今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

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第二章

討伐隊と超魔物⑤

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 俺の上にゼルマがのしかかってる状態だから相手の姿は見えないけど、すぐそばにいるのはわかる。
 ズシっとのしかかってくる強力な圧力プレッシャーに冷汗が止まらない。
 【ズー】を前にしてもこんな圧力は感じなかったのに、一体がそこにいるって言うんだ?

「まぁ【ズー】如きがどうなろうと我の知った事ではない。さて、我が妻となるべき者はおるかな?」

 妻? 妻って何を言っているんだ?

「おおおっ、そこにおる巨人族の娘はなかなかに美しいではないかっ!? 我が妻に相応しい! よかろう、我の158番目の妻として迎えいれてもよいぞ!」

 巨人族の娘って、ゼルマの事か!?
 それに158番目の妻って、どういう事だよ!
 この圧力といい、今の話といい、こいつがまともな奴じゃない事は間違いない!
 もし、連れて行かれたらゼルマがどんな目に遭わされるかわからないぞ!

「誰だっ!?」

 俺はゼルマの身体の下から這い出て、声の主の前に出た。
 そこにいたのは見た事もない魔物だった。
 全身は鈍く光る黒い鱗に覆われ、背中には真紅の翼、そして顔はまるでドラゴンのようだった。

「なんと? 下等生物如きが我の龍気に耐えうるか? 懐疑なり」

 ドラゴンの口から人語が発せられる。
 そんな事があり得るのか?
 リザードマンなどの亜人ならともかく、魔物が人語を話すなんて聞いた事もないぞ!

「汝に問う。汝は何者ぞ?」

「お、お前こそ何者だっ!?」

「質問に質問で返すとは無粋な。だが、先に名乗らぬのも些か非礼であった」

 な、なんだ?
 妙に紳士的というか、知性を感じるぞ?
 こいつは本当に魔物なのか?

「改めて名乗ろう。我が名はフォルニゲシュ。黒龍にして千の龍の王である」

 せ、千の龍の王っ!?
 こいつ、龍種ドラゴンかっ!?
 や、やばい! 
 龍種ドラゴンと言えば、街を火の海にしたり、城を襲って姫を攫ったりする奴で、勇者とかが退治する奴だろ!?
 そんな奴とただの人間の俺が戦って勝てるわけがない!
 
「おい、我は名乗ったぞ。次は汝の番だ」

「くっ……お、俺はリョウ。た、ただの人間種だ」

 ど、どうすればいい?
 どうすれば皆んなを助けられる?
 相手が龍種なら逃げる事もできない。
 逃げたとしても囮にすらなれない。
 いや、その前に皆んなを起こさないとどうにもならない。

「人間種? それは妙だ。我が龍気はただの人間種如きに耐えられるものではない。現に他の者達はこのように昏倒しているではないか。お前がただの人間種ではない何よりの証拠だ」
 
「そ、そんな事言われても知らない! 俺はただの人間種だ! それ以上でも以下でもない!」

「むぅ。嘘を言っているようにも見えぬ。これがどういう事だ? ならば、汝の器を改めさせてもらおう」

「う、器を改める?」

「安心せよ。危害は加えぬ。汝に興味が湧いただけだ」

 そう言うと、俺の前まで歩み寄ってきたフォルニゲシュはゆっくり片腕を上げて、俺の頭に手を置いた。
 圧倒的強者の気配が手から伝わってくる。
 でも、少し気になる事がある。
 俺は今の状況に明らかに生命の危機を感じている筈だ。
 なのに、何故かあの【自己防衛】が発動しない。
 あれは俺が危機だと感じた時に勝手に発動するはずの能力だった筈なのに。
 なんて、今回に限って発動しないんだよ!

「ふむ。確かに人間種であるな。しかし、合点がいかんな。悪いが、もう少し探るぞ」

 考えことをしながら俺の頭に手を置き続けるフォルニゲシュ。
 もしかして、こいつ俺の記憶を覗いているのか?
 今更覗かれて困る記憶はないけど、異世界から来たってのはマズいかも」

「これは……異世界か? なるほど。汝は異世界人だったのか? しかし、それだけで龍気に耐えられるとは思えんのだが……むっ! こ、これはっ!? これは神力っ!?」

 急に慌てて飛び退いたフォルニゲシュが信じられないような者を見る目で俺を凝視した。
 ドラゴンの顔なのに、そういう表情って伝わるものなんだな。

「神力を秘めたる人間種……な、汝は神の使いか? まさか、我を誅するため神より使われた刺客かっ!?」

「な、何を言ってるんだ? 俺は神の使いなんかじゃないぞ!」

 ただ、神様の知り合いはいるけど。
 それとこれとは話が別のはずだ。

「ほ、本当か? 本当だな? 我はまだ悪事をしておらんのに誅される覚えはないからな! 嘘であったら許さぬぞ!」

 さっきまでの威厳はどこに行ったのか、フォルニゲシュは明らかに俺にビクついている。
 なんなんだ、こいつは?

「俺は本当に神の使いじゃないよ。信じてくれていい。ただ……」

「ただ? ただ、なんだ?」

「呼んだら今すぐ来てくれる……かも」

「だ、誰が……?」

「神様」

 その瞬間、フォルニゲシュの黒い鱗が真っ青になったように見えた。
 こいつ、なんか面白く思えてきたな。

「な、汝……何が望みだ? 我に出来ることなら考えないでもないぞ?」

 めっちゃ下手に出てきた!
 こいつ、本当に千の龍の王か?
 プライドはないのかっ!?
 でも、その申し出は有り難い。

「ここにいる全員の無事を保証してくれるだけでいい」

「なに? そんな事でいいのか? 元より何もする気はなかったのだが」

「さっき妻とか言ってただろ?」

「おおおっ! そこの巨人族の娘か? いや、その者はなかなかに美しかったのでな! 求婚プロポーズを受けてもらえれば妻にするつもりであったぞ!」

「求婚? えっ? 無理やり連れ去る気じゃなかったのか?」

「何を言うかっ!? 痴れ者め! 力づくで手に入れた妻に何の意味があるか! そのような非道は雄としての矜持なき惰弱のする事よ! 我は誇り高い黒龍フォルニゲシュ! 正々堂々と口説き落としてみせるわ!」

 正論っ!? ド直球の正論だっ!
 今の発言だけで良い人かもと思ってしまった!
 あっ……良い龍種ドラゴンか。
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