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第二章

異世界人④

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 ズーの討伐から6日後、俺達は誰一人欠けることなくツヴァイへ帰ってきた。
 途中、先触さきぶれを飛ばしていたからか、ギルドから大型の荷馬車が街の手前に配置されており、そこにズーの亡骸を載せた。
 他のみんなは大型魔法鞄にしまってあったと思って安心していたけど、何処にあるかわからなかったミューさんは、そこでやっと安堵の表情になった。
 本当に申し訳なかったです。
 外壁から続く大通りをズーを載せた荷馬車と共に進むと、沿道には所狭しと人々が詰めかけていて、俺達の超魔物討伐を称賛し、歓声を上げ花吹雪を浴びせてくれて、まるで祝勝パレードのようになっていた。
 俺にとっては非常に困るんだけどなぁ。
 
「おい、リョウ。手を振ってやれ! それが英雄の務めだぞ!」

「ジョルダン……勘弁してくれ」

 隣を歩くジョルダンが観衆に手を振りながら声をかけてきたが、俺はとてもそんな気分にはなれなかった。
 こういうのは苦手だし、そもそもひっそり暮らしたい俺にとって、人目につく祝勝パレードは絶対に避けたかった。
 だから、街に入る前に俺は討伐隊から離れるつもりだったのに、それをこのジョルダンが引き止めやがった!

『お前が参加している事は既に知られているんだ。そのお前がいなければ全員生還の偉業とはならなくなる。お前は自分の都合で俺達の栄誉に傷をつけるのか?』

 だってさ!
 ちくしょう! そんな言い方しなくたっていいだろう!
 そんな風に言われたら断れないだろうが!

「お兄ちゃん、そんなに肩を落として歩かんと! ホンマに偉業やねんで? 超魔物討伐は全滅だって珍しくないのに、それが全員帰還やで!? これはめっちゃ凄い事なんやから!」

「そうですよ。ギルドとしても開設以来の快挙です。胸を張ってください」

 ゼルマとミューさんまでが俺を前に出そうと声をかけてくるが、本当に勘弁してほしいんだ。
 それに俺はズーと戦ったわけじゃない。
 戦ったのも傷だらけになったのも他のみんなで、俺は称賛されるような事はしていない。
 一緒に歩いている事さえ、良い事なのかわからないくらいだ。

「おい! あそこにいるの領主様じゃないか!?」

「本当だ! アルメリア女伯爵様だ!」

 聞き逃せない観衆の声に顔を上げると、冒険者ギルドの前にギルドマスターのオルテガと白銀の鎧を着た人の姿が見えた。
 あのウェーブがかった金髪にスラリとした肢体、絵画から飛び出してきたのかと思うくらいの美形と堂々とした立に振る舞いは間違いない。
 あれはツヴァイ領主、アルメリア・ヴェルサイーユ女伯爵だ。
 おいおい、領主様まで出てくるなんて聞いてないぞ?

「止まれ!」

 キラキラと輝く新品の鎧を身に纏った騎士が俺達の歩みを止めた。
 なんだ? お祝いムードに水を差すめちゃくちゃ不機嫌そうな顔をしているぞ?

「礼節を弁えぬ愚か者どもめ! この御方をどなたと心得る!? こちらにおられるのは畏れ多くもヴァルト王国ツヴァイ領の領主、アルメリア・ヴェルサイーユ女伯爵様であるぞ! 頭が高い! 平伏せよ!」

 お前はどこかの御老公の付き人かっ!?
 なんて空気の読めないやつだ。
 こんなお祝いムード満載の場で、よくあんな事が言えるな。
 他のみんなも呆気にとられてるぞ?
 あんたの言う女伯爵様も含めてな。

「貴様ら! ヴェルサイーユ女伯爵様の御前で棒立ちとは不敬な! 全員即刻不敬罪で首を刎ねて……っ!?」

「やめないか! 戯け者!」

 うおっ! な、なんて威厳のある声だ。
 思わず平伏しそうになったぞ。

「も、申し訳ありません! ヴェ、ヴェルサイーユ様! 見ろ! お前達が愚図愚図しているからヴェルサイーユ様がお怒りに……」

「私が怒っているのは卿に対してだ! 騎士バリー・ゾーゴン!」

 ぶふぉっ! 
 バ、バリー・ゾーゴンって、そのまんま過ぎる名前じゃないか!
 思わず吹き出しそうになったぞ。
 でも、当の本人は目ん玉を丸くしてキョトンとしている。
 あれは怒られた意味がわかってないみたいだな。
 あれじゃあ付き人は付き人でも、うっかりの方だな。

「し、しかし……ヴェルサイーユ様に対して平伏しないのは不敬ではないかと……」

「愚かな……彼らは勇者だ。そして、偉業を成し遂げた英雄でもある。その者達に対し、礼を失しているのは卿の方ではないかっ!」

「お、御言葉ですが、こいつらは所詮ゴロツキも同然の冒険者です! 勇者や英雄とは過分な見識かと存じます!」

「ならば卿はズーの討伐が出来ると申すか? 同じ事が卿には出来ると? ならば命を下すぞ? 超魔物を討伐してこいとな」

 完全な論破だ。
 さぁ困ったぞ、バリー・ゾーゴン。
 貴族は完全な縦社会だ。
 やれと言われれば身命を賭してもやらないといけない。
 ピカピカの鎧を見る限り実戦経験ほとんどないバリー君に超魔物が倒せるかな?

「ヴェ、ヴェルサイーユ様、それは……」

「それともう一つ、貴様如きが我が家名を何度も気安く口にするな!」

「ひぃ……お、お許しを!」

 うわぁ……さっきまでの威勢は何処へやら、バリー君が顔面蒼白で地面に頭を擦り付ける勢いで平伏してるよ。
 それにしても流石の迫力だな。
 アルメリア・ヴェルサイーユ女伯爵。
 【深紅槍クリムゾンランス】の二つ名は伊達じゃないね。
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