鑑定能力で恩を返す

KBT

文字の大きさ
上 下
31 / 155
第一章

御心のままに

しおりを挟む
 アルヴォード伯爵家に伝わる名剣として、置かれた剣をサトの《鑑定能力かんていスキル》が、以前、隣の歌う花嫁亭で見たメッキの剣だと告げていた。
 サトは困惑し、固まったまま話せないでいた。

「ほぅ、これは……ミスリルですかな?」

「……その通りだ。我が家に伝わる名剣ベトリューガーはミスリルの名剣。その昔、初代アルヴォード伯爵はこの剣と共に数多の戦場を駆け抜け、数々の武勲を立てた英傑だ」

 サトの表情はさらに曇った。
 今の話にも不可解な点があるのがわかっているからだ。
 ロンメルが話しているミネルバァ嬢を更に見たサトは、《鑑定能力かんていスキル》でアルヴォード家に関する情報も知っていたからだ。
 見れば見るほど詳細は鑑定が出来る。
 それがサトの鑑定能力かんていスキルの真価であった。

「ふむ。近頃、歳のせいか目が霞んでいかんな。サト、お前に任せる」

「えっ! お、俺にですかっ!?」

「ああ、任せたぞぃ」

 そう言うと剣の前にサトを連れ出し、ロンメルは後ろに下がった。
 サトは困惑、いや、混乱していた。
 この剣が紛い物であるのはわかっている。
 前回と同様の説明をすれば鑑定能力かんていスキルの事もバレる事はないだろう。
 しかし、相手は貴族である。
 自信たっぷりに持ってきた剣をナマクラだと言われて、プライドを傷つけようものなら後で何をされるかわからない。
 嫌がらせをされるか、難癖をつけられて潰されるか。
 貴族にとって平民などその程度の存在なのである。
 サトの額に冷汗が浮かんでいた。
 万が一、不快を買って自分だけが処罰されるならまだいい。
 もし、そこにロンメルまで巻き込んでしまったら……そう考えるとサトは口を開く事ができなかった。

「どうした? サト、と言ったか? お前が代わって鑑定する事に私も依存ないぞ? さぁ、言うがいい」

 ミネルバァに急かされても、サトは黙ったままだった。
 自分の中で何が正解かわからないからだ。
 正直にガラクタと言うか、それとも偽ってミネルバァ嬢の話に乗るか。
 答えの出ない堂々巡りをし、無駄に時間が経過した時、メイドが一言呟いた。

「御心のままに」

 サトは伏していた顔をガバッと上げたが、その時すでにメイドは何事もなかったように無表情に戻っていた。

『御心のままにして』

 その言葉を信じるなら、ミネルバァ嬢の話に乗るしかない。
 これで光明が見えた。
 そう思って口を開こうとした瞬間にサトの脳裏に馴染みだったハンター達の顔が浮かんできた。
 みんなが、命を賭けて持ってきた物にサトは過小評価はしないまでも、過大評価をした事はなかった。

 『明朗会計』

 それがサトが今まで大事にしてきたここでの商売である。
 サトはチラッとロンメルの顔を見ると、意を決して口を開いた。

「素晴らしいですね。初代アルヴォード伯爵が大切にされていた剣です。それ相応の価値がありますよ」

 サトの言葉をミネルバァ嬢は表情を変えないまま聞いていたが、やがて小さく口を開いた。

「……そうか。この剣は素晴らしいか……そうだろう! この剣はミスリルの……」
 
「ええ、この剣は間違いなく、ミスリルメッキの!」

 サトはミネルバァ嬢の言葉を遮って、そう強く答えた。
 ミネルバァ嬢の顔がみるみると険しいものに変わって行くのを見て、冷汗をかいても、その表情に臆したところは微塵もなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

王宮を追放された俺のテレパシーが世界を変える?いや、そんなことより酒でも飲んでダラダラしたいんですけど。

タヌオー
ファンタジー
俺はテレパシーの専門家、通信魔術師。王宮で地味な裏方として冷遇されてきた俺は、ある日突然クビになった。俺にできるのは通信魔術だけ。攻撃魔術も格闘も何もできない。途方に暮れていた俺が出会ったのは、頭のネジがぶっ飛んだ魔導具職人の女。その時は知らなかったんだ。まさか俺の通信魔術が世界を変えるレベルのチート能力だったなんて。でも俺は超絶ブラックな労働環境ですっかり運動不足だし、生来の出不精かつ臆病者なので、冒険とか戦闘とか戦争とか、絶対に嫌なんだ。俺は何度もそう言ってるのに、新しく集まった仲間たちはいつも俺を危険なほうへ危険なほうへと連れて行こうとする。頼む。誰か助けてくれ。帰って酒飲んでのんびり寝たいんだ俺は。嫌だ嫌だって言ってんのに仲間たちにズルズル引っ張り回されて世界を変えていくこの俺の腰の引けた勇姿、とくとご覧あれ!

外れスキル「トレース」が、修行をしたら壊れ性能になった~あれもこれもコピーで成り上がる~

うみ
ファンタジー
 港で荷物の上げ下ろしをしてささやかに暮らしていたウィレムは、大商会のぼんくら息子に絡まれていた少女を救ったことで仕事を干され、街から出るしか道が無くなる。  魔の森で一人サバイバル生活をしながら、レベルとスキル熟練度を上げたウィレムだったが、外れスキル「トレース」がとんでもないスキルに変貌したのだった。  どんな動作でも記憶し、実行できるように進化したトレーススキルは、他のスキルの必殺技でさえ記憶し実行することができてしまうのだ。  三年の月日が経ち、修行を終えたウィレムのレベルは熟練冒険者を凌ぐほどになっていた。  街に戻り冒険者として名声を稼ぎながら、彼は仕事を首にされてから決意していたことを実行に移す。    それは、自分を追い出した奴らを見返し、街一番まで成り上がる――ということだった。    ※なろうにも投稿してます。 ※間違えた話を投稿してしまいました! 現在修正中です。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

無詠唱魔法が強いなんて誰が決めた! ~詠唱魔法を極めた俺は、無自覚に勘違い王子を追い詰める~

ノ木瀬 優
ファンタジー
 詠唱魔法に強いこだわりを持つクロは無詠唱魔法を一切覚えずに、同郷のマリアと国立魔導士養成学校に入学する。だが、そこにはめんどくさい勘違い王子がいて……。  勘違いと空回りを続ける馬鹿王子と、実は・・・なクロとマリア。彼らの学園生活が、今、始まる!  全11話(約4万6千字)で完結致しますので安心してお読みください。  学園生活が始まるのは1話からです。0話は題名の通り過去の話となっておりますので、さらっと読みたい方は、1話から読まれてもいいかも?です。   残酷な描写、肌色表現はR15の範囲に抑えたつもりです。  色々実験的な試みも行っておりますので、感想など頂けると助かります。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

処理中です...