今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

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第二章

異世界人③

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「お兄ちゃん! 大丈夫かっ!?」

 ううぅ……乱暴に身体を揺らされての目覚めは最悪だ。
 酒も飲んでいないのに二日酔い気分は御免被りたい。

「ゼ、ゼルマ……もう……」

「お兄ちゃん! 良かった! やっと目を覚ましたで! もう心配させんといてや!」

 大きな肩を撫で下ろしながら、ゼルマはいつもの屈託のない笑顔を見せてくれた。
 どうやらゼルマも無事だったようだ。
 良かったよ。

「おおおっ、目を覚ましたか。リョウ」

「ジョルダン……酷い姿だな。男前が台無しだぞ?」

 奥からやって来たジョルダンは鎧が欠けていて、身体中の至るところに巻かれた包帯からは血が滲んでいて痛々しかった。
 でも、生きてるだけで十分だ。
 
「それだけ皮肉が言えるのであれば大丈夫だな。これで我々の最高の栄誉は揺るぎないものとなったな!」

「最高の栄誉? 何の話だ?」

「決まっているだろう! 超魔物討伐、死者無しなどギルド始まって以来の快挙だ! これが最高の栄誉でなくて何だと言うのだ!」

 興奮するジョルダンに言われて周りを見てみると、そこには傷つき倒れながらも笑顔を見せる仲間達の姿があった。
 【千里眼】【審判の矢】【猪突猛進】のみんなも誰一人、欠ける事なく生きているようだ。
 みんな同じ釜の飯を食った仲だし、本当に良かった。
 
「みんな無事なんだな」

「傷は酷いが、まぁ命に別条はない。だが、全員が一斉に気を失った事に関しては謎のままだ」

「そうやなぁ。私も何で気を失ったかはわからへんのよ。ズーを倒した後、お兄ちゃんに抱きついたところまでは覚えてるんやけどなあま。お兄ちゃんは何か覚えてない?」

 バッチリ覚えてます。
 なんて言えるわけがない。
 特に黒龍フォルニゲシュの事は面倒以外の何物でもないからな。
 ここは俺も気を失ってた事を最大限に利用させてもらおう。
 あっ、もしかしてこのためにミューさんは俺を気絶させたのかも。

「いや、俺にもわからないよ」

「そうなん? 抱きついた筈のお兄ちゃんが私から離れたところにおったから、なんか知っとるんかと思ったけど」

 うげっ! なんて鋭いんだ、ゼルマ。
 ど、どうする?
 ここはやっぱり知らぬ存ぜんを貫き通した方がいいんだろうか?
 それともテキトーに話を作って……いや、駄目だ!
 そんなのすぐにバレるに決まってる!
 ここは初志貫徹、気を失ってましたで押し通す!

「いや、俺は……」

「リョウさんは私が動かしたんですよ」

 そう言って現れたのはミューさんだった。
 ちょっとムッとした表情なのが怖い。
 ああああっ! 俺は何であんな事をしたんだっ!?

「ミューちゃんが動かしたん?」

「ええ、だってゼルちゃんがリョウさんに覆い被さる形で気を失ってたのよ? そのままにしておくわけにはいかないでしょ?」

「確かにな。ゼルマに覆い被さられるのは俺でも勘弁願いたい」

「……ちょっと裏に来いや、ジョルダン」

 さ、殺気っ!? 
 ゼルマの背後に禍々しい鬼が見える!?

「ま、待て! そういう意味ではない! 種族によって体型スケールの差があると言いたいのだ! なぁ、リョウもわかるだろ!?」

 俺に振ってくんじゃねぇよ!
 こんな巻き添えは御免だ!

「い、いや、俺はゼルマみたいな可愛い子なら全然大丈夫だけどなぁ」

「えっ!? も、もう! お兄ちゃん!? て、照れてまうやんか!」

 うおっ!? あ、危ない!
 照れ隠しに叩くのはわかるけど、空を切る音が半端じゃねぇ!
 当たったら確実に死ぬ威力じゃないか!
 ギャグ漫画だったら地面に突き刺さっとるぞ!

「それより全員無事で何よりです。超魔物ズーの討伐達成、おめでとうございます。記録はこのツヴァイ冒険者ギルドのミューが確認しました。これよりツヴァイに向けて帰還しましょう」

「お、おう! しかし、その肝心のズーの亡骸がないのだが、どこにあるのだ? アレが無ければ達成の証とならんではないか?」

 あっ! しまった!
 討伐したズーはみんなが気絶している間に俺の【収納】に入れたんだった!
 ど、どうしよう……

「大丈夫です。既にギルドの大型魔法鞄マジックバックに回収済みです」

 はい? ギルドの大型魔法鞄?
 そんな物があったのか?
 なんだよ、そんな物があるなら先に言って……うん? ミューさんが睨んでる?
 なんでだ?

「ほぅ、それは有難いが、そんな物があったのか?」

「はい。ズーの素材を余す事なく持ち帰るためです。ですが、大型魔法鞄は貴重ですから失礼ながら皆さんには極秘だったのです」

 確かに大型魔法鞄なんて、冒険者からすれば喉から手が出るくらい欲しいものだからな。
 ズーが入るくらいの容量だと、大金貨数枚は必要だろうし、金級冒険者でも簡単には手が出ない代物だから極秘にしてても仕方ないか。

「そういう事なら、リョウも起きた事だし帰還するとしよう。1時間後に出立だ。ゼルマ、他の者達にもそう伝えてくれ」

「わかったで! じゃあ、お兄ちゃん! また後でな!」

 やっと帰還か。
 なんか色々あって疲れたから早く帰りたいよ。
 さて、俺も準備するか。

「待ってください。リョウさん。何処へやったんですか?」

「え? 帰りの支度をしに行こうと思ったんだけど?」

「違います。何処へ行くんですか、じゃなくて、? と聞いたんです!」

 何処へやった? 何の話だ?
 俺は別に何も隠してないけど……って、うおっ! ミューさんが思いっきり接近してきた!
 しかも、かなりマジな顔で。

「ズーですよ! ズー! 一体何処にやったんですか!?」

「えっ? ズーって、それは魔法鞄に入ってるんでしょ?」

「そんなわけないじゃないですか! 全滅の危険もある討伐依頼に魔法鞄なんてギルドが貸してくれるわけないじゃないですか!」

「ええええっ! じゃ、じゃあ、さっきのは……嘘?」

「当たり前です! きっとリョウさんが何かしたと思って嘘をついたんです! それで、ズーはちゃんとあるんですよね? あるんですよね!? 無いなんて事は無いですよね!?」

 うーん、あるにはあるんだけど【収納】の事をバラすのはマズい。
 だから、庇ってくれたミューさんには申し訳ないけど、ズーはちゃんとあるけど、何処にあるかについてはフォルニゲシュの力って事にして誤魔化した。
 ミューさんはとりあえず納得してくれたけど、その内ちゃんと説明しないとなぁ。
 とにかく全ては帰ってからだ!
 さぁ、みんなでツヴァイに帰ろう!
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