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第二章

異世界人①

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 向かい合うミューさんとの間に重たくて気まずい空気が流れている。
 どこまで見ていたんだ? 
 どこまで聞かれていたんだ?
 もし、フォルニゲシュとのさっきの会話を聞かれていたとしたらヤバい。
 くそっ! 龍気の影響で全員気を失ってたんじゃなかったのかよ!
 フォルニゲシュの嘘つきめ!

「リョウさん」

 うわぁ……怒ってそうな声してるよ。
 ミューさんから名前を呼ばれた事は何回もあるけど、こんなに冷たく事務的は感じ呼ばれた覚えはない。
 怒ってるか、疑ってるか。
 どっちにしても警戒しているのは間違いないだろうなぁ。

「な、何でしょう?」

「リョウさん。率直に聞きます。貴方は……何者なんですか?」

 その質問、今一番聞かれたくなかったよ。
 冒険者って稼業は本来であれば犯罪者でもない限り過去を詮索される事はない。
 戸籍なんて者が存在しないこの世界では、身分を証明できるのは貴族くらいの者だからな。
 だけど、詮索しない代わりに責任もとらないってのが冒険者ギルドだ。
 仮に冒険者が犯罪者だったとしても、冒険者ギルドは一切関与しない。
 それがギルドと冒険者の関係なんだけど、それを詮索してくるって事は完全に俺を疑ってるって事だよなぁ。
 それも当然か。
 超魔物のズーを一撃で倒せる魔物フォルニゲシュと一緒に飯を食った上に、ツヴァイで再会の約束までしている。
 側から見れば俺が魔物と通じてると思われても仕方がない。
 そして、そんな俺を冒険者ギルド職員であるミューさんが見逃すわけがない。
 俺のツヴァイでのスローライフもここまでかもしれないな。

「どうしました? 答えられませんか?」

 また冷たい言葉が飛んでくる。
 嘘をついてこの場を誤魔化して逃げるって手もあるけど……それはできないよなぁ。 
 己の保身のために世話になった人を欺くなんて、過去の俺がされて一番嫌だった事だ。
 他人ひとにされて嫌な事を自分がするな。
 だから、ここは正直に話そう。
 最悪、冒険者ギルドやツヴァイを追放されるの仕方ない。
 死罪になったら、そん時はそん時だ。
 全力で逃げてやるさ。

「ミューさん。信じてもらえないかもしれないけど、俺は異世界からやって来たんだ」

 俺はミューさんの顔を真っ直ぐに見ながら言った。
 さあ、どうなる?
 頭がおかしい奴と思われるくらいならまだマシ、異端者として捕縛とかはやめてくれよ!

「そうですか。それで?」

 サラッと流されたぁああああ!?
 嘘でしょ!? 
 結構ドキドキしながら言ったんだよ?
 それを『そうですか』って、軽すぎないかっ!?

「あの……もっと驚かないの? 俺はこの世界とは別の世界から来たんだよ?」

「珍しいとは思いますけど、異世界人が迷い込む事は神の御業でたまにはありますから。それにリョウさんが異世界人なのも何となくわかってました。見たことも聞いたこともない料理を作ってるんですもん。ただ、詮索しなかっただけです。他の皆さんもそうだったと思いますよ?」

 そういえばカミさんが言ってたね!
 最近他の神様の間で異世界に飛ばすのが流行ってるから、俺を飛ばしたって!
 異世界人って、そんなに珍しくなかったんだ!
 悩んでた俺って馬鹿ぁああああ!

「そんな事より! リョウさんとさっきの龍神との関係ですよ! どういう関係なんですか!?」

「そ、それは……ん? 龍神?」

 いよいよ核心に迫られたかと焦ったけど、気になる単語ワードが耳に残った。
 龍神って何だ?

「そうですよ! さっきの龍神です! 人語を解する龍なんて龍の神様しかいないですよ! そんな御方と親しげに話して、しかも食事までするなんて! リョウさん、貴方は何者なんですか!?」

 さっきまで平静を保っていたミューさんが興奮しているのはわかったけど、理解が追いついていかないぞ?
 ミューさんの言っている事がどういう意味なのか全くわからないので、俺は興奮するミューさんを宥めて話を整理する事にした。
 ズーとの戦いが始まってからミューさんは戦闘領域から離れた場所に潜んでいたらしい。
 ギルド職員であるミューさんは討伐記録をとるのが仕事であって、戦闘自体は任務ではないからだそうだ。
 ただ、危険だと判断した場合は手を出すつもりだったらしい。
 ちなみにあの土煙が晴れなかったのも、ミューさんの風魔法だったそうだ。
 そして、みんながズーを討伐したので安堵したのも束の間、空からフォルニゲシュが現れたのだった。
 龍気に当てられて皆んながバタバタ倒れていく中、距離をとっていたお陰かミューさんは何とか気を失わずにすんだらしい。
 もし、龍神が皆んなに危害を加えようとするなら飛び出すつもりだったそうだけど、その前に俺が龍と話しているのを見て唖然としたそうだ。
 なんせ一番ひ弱な俺が龍と喋ってるんだもん。
 ただ、俺と喋ってるという事はあの龍は龍神ではないかと考えて、暫く様子を見ていたら、今度は別のズーを簡単にとっ捕まえて来た挙句に俺がそれを料理してだもんだから、もう開いた口が塞がらない状態だったんだそうだ。
 俺が地面に大穴を開けたのを見た時は意識が飛びかけたらしい。
 そして、状況が整理できないまま呆然としていると龍が和かに去っていくのを見て、ようやく落ち着きを取り戻して出てきたらしい。
 そして、状況を把握するために俺を問い詰めたってわけだ。
 なるほど、状況はわかった。
 全部見られたわけね……

「私の状況は以上です。次はリョウさんの番ですよ! どうして龍の神を前に平然としていられたんですか? 言っておきますが異世界人は普通の人間種と変わらないと聞いていますから、それは理由になりませんから」

 問い詰めるように語尾を強くしてミューさんが迫ってくる。
 でも、龍気に耐えられた理由と言われても俺にもわからないんだよなぁ。
 強いて言えば、フォルニゲシュが言ってたアレかな?

「多分だけど、神力ってのが関係してるんだと思う」

「シンリキ? なんですか、それは?」

 ありゃ? ミューさんも知らないのか。
 参ったなぁ。
 俺もよくわかってないんだけど、それ以外に考えられない。
 他に何か言ってたかな?
 えっと……

「フォルニゲシュは神の力とか何とか言ってたな」

「か、神の力って……シンリキ……神力っ!? ま、まさか、神の加護ぉおおおおおおおおお!?」

 これでもかってくらい驚いたミューさんが絶叫した。
 うん、これはヤバい反応だ。
 さよなら、俺のスローライフ。
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