鑑定能力で恩を返す

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第一章

見つめ合う2人

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 サトは困る。
 とても困っている。
 今までにない状況に困り果てている。

「あ、あの……」

「…………」

 サトのやっと出た言葉にもエレンは返事をしなかった。
 ただ、微かな吐息まで感じられるほどの距離まで近づいてじっと見つめるだけ。
 サトはこれまでの人生で親族も彼女以外でここまで異性に接近された事はなかった。
 これまでサトの出会った女性の中で、エレンは一番美しかった。
 それ故にどう対応したらいいかわからず、サトは困惑していたのである。
 しかし、それはエレンも同じだった。
 ロンメルに指摘されたように、サトはエレンにとって恩人である。
 恩人に対して先程のような無礼な態度を取ることはできない。
 だが、サトには聞きたいことが山ほどある。
 エレンはそれをどのように尋ねるべきか思案を重ねており、答えが見つかるまではとりあえず見つめるしか出来ないのだった。
 至近距離で見つめ合う2人の男女。
 しかし、互いの表情は決して穏やかではなかった。

「オホン! あー、お前さん達。ええ加減にしたらどうじゃ? これ以上時間を無駄にしても何も良い事はないと思うがのぅ」

 2人の状況に痺れを切らしたのはロンメルだった。
 そして、その嗄れた声で2人の時は動き出した。

「そうですね。本当にその通りです。人族には『年の功』と言うものがあるとお聞きしますが、どうやら本当のようですね。もっとも私より年下でしょうが」

「その通りじゃ。じゃが人族ではこれでも老齢でな。年寄りの言う事はある程度は聞いておくものじゃ。そして、ある程度は聞き流してくれていい。どうせ過去の回顧でしかないからのぅ」

「……肝に銘じておきます。それで、ここからが本題なのですが、えっと……」

「あっ! サトと言います! 名乗りもせずに失礼しました!」

「ロンメルじゃ。この家の主人で、サトの保護者じゃよ」

 エレンは軽く会釈してから優雅に話し始めた。

「サト様、ロンメル様。私の呪いを解いてくださった事、深く感謝致します。ですが、サト様にお聞きしたい事があるのです」

「は、はい……なんとなくわかりますけど……」

「聡明でいらっしゃるのですね。では、改めてお聞きします。何故、貴方がジラノフ帝国宮廷魔術師団第三席、ネストログナの名前を知っておられるのですか?」

「そ、それはその……」

 サトは口籠もった。
 いくら古代の叡智を持っていようとも遠く離れた異国の、それも既に亡くなっているであろう人物の名前を知っている理由は流石に説明のしようがない。
 ロンメルもこれには助言の出しようがなかった。

「……お答えいただけないのは、何か後ろめたい事があるからでしょうか? だとすれば……」

 エレンの周りに猛々しい魔力が浮かび上がっていた。
 
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