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第三章

狐獣人とダークエルフ④

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「なんだぁ、それならそうと早く言えばいいのに~相変わらず人騒がせだね、君は」

「す、すいません……」

 あまりの天使のような悪魔の笑顔の圧に負けて、俺は全てを正直にシエンナに話した。
 怒られるかと思ったんだけど、意外にもシエンナはホッとしたような顔で笑って許してくれた。
 こんな事なら最初から正直に言えば良かったよ。

「じゃあ、このお金はありがたく研究資金にさせてもらうね。本来なら見返りは完成品の優先取得権とかだけど、君には必要ないよね?」

「まぁ精力剤は今のところ必要ないな」

 というか永遠に必要ない。
 むしろ不能になってもいいくらいだ。
 どうせこの先も使う予定もないんだし。

「じゃあ、今は必要ないって事で。だとしたら売り上げの何割かを回そうか? まだ値段決めてないから幾らになるかはわからないけど」

「いや、金銭を得るのは避けたいんだ。下手に収入がある事がバレるのも困るから」

「そうかぁ。でも、そうなると君には何を返せばいいの? 言っておくけど見返りが無しなんてあり得ないからね」

「わかってる。それで提案なんだけど、この店の商品を安く買えるようには出来ないかな?」

 俺自身はカミさんの能力のおかげで回復薬とは無縁だけど、回復薬だけが薬屋の仕事じゃない。
 虫除けとか生活に必要な薬品も薬屋にはあるからね。
 山の中に住んでる俺にとっては結構入り用で金銭的にも馬鹿にできない。
 だから安く買えるなら俺としても有難いんだ。
 
「どうかな?」

「わかったよ。だったら君には今後この店で取り扱ってる一般商品に関しては3割引って事でどうかなぁ?」

「それでいいよ。じゃあこれで交渉成立だね」

 よし!
 色々あったけど、これで大金を消費する事ができたし、狙われる心配もなくなったぞ!
 シエンナは冒険者達のファンがたくさんいるから狙われる心配も無いし、これで俺も心置きなく普通の生活に戻る事ができる!

「じゃあ、交渉成立したところで君に相談したい事があるんだけど、いいかな?」

「えっ? な、なにか問題でも?」

「問題というか今作ってる精力剤に使えそうな素材とか知らない?」

「精力剤に使える素材?」

「うん。精力剤には豚鬼オークの睾丸がよく使われるでしょ? でも、最近この近辺の豚鬼の数が減っていてね。そのせいで睾丸の流通量が減って精力剤の価格が高騰してるんだよ。今はまだ大丈夫だけど、今後は平民には手が出ない値段にまで上がる可能性もある。だから、僕は新しい豚鬼の睾丸に頼らない精力剤を作ろうと思ったんだよ」

 そういう意図があったのか。
 そういや、俺は取ったことないけど豚鬼の睾丸って、一応生物なまものだから保存が難しくて、他所の地域から取り寄せるのは大変って聞いたな。
 だから、この辺りに豚鬼がいなくなったら素材が足りなくなって、価格が高騰するのも無理はないか。
 しかし、精力剤なんて気にしたことがなかったから素材って言われても見当がつかないぞ。
 
「今のところ思い当たる物はないかな? 薬草なら言われれば取ってくるけど」

「ううん、薬草とかは大体揃ってるから今のところお願いする物はないよ。欲しいのは精が付く物だね。それさえあれば、あとは薬草とかで効力を増進させられるから」

 そう言われてもなぁ。
 滋養強壮に良いとかならともかく、精が付く食べ物ってなんだ?
 一番に思いつくのは鰻だけど、この辺りの川にいないのは確認済みだ。
 大好物だから速攻で探したけど、いなかったとわかった時は寂しかったなぁ。
 鰻は異世界転生あるあるの食材なのに、いないなんて酷すぎるわ!
 他に精の付く物と言えば……スッポンとかか?
 でも、あれも見たことないぞ。
 そもそも、どんな所に生息する生き物なのかも知らんしね。
 完全にお手上げだな。

「悪いけど、今のところ思い当たる物はないな」

「そうか。なら仕方ないね。ごめんね。無理なこと言って。あっ、そうだ。お詫びに漁師さんに分けてもらったのをあげるよ。ちょっと待ってて」

 シエンナは店の奥に駆けて行き、平たい木箱を持って帰ってきた。
 中身はゴツゴツとした不恰好な石……じゃないな。
 なんだあれ?

「この前、薬を買いに来た漁師さん沢山くれた【魔女貝】だよ。1人じゃ食べきれないから持って帰ってくれたら嬉しいよ」

「ああ、貝だったのか。でも、【魔女貝】ってのは初めて見るな。どれどれ……」

 俺はシエンナにバレないようにこっそり【鑑定】をしてみた。
 ん? これってもしかして、アレか?
 うーん、俺は酷い目に遭ったことがあるから苦手なんだよなぁ。
 待てよ、そういやあの時は年上の先輩に連れて行かれたんだよなぁ。
 そん時に確か言ってたぞ!
 そうだ! 
 これならいけるんじゃないかっ!?
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