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第二章
討伐隊と超魔物①
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4日目の朝を迎えた。
今日から【ズー】と遭遇する可能性が高い地域に入る事になる。
いつ遭遇してもいいように気合いを入れておかないとな。
討伐隊全員で焼いた肉と野菜屑の塩スープで朝食を済ませた後、俺達は出発した。
昨日の和やかな雰囲気とは一転して、みんなの雰囲気が強張っているのがわかる。
超魔物と戦って無事に帰れるかはわからないってのもあるけど、準備万端で戦うのと不意打ちされるのとでは全然違ってくるからな。
どちらが先に見つけるかで勝負が決まると言ってもいい。
だから、全員が目を皿のようにして周囲を警戒しているんだ。
そうやって注意しながら進むこと2時間、俺達はついにズーが目撃された大草原に到着した。
「リョウ。話がある」
急に俺の前を歩くジョルダンが振り返らずに声をかけてきた。
いつもより低く小さな声、どうやら真面目な話みたいだな。
「お前はもう帰れ」
「えっ!? な、なんだって?」
信じられない言葉に、俺は自分の耳を疑ったよ。
誇り高い戦士のジョルダンが、戦いを前にこんな事を言うとは思わなかった。
ついて来た以上戦わないといけないと思ったから護衛としてゼルマについて来てもらったのに。
「元々お前は食事係としてついてきてもらったんだ。だから戦う必要はない。このチームから戦うのは俺1人でいい」
「そ、そんなわけにいくかよ!? 他のチームの奴等は全員で戦うんだろ? それなのに俺達のチームからは1人だけって、そんなの他の奴等が納得するわけない!」
「お前がいても役に立たない」
うっ……グサっと来る言葉をサラッと言いやがって……た、確かに俺に戦闘スキルはないけどさ。
いくら安心安全な生活がしたい俺でも、ここまで来て仲間を置いて、自分だけ安全な場所に帰るなんて出来ないぞ!
「直接の戦闘は無理でも何かの役には立つかもしれないだろ?」
「何かとは何だ?」
振り向かず視線も合わせないジョルダンの冷たい言葉に、俺は何も言えなかった。
「自分が何をすべきかもわからない者は、必ず他の誰かの足を引っ張る。そんな奴には戦場にいて欲しくないんだ」
「そ、その場で状況を判断するくらい俺にも出来るさ! 俺だって狩りの経験はあるし……」
「勘違いするな。お前の身体機能や技術を否定しているのではない。戦闘と狩猟は別物だと言っているのだ。お前には戦闘の経験が足りなすぎる。経験が足りなければ状況判断が遅れる事はわかるだろ? そして、それが命を落とす事に繋がる事も」
うっ……ぐうの音も出ない程の正論だ。
ジョルダンの言うとおり、俺は血生臭い事にはなるべく関わらないように生きてきたから戦闘経験なんか全く無い。
鉄火場の素人が危ない存在なのはわかるけど……それでも……
「お兄ちゃん。やめとき」
再び口を開こうとした俺の肩に優しく手を置いたのはゼルマだった。
その顔はいつも元気いっぱいに笑うゼルマとはかけ離れた哀しい顔だった。
「お兄ちゃんの気持ちもわかるけど、今はジョルダンの言うことが正しいで。特級の解体依頼を新人に任せる事が出来へんのと一緒や。みんなダメになってまう事もあるんやで?」
「ゼルマ……」
普段のゼルマからは想像出来ないくらい大人びた話し方だった。
これじゃあ、いつもと立場が逆じゃないか。
「リョウさん。私もゼルちゃんと同じ意見です。旅の食事を支える事も重要な役割です。そして、リョウさんは私達だけでなく、他のチームの皆さんも万全の状態でここまで連れてこられました」
「ミューさん……俺は役目を果たした。役目が済んだんだから帰れ、と?」
「はい。標的は超魔物です。ここからは戦闘要員でないリョウさんは足手纏いにしかなりません。だから、ゼルちゃんと一緒に逃げてください」
えっ? ゼルマと一緒……ま、まさかっ!?
「私は残ります。結果を報告しないといけませんから」
「そんなっ! だって、相手は超魔物で……」
「ギルド職員としての職責を全うするだけですよ。大丈夫! 私は狼さんの獣人ですから、結構強いんですよ」
屈託のない笑顔でガッツポーズを見せるミューさんの身体が小さく震えているのを、俺は見逃さなかった。
怖くないはずがない。
それでも俺を心配させないようにと、気丈に振る舞っているんだ。
くそっ! 情けねぇ。
「リョウ。そんなに心配するな。俺は、俺達は負けない。だから、安心して先に帰っていろ。ただし、帰ったら祝勝会でたらふく料理を食わせてもらうからな」
やっとこっちを見たジョルダンが、明るい声でそう言った。
そんな申し訳なさそうな顔で笑うなよ。
何も言えないだろ。
「ゼルちゃん。リョウさんのこと、お願いね」
「任せとき! お兄ちゃんは絶対に守るかから! そんで命からがらの愛の逃避行をした2人はやがて結ばれるんやで! せやから……せやから、それが嫌やったらちゃんと帰ってこなあかんで! ミューちゃん!」
「ゼルちゃん……大丈夫。必ず奪い返しに行くから」
当事者を前に勝手な話をする二人。
普段ならツッコミの一つも入れるんだけど、今はとてもそんな気分になれない。
みんなの気持ちが痛いほどわかる。
ここは素直に従った方がいいのもしれない。
「わ、わかったよ。じゃあ……」
「前方から何か来るぞ!」
俺の声を【千里眼】のリーダー、マルコの大声が遮った。
伏せていた顔を上げると、黒い塊が大きくなりながら近づいて来るのが見えた。
今日から【ズー】と遭遇する可能性が高い地域に入る事になる。
いつ遭遇してもいいように気合いを入れておかないとな。
討伐隊全員で焼いた肉と野菜屑の塩スープで朝食を済ませた後、俺達は出発した。
昨日の和やかな雰囲気とは一転して、みんなの雰囲気が強張っているのがわかる。
超魔物と戦って無事に帰れるかはわからないってのもあるけど、準備万端で戦うのと不意打ちされるのとでは全然違ってくるからな。
どちらが先に見つけるかで勝負が決まると言ってもいい。
だから、全員が目を皿のようにして周囲を警戒しているんだ。
そうやって注意しながら進むこと2時間、俺達はついにズーが目撃された大草原に到着した。
「リョウ。話がある」
急に俺の前を歩くジョルダンが振り返らずに声をかけてきた。
いつもより低く小さな声、どうやら真面目な話みたいだな。
「お前はもう帰れ」
「えっ!? な、なんだって?」
信じられない言葉に、俺は自分の耳を疑ったよ。
誇り高い戦士のジョルダンが、戦いを前にこんな事を言うとは思わなかった。
ついて来た以上戦わないといけないと思ったから護衛としてゼルマについて来てもらったのに。
「元々お前は食事係としてついてきてもらったんだ。だから戦う必要はない。このチームから戦うのは俺1人でいい」
「そ、そんなわけにいくかよ!? 他のチームの奴等は全員で戦うんだろ? それなのに俺達のチームからは1人だけって、そんなの他の奴等が納得するわけない!」
「お前がいても役に立たない」
うっ……グサっと来る言葉をサラッと言いやがって……た、確かに俺に戦闘スキルはないけどさ。
いくら安心安全な生活がしたい俺でも、ここまで来て仲間を置いて、自分だけ安全な場所に帰るなんて出来ないぞ!
「直接の戦闘は無理でも何かの役には立つかもしれないだろ?」
「何かとは何だ?」
振り向かず視線も合わせないジョルダンの冷たい言葉に、俺は何も言えなかった。
「自分が何をすべきかもわからない者は、必ず他の誰かの足を引っ張る。そんな奴には戦場にいて欲しくないんだ」
「そ、その場で状況を判断するくらい俺にも出来るさ! 俺だって狩りの経験はあるし……」
「勘違いするな。お前の身体機能や技術を否定しているのではない。戦闘と狩猟は別物だと言っているのだ。お前には戦闘の経験が足りなすぎる。経験が足りなければ状況判断が遅れる事はわかるだろ? そして、それが命を落とす事に繋がる事も」
うっ……ぐうの音も出ない程の正論だ。
ジョルダンの言うとおり、俺は血生臭い事にはなるべく関わらないように生きてきたから戦闘経験なんか全く無い。
鉄火場の素人が危ない存在なのはわかるけど……それでも……
「お兄ちゃん。やめとき」
再び口を開こうとした俺の肩に優しく手を置いたのはゼルマだった。
その顔はいつも元気いっぱいに笑うゼルマとはかけ離れた哀しい顔だった。
「お兄ちゃんの気持ちもわかるけど、今はジョルダンの言うことが正しいで。特級の解体依頼を新人に任せる事が出来へんのと一緒や。みんなダメになってまう事もあるんやで?」
「ゼルマ……」
普段のゼルマからは想像出来ないくらい大人びた話し方だった。
これじゃあ、いつもと立場が逆じゃないか。
「リョウさん。私もゼルちゃんと同じ意見です。旅の食事を支える事も重要な役割です。そして、リョウさんは私達だけでなく、他のチームの皆さんも万全の状態でここまで連れてこられました」
「ミューさん……俺は役目を果たした。役目が済んだんだから帰れ、と?」
「はい。標的は超魔物です。ここからは戦闘要員でないリョウさんは足手纏いにしかなりません。だから、ゼルちゃんと一緒に逃げてください」
えっ? ゼルマと一緒……ま、まさかっ!?
「私は残ります。結果を報告しないといけませんから」
「そんなっ! だって、相手は超魔物で……」
「ギルド職員としての職責を全うするだけですよ。大丈夫! 私は狼さんの獣人ですから、結構強いんですよ」
屈託のない笑顔でガッツポーズを見せるミューさんの身体が小さく震えているのを、俺は見逃さなかった。
怖くないはずがない。
それでも俺を心配させないようにと、気丈に振る舞っているんだ。
くそっ! 情けねぇ。
「リョウ。そんなに心配するな。俺は、俺達は負けない。だから、安心して先に帰っていろ。ただし、帰ったら祝勝会でたらふく料理を食わせてもらうからな」
やっとこっちを見たジョルダンが、明るい声でそう言った。
そんな申し訳なさそうな顔で笑うなよ。
何も言えないだろ。
「ゼルちゃん。リョウさんのこと、お願いね」
「任せとき! お兄ちゃんは絶対に守るかから! そんで命からがらの愛の逃避行をした2人はやがて結ばれるんやで! せやから……せやから、それが嫌やったらちゃんと帰ってこなあかんで! ミューちゃん!」
「ゼルちゃん……大丈夫。必ず奪い返しに行くから」
当事者を前に勝手な話をする二人。
普段ならツッコミの一つも入れるんだけど、今はとてもそんな気分になれない。
みんなの気持ちが痛いほどわかる。
ここは素直に従った方がいいのもしれない。
「わ、わかったよ。じゃあ……」
「前方から何か来るぞ!」
俺の声を【千里眼】のリーダー、マルコの大声が遮った。
伏せていた顔を上げると、黒い塊が大きくなりながら近づいて来るのが見えた。
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