鑑定能力で恩を返す

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第一章

説明の秘策

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 耳を澄ましてごらんなさい。
 遠くで笛の音聴こえたら、迷わず家に帰りなさい。
 近くで笛の音聴こえたら、迷わず家から逃げなさい。
 怖い魔物がやってくる。
 仲間を連れてやってくる。
 笛の音と共にやってくる。
 笛の音聴こえてきたならば、迷わず音から離れなさい。

「この都市に伝わる伝承じゃ。ハメルンでは笛の音は魔物が現れる前兆、不吉なものとされておる。今でこそ問題ないが、100年程前までは笛を所持する事すら禁じられておったそうじゃ」

「そ、その元凶がこれってわけですか?」

 ロンメルとサトは動揺を隠しきれなかった。
 魔王すら呼び出す古代の秘宝アーティファクト、ハメルンの魔笛。
 それを鑑定能力かんていスキルを隠したまま、ジュリアン達に伝えるのは至難の業だった。

「いっその事、わからないフリをするのはダメですか?」

「それはできん。呪具を持ったままじゃとジュリアン達が罪に問われる事になるし、これほど危険な物じゃ。万が一にも誰かが誤って使用しようものならこの都市は一巻の終わりじゃ。呪具である事を伝えて確実に浄化してもらわねばならん。それにただの浄化ではダメじゃ。古代の秘宝アーティファクト級の呪具ともなれば、それこそ司教クラスの浄化でなければ呪いを祓いきれんじゃろ」

 教会の聖職者には実力によって階級が定められている。
 教皇を筆頭に司教、司祭、助祭、侍祭、読師、守門となっており、浄化が出来るのは司祭以上となっている。

「じ、じゃあ、鑑定能力かんていスキルをジュリアンさん達に打ち明けるのは?」

「それは無理じゃ。それじゃと教会の者達にも打ち明ける事になる。そうなれば秘密は秘密でなくなるぞい」

 サトは頭を悩ませた。
 倉庫の前にはジュリアン達がいるので、これ以上時間稼ぎはできない。
 なんとか鑑定能力かんていスキルの事を隠したまま説明しなければならないが、どうしたらいいかわからない。
 答えに困ったサトが周りを見回すと、ふと脳裏に浮かんでくる言葉があった。

 古代魔導書
 旧世紀に書かれた魔導に関する書物。
 遺失した文字で書かれており、現在では解読不能のためほとんど価値はない。相場100ルーク。

「っ! これだっ! これを使えば何とかなるかもしれない!」

 サトはその魔導書を手に取って、己の脳細胞をフル回転させた。
 そして、意を決したように倉庫の扉を開けるのである。
 それが鑑定士サトとしての第一歩となるのであった。
 





 
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