鑑定能力で恩を返す

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第一章

叡智の奔流

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 サトは呼吸を整えると3人を見据えて話を始めた。
 
「実はこの本はマジックアイテムに関する魔導書なのですが、ここに載っている笛こそ、かの有名な《ハメルンの魔笛》なんです」

「ま、まさかっ!」

「これが《ハメルンの魔笛》?」

「ぬぅ……」

 サトの発言に3人は驚きを隠せなかった。
 しかし、同時に猜疑の眼も向けていた。

「しかし、本当に《ハメルンの魔笛》なのか? まぁ、笛だと言うことは認めるが、だからといってこれが伝説の笛と言うのは、少しなぁ」

「そうだよねぇ。いくらなんでもそう簡単に信じるのは無理だよ」

「少し飛躍し過ぎだな」

 3人は反応はサトにとっても至極真っ当なものだった。
 子どもだって信じないだろう。
 しかし、サトにとっては信じてもらう必要はなかった。
 とにかく大物の呪具である事さえ理解してもらえればいいのだ。
 そして速やかに教会に持っていってもらう。
 それこそがサトの狙いだった。

「ですが、皆さん。これだけ年代物の笛ですよ? 何かしらヤバい代物だって可能性はあります。すぐに教会に持っていかれた方が……」

「そうは言ってもな。知っていると思うが、教会での浄化にはお布施がかかる。こいつが古代のマジックアイテムなら他の店に高く売れないか?」

 サトの背中に冷たいものが走る。
 浄化に金がかかるとは知らなかったのだ。
 思えばそうだ。
 無料タダで浄化してもらえるなら最初から教会に持ち込めばいいだけだ。
 それをしなかったのはお布施を気にしていたから。
 そして、ハンターは基本的に金のかかる事を嫌っている。
 装備や生活費、冒険のための道具に金がかかるからだ。
 少しでも出費を抑えたいと思うのは、誰もが思う事なのだ。

「うーん……すまないが、サト。流石にすぐに教会に持ち込もうとは思えない。君の鑑定を疑うわけじゃないが、他の意見も聞いてみないとな」

「し、しかし……」

「それに《ハメルンの魔笛》って古代の秘宝アーティファクトでしょ? これからは何の魔力も感じないもん」

「俺は細かいことは任せる」

 3人は《ハメルンの魔笛》を無造作に背負い袋の中に仕舞おうとしていた。
 サトは想像力豊かな人間だった。
 ジュリアン達がこのままアレを持ち帰って、もし誰かが興味本位で吹いただけで終わりである。
 サトはさっき笛を見た時に新たな追加の情報が脳裏に浮かんでいたのだ。

 《ハメルンの魔笛》
 現在は魔力が枯渇しており、笛を吹けば周囲の者達の生命力を奪って魔力とし、本来の能力を解放する。

 さっきサトはジュリアン達にあれが笛だと言ってしまった。
 つまり、次に持ち込んだ先で万が一にも誰かが笛を吹けばその周囲の人間は一気に死に絶え、魔物がこの街を襲う事になるのである。
 その光景がサトの豊かで過剰な想像力により脳裏に浮かぶ。
 サトは焦った。
 せっかくロンメルの店で役に立てるかもと思った矢先に魔物が都市に攻め込んでくるかもしれない事態になっている。
 サトは必死に考えるが、何も良い案が浮かんでこない。
 焦れば焦るほど何も浮かんでこない。
 手に汗を握り、額にも汗を浮かべながらサトはカウンターに置かれた魔導書を見た。
 これを使ってなんとか信憑性を高めようとしたのに、浅はかだったと本を眺める。
 眺める。
 眺めてしまう。
 サトの脳裏にある言葉が浮かんでくる。
 
 古代魔導書
 この本を解読、または出来た者には古代の叡智が与えられる。
 その場合の相場……10億ルーク。

「……えっ?」

 サトの脳に古代の叡智が奔流が一気に押し寄せてきた。


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