鑑定能力で恩を返す

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第一章

納得の説得

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「ぐぅ……」

 サトの頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。
 古今東西、ありとあらゆる知識が怒涛のように押し寄せてくる。
 脳を圧迫するような知識量にサトの頭は割れんばかりの悲鳴をあげていた。

「ん? おいっ! どうした!? 何があった!?」

「急に苦しみ出したよ! とにかく、回復魔法をかけるね!」

「っ! いかんっ! 血が噴き出しているぞ! 回復急げ!」

「サトっ! どうしたんじゃ!」

 サトの眼、鼻、耳、口から血が流れ出し、カウンターの上に血溜まりが出来ていた。
 尋常ではない苦しみ方のサトにジュリアン達は適切な処置を施していく。
 優秀なハンターである彼等はトラブルに対する備えが常に出来ており、それがサトの命を救う事に繋がった。
 やがて、ヘンリーの回復魔法と店にあった回復薬が尽きかけた頃、サトの脳内に流れ込む知識の奔流が止まった。

「うっ……はぁはぁはぁはぁ……」

 カウンターに伏すようにしながらも、荒ぶる呼吸を整えるサトの顔色は蒼白から戻りつつあった。

「お、治まった……のか?」

「ふぇぇぇ……もう魔力切れかけだよ……もう勘弁して……」

「うむ。出血も止まったし、脈も正常に戻っているようだな」

 ジュリアン達は安堵し、一息ついた。
 特に回復魔法を連続でかけ続けていたヘンリーは、床にへばっていた。

「やれやれ、人騒がせな。回復薬も大量に使ったし、こりゃ大赤字じゃな。しかしサトよ、一体何があったというんじゃ?」

「はぁはぁ……す、すいません。急に頭が割れそうになって……皆さんに感謝します。それより、ジュリアンさん、さっきの笛をもう一度だけ見せてもらえませんか?」

「あ、ああ。構わないが、大丈夫なのか? 少し休んだ方がいいんじゃないのか?」

 そう言いながらもジュリアンは笛を取り出して、汚れていない場所に置いた。
 サトはそれを見ると、すぐに口を開いた。

「ジュリアンさん、やはりこれは《ハメルンの魔笛》のようです。これを見てください」

 サトは笛の側面を指差した。

「そこは……朽ちて開いた穴だな。それが何か?」

「俺も最初はそう思ったんですが、これよく見ると最初から開いていた穴が朽ちて広がっただけなんです。普通、角笛には指穴はありません。唇簧しんこうと言って唇の振動で鳴らし、音階は一つしかありません。なのにこれには指穴がある。妙なんですよ」

「じゃあ、これって失敗作のガラクタってこと?」

「それは無いです。ヘンリーさんも最初に言ってたでしょ? 魔力が微かに感じられるって。それにこの笛の材質……これは悪魔の角です」

「なにっ! 悪魔の角だとっ!? 何故わかる?」

「悪魔の角は光魔法に強く反応します。なので、今は必要ないけど光の魔石を光らせると……」

 サトが天井に魔力を送ると、光の魔石が煌々と部屋全体を照らす。
 そして、光を浴びた笛は極細かな振動をし始めた。

「な、なんだっ!? 急に動き出したぞ!」

「光属性の力は悪魔が最も嫌うものです。それはたとえ角だけでも同じ事。光を拒む悪魔の角に得体の知れない形状、若干の魔力を帯びた古代の笛。俺はこれを《ハメルンの魔笛》と鑑定しました」

「うーん……わかった。やむを得ないな。これが《ハメルンの魔笛》かどうか別にしても呪具には間違いなさそうだ。教会で浄化してもらおう」

「あ~あ、またお布施か。出費が痛いなぁ……」

「いや、もしこれが《ハメルンの魔笛》なら世紀の大発見だ。報奨金が期待できるぞ」

「あっ! そうだよ! ジュリアン! 早く行こうよ! 多分これだけの大物なんだから、きっと王都の筆頭鑑定士が見てくれるよ!」

「よし! では、サト! 俺達は教会に行ってくる! 身体は大事にな! じゃあな!」

 ジュリアン達は笛を大事そうに抱えながら教会へと走っていった。
 後に、持ち込まれた笛は教会で厳重に管理され、王都から派遣された筆頭鑑定士により鑑定され、正式に《ハメルンの魔笛》と認定されたのである。

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