上 下
91 / 103
第三章

狐獣人とダークエルフ①

しおりを挟む
 日常よ、私は帰ってきた!
 この前まで超魔物討伐や領主様との謁見やら訪問やらで俺らしく無い生活をしていたけど、やっと今日から普段の生活に戻れる!
 やっぱり俺にはあんなド派手な生活は向いてないよ。
 これからはまたのんびりとしたスローライフを楽しませてもらうぞ!
 ……と、言いたいところだが問題が一つあるんだよなぁ。
 これを解決しない事には俺は気軽に外に出る事すらできない。
 その問題とは、ずばり金だ。
 この前の超魔物討伐の報酬が決まったんだけど、それがとんでもない事になっていた。
 先ずは依頼の成功報酬の大金貨5枚(50万円)。
 これは最初に聞いていた報酬だし、確かに多いけど、これだけなら周りの連中に奢ってしまえばそれで終わりだ。
 問題は超魔物ズーの素材の買取金の方だ。
 牙や爪、皮など合計で白金貨20枚(2億円)の値が付いたらしい。
 4チームで山分けしたとしても、1チーム、白金貨5枚(5000万円)だ。
 それを更にチームメンバーで分けるんだけど、ミューさんには分配出来なかった。
 なんでも彼女は討伐メンバーではなく、ギルドの監査官としての参加となるから報酬や素材の買取金を受け取ってはいけない規定があるらしい。
 その代わりにギルドから特別手当が出るそうだ。
 同じ生命を張った仲間としては釈然としないが、ギルドの規定で破れば罰則があるって事でどうしようもなく、3人で分ける事にした。
 その結果がこれだ。

「はぁ……どうしたもんかなぁ」

 テーブルの上で白金貨1枚と大金貨6枚(1600万円)が鈍く輝いていた。
 はっきり言って扱いに困るくらいの大金だ。
 これと言って使い道がないし、金を狙って襲れるのも怖い。
 金級のジョルダンや解体班のアイドルのゼルマを襲おうとする馬鹿はいないだろうが、俺みたいな万年銅級冒険者ならと考える奴もいるだろう。
 実際、冒険者を始めたばかりの頃は下手に稼いで強面の奴等に強請られそうになった事があったからな。
 それ以来、俺は1日に稼ぐ金額を銀貨2枚(2万円)までして、大金を稼いでしまいそうな依頼は受けないようにしていた。
 前にうっかり大金貨1枚(100万円)を稼いでしまった時は、ゼルマに解体用のナイフを贈る事で何とか凌いだのに、今回は白金貨だ。
 しかも、超魔物討伐なんて偉業の流布と共に俺が大金を貰った事は周知されてしまっている。
 隠しておけばいいって話でもない。
 かと言って捨てるわけにもいかないし、だからって脅して奪おうとする奴等にくれてやるわけにもいかないからなぁ。
 本当に困った大金だよ。

「うーん、大金の使い道って何だ?」

 もし、日本にいた時だとすればパソコンとか家電を買い換えていただろうけど、この世界にはそんな物は無い。
 他に買う物と言えば家とか車だけど、家はこの山小屋があるし、車の代わりに馬を買うってのもなぁ。
 生き物の世話は大変だし、そもそも馬に乗れないから使い道がない。
 そうなると服とか装備だけど、俺が普段着ている装備は軽装の革鎧だし、手袋や靴を全部買い替えたとしても大金貨1枚(10万円)でお釣りがくるだろう。
 服なんかもっと安い。
 焼け石に水だ。
 
「マジで困ったぞ。さすがに家にまで押しかけては来ないだろうけど、外に出られないのは困る。このままじゃ依頼を受けれないどころか、日用品の買い出しすらできないぞ。何とかしないと……誰かに相談してみるか?」

 そうだ。
 そもそもこの世界の金持ち達が何に金を使っているのか知らないじゃないか。
 それがわかればこの問題も解決するかもしれないぞ!
 さて、誰に聞くべきかだけど……

「一番金を持ってるのは領主様だろうな。伯爵位を持っているくらいだし、資産はかなりのもんだろう」
 
 彼女なら何かしらの知恵があるかもしれない。
 でも、領主って簡単に会える存在じゃないよなぁ。
 あれ以来、たまにブラッとやって来て飯を食って帰る事はあるけど、それだといつになるかわからない。
 会える可能性が低いので却下。

「そうなると、次はギルドマスターのオルテガかな? 一応主要都市のギルドマスターだからそれなりの給金はあるはずだ」

 でも、あのミノタウロスが貯蓄してるとは思えないんだよなぁ。
 あいつは飯を食う量も半端じゃない。
 毎晩飲んで食ってたら残るもんも残らないだろう。
 だいたいオルテガが金を持っていたとしても、誰も襲わないだろうから無理に使う必要もない。
 参考になりそうにないから却下。

「うーん、他にいるとすれば……あの人しかいないか。そう言えば最近は顔を出してないし、買い物ついでに聞いてみようかな」

 俺は金を【収納】の中に全て入れてから、山小屋を出て街へと向かった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

外れジョブ「レンガ職人」を授かって追放されたので、魔の森でスローライフを送ります 〜丈夫な外壁を作ったら勝手に動物が住み着いて困ってます〜

フーツラ
ファンタジー
15歳の誕生日に行われる洗礼の儀。神の祝福と共に人はジョブを授かる。王国随一の武門として知られるクライン侯爵家の長男として生まれた俺は周囲から期待されていた。【剣聖】や【勇者】のような最上位ジョブを授かるに違いない。そう思われていた。 しかし、俺が授かったジョブは【レンガ職人】という聞いたことないもないものだった。 「この恥晒しめ! 二度とクライン家を名乗るではない!!」 父親の逆鱗に触れ、俺は侯爵領を追放される。そして失意の中向かったのは、冒険者と開拓民が集まる辺境の街とその近くにある【魔の森】だった。 俺は【レンガ作成】と【レンガ固定】のスキルを駆使してクラフト中心のスローライフを魔の森で送ることになる。

処理中です...