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第二章
討伐隊と超魔物②
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空から飛んで来る黒い塊は近づいくにつれて、その形を露わにしていった。
左右対称に広がる空を覆うように大きな翼。
鷲の身体に付いた獅子の顔は鬣を振り乱し、荒れ狂ったような表情をしていた。
【鑑定】を使うまでもない!
こいつが【ズー】だ!
「総員戦闘配置! 迎え撃つぞ!」
マルコの大声が大草原に響き渡り、討伐隊のメンバーが慌ただしく散らばっていく。
「くそっ! 遅かったかっ! リョウ! お前はゼルマと一緒にゆっくり後退しろ! 背は向けるなよ! 獣は背を向けて逃げるモノを追いかける習性があるからな!」
それだけ言い残すと、ジョルダンは近づいて来る【ズー】に向かって走り出し、威風堂々と三叉矛を構えた。
じょ、冗談じゃない!
あんなのと真っ向から戦う気かっ!?
「無茶だ! ジョルダン!」
「お兄ちゃん! あいつがジョルダンに意識が向いたら後退するで! 今、動いたらこっちに向かってくるかもしれんからな!」
思わずジョルダンの元に走り出しそうになった俺をゼルマが引き止めた。
まさか、ゼルマが疎ましく思う日が来るとは思わなかった。
「いくらジョルダンでも、あんな化け物に1人で立ち向かうなんて無茶だ! 俺も……」
「リョウさんが行っても状況は変わりません! むしろ庇って戦う分、ジョルダンさんの負担になります!」
「でもっ!? うっ……」
歯に衣を着せない痛烈な言葉に振り向くと、そこには毛を逆立て、鋭い眼光と牙を剥き出しにした狼の獣人がいた。
こ、これが戦闘状態のミューさんなのか。
「ゼルちゃんの言うとおり、戦闘が始まってから後退を始めてください! 臭いで追撃されないように注意を!」
今度はミューさんが吐き捨てるようにそう言ってから、小剣を片手に前方に走り出して行った。
その間に【ズー】はジョルダンのすぐそばまで迫っていた。
思ったよりもデカい!
獅子の頭に鷲の身体って言ってたけど、大きさは明らかに象くらいあるぞ!
「かかって来い!」
ジョルダンの雄叫びに呼応するかのように、【ズー】もけたたましい声をあげて、ジョルダンに向かって急降下し、足を突き出して鉤爪を立てた。
「うぉおおおおおおおおおっ!」
【ズー】の鉤爪をジョルダンは裂帛の気合いと三叉矛で受け止めた。
ガキィンという金属音のような甲高い音が鳴り響く。
あの鉤爪は鉄と同じくらいの硬度があるのかよ!
あんなの刺さったら洒落にならんぞ!
それを真っ向から受け止めるジョルダンも凄すぎるって!
「撃て!」
動きが止まるのを見計らったように【ズー】に目掛けて放たれた矢と攻撃魔法が、絨毯爆撃のように奴の背中に一斉に降り注いだ。
唸り声を上げた【ズー】の怨みがましい眼光がウルド達【審判の矢】に向けられる。
あれだけ攻撃を喰らって効いていないのか?
「今だ!」
【ズー】の意識が遠くに向いた隙に、今度はいつの間にか接敵していたマルコ達【千里眼】が奴の翼に何かの液体を振りかけていった。
ただ、毒じゃないようで痛くも痒くもないからか【ズー】は気にした様子もなく、目の前のジョルダンに向かって、再び鉤爪を振り下ろそうとしていた。
「【火球】」
再び意識が離れた刹那だった。
【千里眼】の魔法使いが【火球】を【ズー】の翼に向かって放ったのだ。
翼に当たった【火球】は信じられない勢いで一気に燃え上がり、奴の体を炎が覆い尽くした!
さっきの液体は油かっ!?
凄い勢いで燃え盛ってるぞ!
流石の【ズー】も焦って上空に逃げようとするが、翼が燃えているせいか上手く飛び上がれず、火を消そうと大地に巨体を転がし始めた!
「いくぞ! 突撃じゃぁああああ!」
大地をのたうち回る【ズー】に、今度はラッセル達【猪突猛進】が突撃を敢行!
大地を荒れ狂う【ズー】にも恐れず、長剣や戦闘斧などの大型武器で【ズー】の肉体を切り裂いていった!
ジョルダンも自慢の三叉矛を思う存分、振り回して【ズー】に傷を負わせている。
つ、強い! あいつらめちゃくちゃ強いじゃないか!
これはいける! 【ズー】を倒せるぞ!
「お兄ちゃん! 今の内に後退するで!」
圧倒的に優位な状況に見惚れていた俺の身体を軽々と持ち上げ、ゼルマが一気に後退を始めた。
「お、おいっ! ゼルマ! もう逃げなくていいって! 見ろよ、これはもう勝ったも同然……えっ?」
余裕の声を聞いたゼルマが厳しい視線で俺を刺した。
その後、戦うみんなの方にゆっくり視線を向けると、ゼルマらしくなく小さく呟いた。
「あれでは勝たれへん」
ゼルマの顔は真剣そのもの。
それはミューさん同様、普段の可愛らしいゼルマのものではなかった。
「油で翼を燃やすのは悪くなかったけど、あれでは掛けた油が燃えるだけで、そこまでダメージは与えられへん。油が燃えたら火も消えてまうわ」
「で、でも、ジョルダン達が攻撃を……」
「残念やけど、鱗並みに硬い体毛に防がれて深傷にも致命傷にもなってないねん。見た目には派手に血が出とるけど、神経や筋繊維はほとんど無事や。闇雲に斬るんやなくて、確実に断ち切らなあかんねん」
「そ、そんな……」
絶望的な言葉に思わず疑いの目を向けたが、解体職人のゼルマの見立ては間違っていなかった。
大地を転がり、翼の火が消えると【ズー】の反撃が始まった。
ジョルダン達には手の出しようがない上空に舞い上がっては急降下攻撃をして、また空に舞い上がるを繰り返している。
怒れる攻撃は凄まじく、攻撃のたびに大地が抉られ、地形が変わっている。
だけど、ジョルダン達もやられっぱなしじゃない!
必死に攻撃を躱しつつ、反撃のチャンスを狙っているようだ!
「っ!? あかん! それは罠や! 散ってぇえええ!」
ゼルマの悲鳴のような雄叫びが大草原に響き渡ると同時に、耳を劈く轟音と眩く視線を奪う閃光が目の前に落ちた。
左右対称に広がる空を覆うように大きな翼。
鷲の身体に付いた獅子の顔は鬣を振り乱し、荒れ狂ったような表情をしていた。
【鑑定】を使うまでもない!
こいつが【ズー】だ!
「総員戦闘配置! 迎え撃つぞ!」
マルコの大声が大草原に響き渡り、討伐隊のメンバーが慌ただしく散らばっていく。
「くそっ! 遅かったかっ! リョウ! お前はゼルマと一緒にゆっくり後退しろ! 背は向けるなよ! 獣は背を向けて逃げるモノを追いかける習性があるからな!」
それだけ言い残すと、ジョルダンは近づいて来る【ズー】に向かって走り出し、威風堂々と三叉矛を構えた。
じょ、冗談じゃない!
あんなのと真っ向から戦う気かっ!?
「無茶だ! ジョルダン!」
「お兄ちゃん! あいつがジョルダンに意識が向いたら後退するで! 今、動いたらこっちに向かってくるかもしれんからな!」
思わずジョルダンの元に走り出しそうになった俺をゼルマが引き止めた。
まさか、ゼルマが疎ましく思う日が来るとは思わなかった。
「いくらジョルダンでも、あんな化け物に1人で立ち向かうなんて無茶だ! 俺も……」
「リョウさんが行っても状況は変わりません! むしろ庇って戦う分、ジョルダンさんの負担になります!」
「でもっ!? うっ……」
歯に衣を着せない痛烈な言葉に振り向くと、そこには毛を逆立て、鋭い眼光と牙を剥き出しにした狼の獣人がいた。
こ、これが戦闘状態のミューさんなのか。
「ゼルちゃんの言うとおり、戦闘が始まってから後退を始めてください! 臭いで追撃されないように注意を!」
今度はミューさんが吐き捨てるようにそう言ってから、小剣を片手に前方に走り出して行った。
その間に【ズー】はジョルダンのすぐそばまで迫っていた。
思ったよりもデカい!
獅子の頭に鷲の身体って言ってたけど、大きさは明らかに象くらいあるぞ!
「かかって来い!」
ジョルダンの雄叫びに呼応するかのように、【ズー】もけたたましい声をあげて、ジョルダンに向かって急降下し、足を突き出して鉤爪を立てた。
「うぉおおおおおおおおおっ!」
【ズー】の鉤爪をジョルダンは裂帛の気合いと三叉矛で受け止めた。
ガキィンという金属音のような甲高い音が鳴り響く。
あの鉤爪は鉄と同じくらいの硬度があるのかよ!
あんなの刺さったら洒落にならんぞ!
それを真っ向から受け止めるジョルダンも凄すぎるって!
「撃て!」
動きが止まるのを見計らったように【ズー】に目掛けて放たれた矢と攻撃魔法が、絨毯爆撃のように奴の背中に一斉に降り注いだ。
唸り声を上げた【ズー】の怨みがましい眼光がウルド達【審判の矢】に向けられる。
あれだけ攻撃を喰らって効いていないのか?
「今だ!」
【ズー】の意識が遠くに向いた隙に、今度はいつの間にか接敵していたマルコ達【千里眼】が奴の翼に何かの液体を振りかけていった。
ただ、毒じゃないようで痛くも痒くもないからか【ズー】は気にした様子もなく、目の前のジョルダンに向かって、再び鉤爪を振り下ろそうとしていた。
「【火球】」
再び意識が離れた刹那だった。
【千里眼】の魔法使いが【火球】を【ズー】の翼に向かって放ったのだ。
翼に当たった【火球】は信じられない勢いで一気に燃え上がり、奴の体を炎が覆い尽くした!
さっきの液体は油かっ!?
凄い勢いで燃え盛ってるぞ!
流石の【ズー】も焦って上空に逃げようとするが、翼が燃えているせいか上手く飛び上がれず、火を消そうと大地に巨体を転がし始めた!
「いくぞ! 突撃じゃぁああああ!」
大地をのたうち回る【ズー】に、今度はラッセル達【猪突猛進】が突撃を敢行!
大地を荒れ狂う【ズー】にも恐れず、長剣や戦闘斧などの大型武器で【ズー】の肉体を切り裂いていった!
ジョルダンも自慢の三叉矛を思う存分、振り回して【ズー】に傷を負わせている。
つ、強い! あいつらめちゃくちゃ強いじゃないか!
これはいける! 【ズー】を倒せるぞ!
「お兄ちゃん! 今の内に後退するで!」
圧倒的に優位な状況に見惚れていた俺の身体を軽々と持ち上げ、ゼルマが一気に後退を始めた。
「お、おいっ! ゼルマ! もう逃げなくていいって! 見ろよ、これはもう勝ったも同然……えっ?」
余裕の声を聞いたゼルマが厳しい視線で俺を刺した。
その後、戦うみんなの方にゆっくり視線を向けると、ゼルマらしくなく小さく呟いた。
「あれでは勝たれへん」
ゼルマの顔は真剣そのもの。
それはミューさん同様、普段の可愛らしいゼルマのものではなかった。
「油で翼を燃やすのは悪くなかったけど、あれでは掛けた油が燃えるだけで、そこまでダメージは与えられへん。油が燃えたら火も消えてまうわ」
「で、でも、ジョルダン達が攻撃を……」
「残念やけど、鱗並みに硬い体毛に防がれて深傷にも致命傷にもなってないねん。見た目には派手に血が出とるけど、神経や筋繊維はほとんど無事や。闇雲に斬るんやなくて、確実に断ち切らなあかんねん」
「そ、そんな……」
絶望的な言葉に思わず疑いの目を向けたが、解体職人のゼルマの見立ては間違っていなかった。
大地を転がり、翼の火が消えると【ズー】の反撃が始まった。
ジョルダン達には手の出しようがない上空に舞い上がっては急降下攻撃をして、また空に舞い上がるを繰り返している。
怒れる攻撃は凄まじく、攻撃のたびに大地が抉られ、地形が変わっている。
だけど、ジョルダン達もやられっぱなしじゃない!
必死に攻撃を躱しつつ、反撃のチャンスを狙っているようだ!
「っ!? あかん! それは罠や! 散ってぇえええ!」
ゼルマの悲鳴のような雄叫びが大草原に響き渡ると同時に、耳を劈く轟音と眩く視線を奪う閃光が目の前に落ちた。
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