今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

KBT

文字の大きさ
上 下
100 / 103
第三章

ミノタウロスとバードマン③

しおりを挟む
 女絡みの話じゃ無かったのか?
 何でいきなり殺されるなんて言葉が出てくるんだよ。
 おっかな過ぎるだろ。

「あいつならやりかねんな」

 そう呟いたオルテガの額には冷汗が滲んでいた。
 ハウデルを殺そうとしている人物をオルテガは知っているのか?

「オルテガは知ってるのか? ハウデルを狙っているやつを」

「ああ、俺達の戦友だ」

 戦友だって?
 まさか、現役時代に組んでいた仲間がハウデルを狙っているのか?
 そんな……一体何があったんだ!?

「と、とにかく殺されるかもしれないんなら何とかしないと! こっちから先に仕掛けるとか」

「無理だ。俺達に敵う相手じゃない」

「あいつに手を出すわけにはいかない」

 マ、マジか……オルテガとハウデルの2人が敵わない相手って、そんなのどうすればいいんだよ!
 カミさんに頼む? いや、それはダメだ。
 いくら友人を救うためだと言っても、それで神の力を使うわけにはいかない。
 それはいくら何でも御門違いだろう。
 でも、どうにかしないと……ヴァイオレットやガンテス、ジョルダン、それに討伐隊の時のチームにも声をかけて、全員でかかれば……

「あいつを、愛する妻を傷つける事など出来るわけがないだろう」

 ……妻?
 えっ? 今、俺の耳がおかしくなければ妻と言っていたように聞こえたんですけど……

「今、妻って言った?」

「違う。愛する妻だ」

 聞き間違えじゃ無かった。
 それどころか、ハウデルの意外な一面まで見せられた。
 まさか、こいつが結婚していて、しかも極度の愛妻家だったとはね。

「ハウデルの嫁は俺達の元チーム仲間でな。名前はヴィナス。ハウデルと同じ種族の司祭だ。チームの頃から苦楽を共にしていた二人は、恋に落ちて結婚し、それを機に俺達は冒険者を引退したんだ」

 ほぅ、人に歴史ありだな。
 堅物のハウデルが恋に落ちて結婚とはね。
 さぞ、奥さんは美人なんだろうなぁ。
 ちょっと見てみたいかも。

「先に言っておくが、ヴィナスには手を出すなよ? ハウデルは以前、街でヴィナスに声をかけた男を『狼藉者っ!』と言って半殺しにした事があるからな」

「うげっ! そ、それはやり過ぎじゃないか?」

「何を言う! 言葉でも我が愛しの妻を汚したのだぞ!? 万死に値する! 死刑でもいいくらいだ!」

 ハウデルが鬼の形相で怒鳴り声をあげる。
 それは死刑じゃなくて私刑だ。
 まさか、街の平和を守る衛兵隊長のハウデルがここまで言うなんて、よっぽど奥さんを愛してるんだろうな。
 ん? でも、何でそれが『殺される』になるんだ?

「おい、リョウ。食い物はないのか?」

 オルテガに言われて、酒しか持ってきてなかった事を思い出した。
 しまった。
 まだ何も作ってないぞ。
 うーん、でも、話の続きが気になるし、今から料理するのも面倒だ。
 よし、【収納】の中にある作り置き料理を出しちゃおっと。

「ほい。お待ちどうさん」

「おおおっ! これは随分と色々あるな! しかも、どれも酒に合いそうだ!」

 テーブルいっぱいに置かれた料理の数々にオルテガが歓喜の声をあげる。
 今日のメニューはだし巻き玉子に焼き鳥、肉じゃが、豚鬼オーク肉の焼豚、葉野菜のサラダ、白身魚のフライ、煮穴子、そしてローハッツとチーズの盛り合わせだ。
 晩酌用に作り置きしておいた物を全部出しちゃったけど、今日くらいいいだろう。
 オルテガも喜んでるし、ハウデルも……えっ? な、泣いてる?

「ど、どうしたんだ? ハウデル」

「思えば……妻も昔はこうやってテーブルいっぱいに料理を作ってくれたものだ。それが今では……くぅ……な、何故だ……」

 ええぇ……料理をいっぱい出して嫌がられたのは初めてだよ。
 でも、マジで深刻な話みたいだな。

「本当に何があったんだ?」

「ハウデルはそれどころじゃないだろうから、俺から話す。ハウデルは見た通りの愛妻家だ。そして、ヴィナスは清楚が体現したかの様な美しい女で、2人は仲睦まじい夫婦だったんだ」

 前提の話だと分かっていてもなんか腹が立つな。
 何だよ、その幸せな環境は。
 彼女いない歴十数年の俺にはキツいぞ?

「それがどういうわけか。ここ数日、ヴィナスの態度がおかしいんだ。なんというか、妙にハウデルを避けたり、昼間も急に家にいなかったりとな。それに家事も疎かになって、夜もさっさと寝てしまうらしい」

「くっ……きっと、俺が気づかない内に彼女を苦しめたんだ。だから、俺を避けて……」

「……うん? それがどうして殺される話になるんだ?」

「お前にはわからないのか! 彼女はきっと自分を傷つけた俺を許せないのだ! だから俺を殺そうとしているに違いない!」

 いや、それは話が飛躍し過ぎてるだろ?

「リョウよ! 勘違いするな! 俺は彼女に殺される事を拒んだりはしない! だが、その前に自分が犯した罪が何なのか知りたいのだ! しかし、彼女に聞くわけにもいかない! でも、その訳を知らねば死んでも死にきれん! だから悩んでいるのだ!」

 だいぶ混乱してるなぁ……
 酒のせいか、愛する者からの冷遇のせいか知らないけど、あのハウデルがここまで取り乱すとはね。
 しかし、嫁さんが急に冷たくなったなんて言われてもなぁ。
 独身の俺にはよくわからないぞ?
 元会社の先輩が浮気して、それが奥さんにバレた時は修羅場になっだって聞いたけどな。
 なんか大変だったらしい。
 浮気相手の女が家まで乗り込んで、おまけにそん時には……ん?
 もしかして、これってアレなのか?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

処理中です...