今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

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第二章

討伐隊と超魔物⑨

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 間違いない!
 これこそ、俺がこの世界に来てから追い求め、夢にまで見た酒だ!

「どうだ? 美味いだろう? 汝のブランデーに勝るとも劣らぬ我が龍酒は……」

「フォルニゲシュ!」

「ぬぉっ!? な、なんなのだ!? 一体、何のつもりだっ!?」

「この酒をくれ!」

「なに? その酒なら汝に……」

「もっと欲しいんだよ! 出来れば定期的に手に入れたいんだ!」

「わ、わかったから少し落ち着け! これでは話も出来んではないか!?」

 言われて俺はフォルニゲシュを押し倒す勢いで迫っていた事に気づいた。
 いかん、我を忘れていたようだ。
 この世界に来て約一年、ようやく見つけたもんだから、つい興奮してしまったようだ。
 俺はフォルニゲシュが距離をとり、ようやく落ち着いて話ができる体勢になった。

「す、すまなかった…… 」

「よい。もう我は気にせぬ。だが、それにしてもどうしたと言うのだ? 急に迫ってきて流石の我も少し焦ったぞ」

「そのさっきの【龍酒】だっけ? それが俺が探していた物に酷似していたんだ。それで、どうしても欲しくなって」

「【龍酒】に酷似した物など聞いた事もないぞ? それは如何なる物だ?」

「俺が元いた世界にあった【日本酒】という酒だよ。本来なら米から造る酒なんだけど、それによく似てるんだ」

 俺は正直に全てを話す事にした。
 フォルニゲシュはさっき俺が異世界から来た事をわかったようだったし、下手に嘘を吐いて話が拗れるのも嫌だからな。
 それにこっちは頼む側だ。
 嘘偽りなく誠心誠意頼むのが筋ってもんだろう。

「なんと、龍族に伝わる秘術が人の手で造りえる物に似ているとは……異世界の技術とは侮れぬものだな」

「龍族の秘術?」

「左様。【龍酒】は我ら龍族の固有能力スキルによって産み出される物だ。本来、人の手で造り出せるものではない」

 龍族の固有能力で造られる酒か。
 うーん、なんかめっちゃ希少価値がありそうだな。
 ちょいと【鑑定】してみるか。

 【黒龍の龍酒】
 千の龍の王である黒龍フォルニゲシュによって造られた龍酒。
 華やかで上品な香りと芳醇な味わい、濃厚な旨味、これらが渾然一体となるバランスの良さを持ち合わせた究極の酒。
 価値……一瓶、大金貨3枚(300万円)

 ぶはあっ!?
 だ、だ、大金貨3枚だとっ!?
 この一瓶でっ!?
 めちゃくちゃ希少じゃないか!?
 ロマネコンティだってここまでしないぞ!
 いや、龍にしか造れない酒となればこの価値も当然か。
 だって普通に考えたら龍から酒を貰うなんてあり得ない状況だもんな。
 ど、どうしよう……でも、せっかく見つけた日本酒の代用品だ。
 なんとか手に入れたいんだけどなぁ。

「【龍酒】が欲しいのなら、先のブランデーと交換というのはどうだ?」

「えっ? ブランデーと交換? い、いいの?」

「構わぬ。量は等価交換としよう。取引は汝が我が城まで来るのは大変であろうから、月に一度、我が汝の家を訪ねる事としよう。それでどうだ?」

 マジかっ!?
 これってつまり定期的に日本酒が手に入るって事だよな!?
 うぉおおお! やったぜ!
 これはマジで嬉しい!
 しかも向こうから来てくれるなんて最高だ!
 でも、してもらってばかりじゃ悪いからな。
 そうだ! 良い事を思いついたぞ!

「もちろんいいよ! 来てくれるのも助かる! なら、来てくれた時には食事を用意しておくよ! 今日みたいに美味い飯を御馳走するからな!」

「おおおっ! それは良い! さっきの汝の飯は美味かったからな! うむ! 汝は我が心の友である! その証として我が龍気を授けようではないか!」

 おいおい、心の友って大袈裟だな。
 まぁ、龍の友達がいるってのも面白いか。
 別に何か目立つわけでもないしね。
 それにしても【龍酒】の他に龍気までくれるなんて太っ腹だなぁ。
 ん? 龍気? 
 それって確かここにいる全員を気絶させた力だったんじゃ……や、やべぇ!

「ちょ、ちょっと待っ……!」

「ぬぅううん!」

 間一髪間に合わず、フォルニゲシュの気合と共に放たれた眩い光が俺を包み込んだ。
 う、浮かれすぎていた……
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