102 / 103
第三章
ミノタウロスとバードマン⑤
しおりを挟む
「貴方、お帰りなさい。あら? オルテガと、お友達の方かしら? はじめまして」
上品で優しく俺達を迎え入れてくれたのは、純白の翼を背負った天使の見紛うぐらい清楚で美しい女性だった。
この人がハウデルの奥さんか。
く、悔しくなんか無いんだからね!
「ヴィ、ヴィナス! お前、体調は大丈夫なのか?」
「大丈夫って、どうしたの? ハウデル」
「だって、お前の中には……こ、子どもが……」
ハウデルの言葉にヴィナスさんの眼は大きく見開いた。
やがて、優しい笑みと涙を浮かべた。
「気づいてくれたんだね。ハウデル。貴方は仕事一筋の人だから、絶対に気づかないと思っていたのに。でも、嬉しい」
「す、すまん! 俺は、俺は君を愛していると言いながら、何一つ見抜けなかった! 子どもの事も、ここにいる友人のリョウのおかげで気づけたんだ。不甲斐ない夫を許してくれ」
「いいのよ。ここ数日、貴方がわからない事を必死に悩んでくれていたのを知っているもの。そして、わからない中でも必死にやってくれていた事も。お友達はきっかけに過ぎない。きっと、貴方は気づいてくれていた。それが私にはとても嬉しいの。ありがとう、ハウデル」
「ああ、ヴィナス。俺は幸せ者だ。君みたいな素晴らしい女性を妻にできて」
「私も幸せよ。貴方みたいな素敵な男性を夫にできて」
「ヴィナス……」
「ハウデル……」
二人の距離は自然と縮まり、熱い抱擁から濃厚な口づけへと……って、俺達は何を見せられているんだ?
「おい、オルテガ……」
「何も言うな」
「言いたくなるだろ。いつもこうなのか?」
「大体はな」
「劇場テイスト満載の甘々恋愛模様をか?」
「……ああ、そうだ」
苦労したんだな、オルテガ。
こんな甘酸っぱくてラブラブ限界突破のカップルが側にいたんだ。
冒険者時代はさぞ肩身の狭い思いをした事だろう。
今度、酒を奢ってやるよ。
「ああ、ヴィナス。君はいつ見ても……」
あっちはまだ続いてんのか!
甘々過ぎて、こっちは胃もたれしそうだよ!
もう、帰ろうかな。
「いけない! ハウデル、お友達をお待たせしたままだわ。申し訳ありません、改めまして私はハウデルの妻、ヴィナスと申します」
「ど、どうも。えっと、ハウデルの……ゆ、友人のリョウです。ハウデルにはいつもお世話になってます」
「こちらこそ。ハウデルがお世話になって……うっ! す、すいません……ちょっと失礼を」
ヴィナスさんが急に口元を押さえて、奥へと駆けて行った。
どうやら悪阻が結構ひどいみたいだな。
確か悪阻も酷くなると食べれなくなって体重が減ったり、脱水になるって聞いた。
栄養や水分が足りないと、お腹の中の赤ちゃんにだって悪影響があるはずだ。
今のままでいいはずがない。
「ハウデル。キッチンはどこだ?」
「何? お前、まさか……」
まったくだよ。
本当に俺はお人好しがすぎると言うか、何と言うか……
「キッチンでヴィナスの残り香でも味わうつもりか!? そんな事は断じてこの俺が……っ!?」
「このばかちんがぁああああああ!!」
上品で優しく俺達を迎え入れてくれたのは、純白の翼を背負った天使の見紛うぐらい清楚で美しい女性だった。
この人がハウデルの奥さんか。
く、悔しくなんか無いんだからね!
「ヴィ、ヴィナス! お前、体調は大丈夫なのか?」
「大丈夫って、どうしたの? ハウデル」
「だって、お前の中には……こ、子どもが……」
ハウデルの言葉にヴィナスさんの眼は大きく見開いた。
やがて、優しい笑みと涙を浮かべた。
「気づいてくれたんだね。ハウデル。貴方は仕事一筋の人だから、絶対に気づかないと思っていたのに。でも、嬉しい」
「す、すまん! 俺は、俺は君を愛していると言いながら、何一つ見抜けなかった! 子どもの事も、ここにいる友人のリョウのおかげで気づけたんだ。不甲斐ない夫を許してくれ」
「いいのよ。ここ数日、貴方がわからない事を必死に悩んでくれていたのを知っているもの。そして、わからない中でも必死にやってくれていた事も。お友達はきっかけに過ぎない。きっと、貴方は気づいてくれていた。それが私にはとても嬉しいの。ありがとう、ハウデル」
「ああ、ヴィナス。俺は幸せ者だ。君みたいな素晴らしい女性を妻にできて」
「私も幸せよ。貴方みたいな素敵な男性を夫にできて」
「ヴィナス……」
「ハウデル……」
二人の距離は自然と縮まり、熱い抱擁から濃厚な口づけへと……って、俺達は何を見せられているんだ?
「おい、オルテガ……」
「何も言うな」
「言いたくなるだろ。いつもこうなのか?」
「大体はな」
「劇場テイスト満載の甘々恋愛模様をか?」
「……ああ、そうだ」
苦労したんだな、オルテガ。
こんな甘酸っぱくてラブラブ限界突破のカップルが側にいたんだ。
冒険者時代はさぞ肩身の狭い思いをした事だろう。
今度、酒を奢ってやるよ。
「ああ、ヴィナス。君はいつ見ても……」
あっちはまだ続いてんのか!
甘々過ぎて、こっちは胃もたれしそうだよ!
もう、帰ろうかな。
「いけない! ハウデル、お友達をお待たせしたままだわ。申し訳ありません、改めまして私はハウデルの妻、ヴィナスと申します」
「ど、どうも。えっと、ハウデルの……ゆ、友人のリョウです。ハウデルにはいつもお世話になってます」
「こちらこそ。ハウデルがお世話になって……うっ! す、すいません……ちょっと失礼を」
ヴィナスさんが急に口元を押さえて、奥へと駆けて行った。
どうやら悪阻が結構ひどいみたいだな。
確か悪阻も酷くなると食べれなくなって体重が減ったり、脱水になるって聞いた。
栄養や水分が足りないと、お腹の中の赤ちゃんにだって悪影響があるはずだ。
今のままでいいはずがない。
「ハウデル。キッチンはどこだ?」
「何? お前、まさか……」
まったくだよ。
本当に俺はお人好しがすぎると言うか、何と言うか……
「キッチンでヴィナスの残り香でも味わうつもりか!? そんな事は断じてこの俺が……っ!?」
「このばかちんがぁああああああ!!」
9
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
幸子ばあさんの異世界ご飯
雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」
伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。
食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
外れジョブ「レンガ職人」を授かって追放されたので、魔の森でスローライフを送ります 〜丈夫な外壁を作ったら勝手に動物が住み着いて困ってます〜
フーツラ
ファンタジー
15歳の誕生日に行われる洗礼の儀。神の祝福と共に人はジョブを授かる。王国随一の武門として知られるクライン侯爵家の長男として生まれた俺は周囲から期待されていた。【剣聖】や【勇者】のような最上位ジョブを授かるに違いない。そう思われていた。
しかし、俺が授かったジョブは【レンガ職人】という聞いたことないもないものだった。
「この恥晒しめ! 二度とクライン家を名乗るではない!!」
父親の逆鱗に触れ、俺は侯爵領を追放される。そして失意の中向かったのは、冒険者と開拓民が集まる辺境の街とその近くにある【魔の森】だった。
俺は【レンガ作成】と【レンガ固定】のスキルを駆使してクラフト中心のスローライフを魔の森で送ることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる