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第三章

ミノタウロスとバードマン⑤

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「貴方、お帰りなさい。あら? オルテガと、お友達の方かしら? はじめまして」

 上品で優しく俺達を迎え入れてくれたのは、純白の翼を背負った天使の見紛うぐらい清楚で美しい女性だった。
 この人がハウデルの奥さんか。
 く、悔しくなんか無いんだからね!

「ヴィ、ヴィナス! お前、体調は大丈夫なのか?」

「大丈夫って、どうしたの? ハウデル」

「だって、お前の中には……こ、子どもが……」

 ハウデルの言葉にヴィナスさんの眼は大きく見開いた。
 やがて、優しい笑みと涙を浮かべた。

「気づいてくれたんだね。ハウデル。貴方は仕事一筋の人だから、絶対に気づかないと思っていたのに。でも、嬉しい」

「す、すまん! 俺は、俺は君を愛していると言いながら、何一つ見抜けなかった! 子どもの事も、ここにいる友人のリョウのおかげで気づけたんだ。不甲斐ない夫を許してくれ」

「いいのよ。ここ数日、貴方がわからない事を必死に悩んでくれていたのを知っているもの。そして、わからない中でも必死にやってくれていた事も。お友達はきっかけに過ぎない。きっと、貴方は気づいてくれていた。それが私にはとても嬉しいの。ありがとう、ハウデル」

「ああ、ヴィナス。俺は幸せ者だ。君みたいな素晴らしい女性を妻にできて」

「私も幸せよ。貴方みたいな素敵な男性を夫にできて」

「ヴィナス……」

「ハウデル……」

 二人の距離は自然と縮まり、熱い抱擁から濃厚な口づけへと……って、俺達は何を見せられているんだ?

「おい、オルテガ……」

「何も言うな」

「言いたくなるだろ。いつもこうなのか?」

「大体はな」

「劇場テイスト満載の甘々恋愛模様をか?」

「……ああ、そうだ」

 苦労したんだな、オルテガ。
 こんな甘酸っぱくてラブラブ限界突破のカップルが側にいたんだ。
 冒険者時代はさぞ肩身の狭い思いをした事だろう。
 今度、酒を奢ってやるよ。

「ああ、ヴィナス。君はいつ見ても……」

 あっちはまだ続いてんのか!
 甘々過ぎて、こっちは胃もたれしそうだよ!
 もう、帰ろうかな。

「いけない! ハウデル、お友達をお待たせしたままだわ。申し訳ありません、改めまして私はハウデルの妻、ヴィナスと申します」

「ど、どうも。えっと、ハウデルの……ゆ、友人のリョウです。ハウデルにはいつもお世話になってます」

「こちらこそ。ハウデルがお世話になって……うっ! す、すいません……ちょっと失礼を」

 ヴィナスさんが急に口元を押さえて、奥へと駆けて行った。
 どうやら悪阻が結構ひどいみたいだな。
 確か悪阻も酷くなると食べれなくなって体重が減ったり、脱水になるって聞いた。
 栄養や水分が足りないと、お腹の中の赤ちゃんにだって悪影響があるはずだ。
 今のままでいいはずがない。

「ハウデル。キッチンはどこだ?」

「何? お前、まさか……」

 まったくだよ。
 本当に俺はお人好しがすぎると言うか、何と言うか……

「キッチンでヴィナスの残り香でも味わうつもりか!? そんな事は断じてこの俺が……っ!?」

「このばかちんがぁああああああ!!」
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