鑑定能力で恩を返す

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第一章

特買日

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 ロンメル商店は朝に店を開けて、夕方に閉めるという営業スタイルをしているが、朝から来る客はほとんどなく、昼過ぎあたりからボチボチ客が増えてくるのが日常だった。
 しかし、この日は違って朝からロンメル商店に人が集まっていた。
 
「サト、頼む! この通りだ! 買い取ってくれ!」

「いや! 俺の方を買い取ってくれ! 相場より安くていいからよ!」

「本当に頼むよ! もう、どうしようもないんだよ……」

「そう言われても……」

 屈強なハンター達に頼み込まれ、サトは困っていた。
 なぜなら、彼等は同じ物を大量に持ってきていたからだ。
 やむを得ずそれに目を向けると、サトの脳裏に言葉が浮かんでくる。

 《オーク肉》
 オークの肉。豚肉よりジューシーで柔らかく、栄養価が高い。
 相場100g 1000ルーク 

 サトは脳裏に浮かんだ情報と目の前にある大量のオーク肉に頭を抱えていた。
 普段であればオーク肉は高級品であり、買い取って販売するだけでも利益が出る品物だ。
 しかし、今は状況が違う。
 数日前、ハメルンから馬車で半日の街がオークの集団に襲われる事件があった。
 街にはハンター達が数チームと警備の騎士団がいたため、丸一日かけて討伐され、街の被害は最小限に抑えられたが、問題はここからだった。
 討伐されたオークは全部で82体。
 オーク一体から獲れる肉は約150キロにもなる。
 つまり、12300キロのオーク肉が市場に出回ることになった。
 初めは歓喜していたハンター達だったが、流石にこの量である。
 ハメルン都市内のオーク肉の流通量は一気に増えててしまった。
 そうなってくると、都市内の店でオーク肉は過剰在庫状態。
 買取値も大幅に下落し、1キロ6000ルークだった買取相場も現在では半値近くまで値下がっている。
 保存技術のないこの世界では肉は早目に消費しないといけない商品なので、売れないオーク肉はどの店でも買い取りお断りになっていた。
 嬉々としてオーク肉を持ち込んだハンター達だったが、今は売れない肉を持って、都内をゾンビのように彷徨い歩き、買い取ってくれるよう馴染みの店に頼み込んで回っていた。
 そして、ロンメル商店にも例外なく、ハンター達はやって来たというわけだ。
 
「頼むよ、サト! もう、どこの店でも断られて此処しかないんだよ……」

「俺なんて15キロもあるんだぞ。捨てるわけにもいかないしなぁ……」

「アホかっ! 罰当たりめ! 食べ物を粗末にしたら食難に合うぞ!」
 
 ハンター達は意外と信心深い。
 毎日が命懸けの彼らにとっては、験を担ぐ事は先の見えない未来に対しての不安解消法みたいなものだからだ。

「でも、ウチにもかなり持ち込みがあったんですよ。すでに50キロ近くはあるしなぁ」

 サトは困った顔で倉庫に積まれたオーク肉を思い出す。
 
「そこを何とか頼む! そうだ! 他にもおまけで色々付けるからさ!」

 そう言って1人の男が荷物から色んな物を出してきた。
 
「いや、そんな物を出されても……ん? あっ! こ、これはっ! これがあればもしかしたら…………わかったよ! 此処にあるオーク肉、全部買わせてもらいます!」

「「「なぁにぃいいいいいいい!」」」

 サトの言葉にハンター達は驚きの声を一斉に上げた。


 
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