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第一章
御息女
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カウンターを飛び越えて抱きついてきた猫獣人のアメリアにサトは動く事が出来なかった。
ふくよかな胸の感触が幸せで顔全体を包み込む。
それと同時に凄まじい腕力が頭を胸に押さえつけて、呼吸を困難にしている。
天国と地獄。
これほどわかりやすい例えはないだろう。
「いったぁ……おいっ! アメリアっ! よくも私を突き飛ばしたなっ!」
ミネルバァに怒鳴られたアメリアは悪びれた様子もなく、視線だけ向けた。
「ごめんなさぁい。でも、昔から人の恋路を邪魔するとケンタウロスに蹴られるって言うから、それよりはマシだと思ってくださぁい」
「なんで私がケンタウロスに蹴られなければならんのだっ!」
愛しい人に逢いに行く道を塞ぐ者は暴れ馬にでも蹴られてしまえばいいという日本の都々逸が元になっている話ですと、サトは朦朧とする意識の中で思った。
「メイドさんや、そろそろ話してやらんとその愛しい人とやらがあの世に行くぞぃ?」
「うにゃ?」
ロンメルに言われて、アメリアは青白くなりかけているサトを見て、慌てて離した。
「あちゃぁ……ごめんねぇ。ついつい、劣情を抑えられなかったのぉ」
「ゴホッゴホッ……れ、劣情……」
「アメリア! 恥の上塗りはやめろ。ロンメル殿、サト殿。試すような真似をした事を謝罪する」
「ごめんなさぁい!」
ミネルバァとアメリアが頭を下げて謝罪した事にサトはともかく、ロンメルは驚いた。
貴族が平民に頭を下げるなどあり得ない事だからだ。
「ミネルバァ様、御尊顔をそのようにされては……」
「謝るべき時謝れない。人として最も恥ずべき行為だ。私はそこに身分の壁はないと考えている」
「こう見えて、御主人様は意外と常識人なんだよぉ」
「……おい。意外とは余計だ」
「試した事は悪かったけど、こっちも事情があるのよぉ。お願いだから話を聞いてあげて欲しいなぁ。その為なら私はサトの子を産んでもいいよぉ」
獲物を捉らえたようなアメリアの視線に、サトはたじろいだ。
さっきは危うく死にかけていたこともあり、アメリアに対して少し苦手意識が芽生えていたからだ。
「そんな話はどうでもいいんだっ! とにかく、試すような真似をしたのには訳がある。実は私はミネルバァ・フォン・アルヴォードを名乗っているが、アルヴォード家の血統ではない」
「はい、存じております。伯爵様には御息女はおられなかった筈です。しかし、そうなると、貴女様は……」
ロンメルの疑問はもっともだ。
いないはずの貴族の息女を騙ったとあれば、大問題である。
「そこは謀っていないぞ。今の私は確かにアルヴォード家の人間だ。体面上はな」
「それは……まさか……」
「私はアルヴォード伯爵が政略結婚に利用するために、金で買ってきた娘なんだよ」
ふくよかな胸の感触が幸せで顔全体を包み込む。
それと同時に凄まじい腕力が頭を胸に押さえつけて、呼吸を困難にしている。
天国と地獄。
これほどわかりやすい例えはないだろう。
「いったぁ……おいっ! アメリアっ! よくも私を突き飛ばしたなっ!」
ミネルバァに怒鳴られたアメリアは悪びれた様子もなく、視線だけ向けた。
「ごめんなさぁい。でも、昔から人の恋路を邪魔するとケンタウロスに蹴られるって言うから、それよりはマシだと思ってくださぁい」
「なんで私がケンタウロスに蹴られなければならんのだっ!」
愛しい人に逢いに行く道を塞ぐ者は暴れ馬にでも蹴られてしまえばいいという日本の都々逸が元になっている話ですと、サトは朦朧とする意識の中で思った。
「メイドさんや、そろそろ話してやらんとその愛しい人とやらがあの世に行くぞぃ?」
「うにゃ?」
ロンメルに言われて、アメリアは青白くなりかけているサトを見て、慌てて離した。
「あちゃぁ……ごめんねぇ。ついつい、劣情を抑えられなかったのぉ」
「ゴホッゴホッ……れ、劣情……」
「アメリア! 恥の上塗りはやめろ。ロンメル殿、サト殿。試すような真似をした事を謝罪する」
「ごめんなさぁい!」
ミネルバァとアメリアが頭を下げて謝罪した事にサトはともかく、ロンメルは驚いた。
貴族が平民に頭を下げるなどあり得ない事だからだ。
「ミネルバァ様、御尊顔をそのようにされては……」
「謝るべき時謝れない。人として最も恥ずべき行為だ。私はそこに身分の壁はないと考えている」
「こう見えて、御主人様は意外と常識人なんだよぉ」
「……おい。意外とは余計だ」
「試した事は悪かったけど、こっちも事情があるのよぉ。お願いだから話を聞いてあげて欲しいなぁ。その為なら私はサトの子を産んでもいいよぉ」
獲物を捉らえたようなアメリアの視線に、サトはたじろいだ。
さっきは危うく死にかけていたこともあり、アメリアに対して少し苦手意識が芽生えていたからだ。
「そんな話はどうでもいいんだっ! とにかく、試すような真似をしたのには訳がある。実は私はミネルバァ・フォン・アルヴォードを名乗っているが、アルヴォード家の血統ではない」
「はい、存じております。伯爵様には御息女はおられなかった筈です。しかし、そうなると、貴女様は……」
ロンメルの疑問はもっともだ。
いないはずの貴族の息女を騙ったとあれば、大問題である。
「そこは謀っていないぞ。今の私は確かにアルヴォード家の人間だ。体面上はな」
「それは……まさか……」
「私はアルヴォード伯爵が政略結婚に利用するために、金で買ってきた娘なんだよ」
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