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第二章

討伐隊と超魔物⑧

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 刃を当てただけで首が落ちるなんて、めちゃくちゃ切れる剣じゃないか!
 なんて危ないものを持たせるんだよ!
 だけど、当のフォルニゲシュは俺の怒りや焦りを気にした様子もなく転がったズーの首を拾い上げて、じっと見つめていた。

「まぁ、こんなものか。やはり我には物足りんな」

 なんか微妙に不満そうな顔してる。
 ……もういい。
 ツッコんだところで、また絶対的強者の発言を聞かされるだけだろう。
 今は料理に集中しよう。
 でも、困ったなぁ。
 次は身体の方を逆さ吊りにして血を抜かないといけないんだけど、どうするか。

「リョウ。手が止まっているようだが、どうかしたのか?」

「血抜きをしたいんだ。腐敗を防ぐために早く抜きたいんだけど」

「ほう、そういうものなのか? 我は料理などせんから詳しくはわからぬが、とにかく血を全て抜けばよいのだな?」

「ああ、そう……いっ!?」

 フォルニゲシュが何かの魔法を唱えたのか、首のないズーの身体から大量の血液が宙に向かって流れ出始めた。
 これは血抜きっていうか、ほとんどホラー映像だよ!

「羽もいらんのだろう? ついでに取っておいてやろう」

「あ、ありがとう……」

 フォルニゲシュが器用に太い爬虫類のような指を鳴らすと、小さな竜巻が起こって一瞬でズーの羽を全て奪い去っていった。
 魔法はチートだって改めて思い知らされるな。
 さて、残ったのはよく見る鳥の肉だ。
 大きさは全く違うけど、これなら前に習った解体技術で何とかなりそうだ。
 内臓を取り出して、部位ごとに切り分けていく。
 【裁断者の右腕】は本当にはよく切れる剣で、おかげで解体もあっという間に終わったよ。
 解体が終われば、超魔物もただの美味そうな肉、あとはこれをどうやって食べるかだけど……

「焼鳥が食べたい」

 美味そうな鶏肉を見ると、どうしても焼鳥が頭をよぎっちゃうんだよなぁ。
 串に刺すのは面倒だから、タレで焼くだけにしてみるか。
 先ずは火を起こさないとな。

「この辺で火を起こしてもいい?」

「うむ。ならば、我が地獄の炎を……」

「普通の火でお願いします」

 シュンと拗ねたようなフォルニゲシュに火をつけてもらって、前に使った竈の石を【収納】から取り出して設置すれば準備完了だ。

「もも肉を適当な大きさに切って、皮面の方にフォークで穴を開けて、塩と胡椒ピッパリ、それと小麦粉をまぶしてフライパンで皮面から焼いていく」

 この時焼きムラがないように少し押さえながら焼くのがコツだな。
 皮がパリパリに焼けてきたら、今度は裏返しにして蓋をして蒸し焼きにする。
 火の入りは【鑑定】で確認してるから最高の焼き加減を見逃さないで済むのが楽でいいね。
 さて、いい感じに火が入ったら一旦火から離して、フライパンに出た余分な脂を捨てて、醤油代わりの黒墨樹の実こくぼくじゅのみと蜂蜜を満遍なくかけながら焼いていく。
 ああ、この香りが堪らない!
 惜しむらくは日本酒がない事だよなぁ。
 旨みとコクを与えつつ、臭みを消す役割のある日本酒は和食には欠かせないものなんだけど、この国ではライスを食べる習慣すら珍しいくらいだ。
 米から作る酒なんかあるわけない。
 あとは醤油の代わりの黒墨樹の実みたいな代用品がある事を願うだけだ。

「むぅ、なんとも芳しき香り……これは食欲をかき立てられるな」

「フォルニゲシュの分もあるけど、一緒に食わないか?」

「それは僥倖。馳走になるぞ!」

 飯は一人で食うよりみんなで食う方が美味いからね。
 周りに倒れているみんなには悪いけど、フォルニゲシュがいる限りは起きないみたいだし、疲れてるだろうから寝かせておこう。
 【鑑定】で見る限り、状態が悪い人はいないしね。
 では、焼き上がった肉を皿に持って完成だ!

「ズーのはちみつ醤油照り焼きの完成だ!」

「ほお! これは見るからに素晴らしい! なんとも美味そうではないか! では、いただくぞ! ……美味い! なんという美味さだ! 甘くコクのある味とズーの肉が調和し、えも言われぬ美味さとなっている! これは美味い! 美味いぞ! お代わりだ!」

「は? いや、食うの早すぎだって! そんなに美味かったか? ……しょうがないな。俺のを先に食ってろよ。新しく作るから」

 俺が手をつけていない自分の皿を差し出すと、フォルニゲシュは一心不乱に肉に齧り付いていた。
 幸せそうな顔しやがって……だったら腹いっぱい食わせてやるよ!

「ほい! 次のが焼けたぞ! これはあえて塩だけで焼いてレモンを搾ってみた」

「おおおっ! これはさっきのと違って素材の味が最大限に生きておる! しかも、レモンでさっぱり食える分、しつこさがない! いくらでも食えそうだ!」

「次は醤油、砂糖にビネガーのチキン南蛮風だ! 自家製タルタルソースを付けて食べてみてくれ!」

「ぬはっ! なんとこれは酸味か! ただ酸っぱいだけでなく甘さもあり、この白いもっさりした濃いソースが合う! なんなのだ! この美味さは!」

 結局、フォルニゲシュは3㎏くらいズーの肉を食べてから、満足そうに大地にゴロンと横になった。
 
「ふぅ、満足だ。リョウ、我は食事でこれ程の満足感を覚えた事はないぞ」

「それは良かったな。おかげで俺はまだ食ってないけどな」

「グハハハッ! 許せ許せ。汝の料理が美味すぎたのだ。拗ねるな。詫びとして龍酒を汝にやろう」

「龍酒?」

 フォルニゲシュが何処からか取り出したのは、徳利のような陶器の入れ物だった。
 コルクのような栓を抜くと、ふくよかで懐かしい香りが漂ってきた。
 こ、この香りは……まさかっ!?

「の、飲んでいいか!?」

「お、おおお……構わぬぞ」

 俺は徳利から透明な液体をしっかりと味わうように口の中に滑らせた。
 コクのある旨味が口の中でゆっくりと広がっていく。
 ついに……ついに見つけたぞ!
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