだけお茶をしてるんだっ! しかも、良い香りをさせおって! 私にも淹れろ!」

「酷いにゃ、酷いにゃ! 乙女が肌を露にしているのに無視するにゃんて酷いにゃ!」

「サト様! ロンメル様! あんまりです!」

 この後、結局みんなでお茶を飲むことになり、3人はようやく落ち着いた。
 
 リッチトレントの茶葉
 芳醇な樹人と呼ばれるリッチトレントの葉。
 リッチトレントは木属性でありながら蒸気を好む性質があり、それにより自然と葉が加工され、最高品質の茶葉となる。
 凝縮されたうま味と甘味があり、芳醇な香りがする。
 相場100g   10000ルーク。
 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

ギフトで復讐![完結]

れぷ
ファンタジー
皇帝陛下の末子として産まれたリリー、しかしこの世はステータス至上主義だった為、最弱ステータスのリリーは母(元メイド)と共に王都を追い出された。母の実家の男爵家でも追い返された母はリリーと共に隣国へ逃げ延び冒険者ギルドの受付嬢として就職、隣国の民は皆優しく親切で母とリリーは安心して暮らしていた。しかし前世の記憶持ちで有るリリーは母と自分捨てた皇帝と帝国を恨んでいて「いつか復讐してやるんだからね!」と心に誓うのであった。 そんなリリーの復讐は【ギフト】の力で、思いの外早く叶いそうですよ。

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

処理中です...