上 下
67 / 103
第二章

討伐隊⑨

しおりを挟む
 本日の野営地まで進んだ俺達は森林大鹿フォレストビックディアーの分配について話し合った。
 森林大鹿の素材は大きく分けて角、皮、肉、それに魔石の4つとなる。
 皮や肉はともかく、角と魔石は四等分にはできないので、各チームがどれをもらうか入札していく事になった。
 まぁ、簡単に言えばドラフト会議と同じだね。
 この中で最も価値が高いのは魔石だ。
 俺の【鑑定】によれば、このソフトボールくらいの魔石で金貨8枚だからね。
 次に高いのが角で金貨5枚。
 この森林大鹿の角は魔法の媒体となる杖に加工する事で、魔力を高める効果があって、煎じて飲むと魔力を回復する事も出来るため魔法使いに人気だ。
 次は皮で金貨4枚。
 軽くて丈夫な皮は、鞣すとかなり質の良い硬皮鎧ハードレザーアーマーが作れるので、中堅の冒険者なら絶対に欲しいだろう。
 1番価値が低いのが肉だ。
 1㎏当たり小銀貨5枚で、300㎏なら大金貨1枚と金貨5枚と一番高く思えるけど、普通に考えて300㎏の肉を全部運べるわけない。
 せいぜい30㎏持ち帰ったとして、金貨1枚に銀貨5枚だから、一番安くなってしまうわけだ。
 ウチは決まってるけど他のチームは何を選ぶかな?
 ちょいと聞き耳をたててみるか。
 ふむふむ、どうやらどのチームも魔石狙いのようだ。
 【千里眼】だけは競合を避けて、角にしようかと考えているみたいだけどね。
 さぁ、いよいよ素材ドラフトの始まりだ。

「では、第一入札。【千里眼】は角を希望します」

「【審判の矢】は魔石を希望する」

「チッ! 【猪突猛進】も魔石だ! ここは譲らないぜ!」

 他の面々の予想通りの希望が出揃ったところで、我らがジョルダンが胸を張って前に躍り出た。
 勇ましい姿にも見えるが口の端から溢れる涎のせいで食いしん坊にしか見えないのが残念だ。

「【未知数】は肉を希望する」

「に、肉かい? それは構わないけど、本当にいいの?」

 仕切り役のマルコが戸惑いながら確認してきたが、ジョルダンは一点の曇りも無い眼で大きく頷いた。
 ゼルマもミューさんも同様だ。
 結局、【千里眼】は角を、【未知数】は肉を手に入れた。
 魔石はコイントスにより【猪突猛進】の物となり、【審判の矢】が皮となった。
 揉め事にならずに済んで良かったよ。
 解体はゼルマを中心に、みんなでやる事で比較的短時間で済んだ。
 そして各チームに分配され、俺の目の前に300㎏の肉が持ってこられた。
 うん、想像していたけど300㎏の肉ってエグいわ。
 俺1人でこれを消費しようと思ったら何年かかるか想像もつかないよ。

「おい! リョウ!」

「大体言いたい事はわかるけど。なんだよ? ジョルダン」

 大量の肉を前に目を輝かせたジョルダンが、涎を撒き散らす勢いで話しかけてきた。
 
「明日には標的である【ズー】の目撃地域に到達するだろう。そうなれば凝った料理をしている暇はない。だから! 今日は思う存分、肉を食わせてくれ! 英気を養うのだ!」

「昨日までも養ってたと思うけどね。まぁ、言いたい事はわかるよ」

 いつ敵が襲ってくるかもわからないところで、のんびりご飯食べるわけにはいかないからなぁ。
 明日からは持ってきた保存食で済ます事になるだろう。
 そう考えると今夜が最後の晩餐って事になるのか。
 いや、その表現は縁起が悪いからやめておこう。
 それより英気を養うのもいいが、団結を高めておくのも大事じゃないかな?

「わかった。肉は大量にあるし、今日は満足するまで食べてくれ。ただ、一つ提案があるんだけど、他の3チームも一緒に食わないか?」

「なに? それは何故だ? 無用の干渉は避けるように出立前に決めておいたはずだろ?」

「無用ならね。だけど、明日は一緒に生死をかけた戦いに挑むんだ。どうせ英気を養うなら全員の方が良くないか? その方が討伐成功の可能性も高くなる。ジョルダンだって、腹が減って力の出ない奴らに足を引っ張られたくはないだろ?」

 この3日間一緒に行動していてわかったんだけど、俺達以外は食事に関してはあまり気を配っていなくて、いつも干肉や黒パンばかり食べていたんだ。
 たまに果物を食べてはいたけど、満たされてはいなかったようで、時々俺達のチームの食事を羨ましそうに見ていたのを俺は知っている。
 でも、さすがにあれだけで身体が保つとは思えない。
 空腹で全力が出せなくて困るのは一緒に戦う俺達だし、だったら最後くらい大盤振る舞いしても良いんじゃないかと思った。

「別に無理にとは言わないし、嫌なら断ってもらえばいいさ。どうだろう?」

「しかし……大丈夫なのか? かなりの人数だぞ?」

 確かに【千里眼】は男3、女2、【審判の矢】は男4、女1、【猪突猛進】は男4で構成されたチームだから、俺達を合わせると総勢18人となる。
 全チームが参加した場合、俺は1人で18人分の食事を作らないといけなくなるからジョルダンも渋ってるんだろう。
 だけど、人数が多くなるからと言って、誘ったり誘わなかったりしたら、それこそ問題になる。
 やるなら全チームだ。

「大丈夫だよ。俺に考えもあるから任せとけ!」

「わかった。なら、声をかけてくる。頼んだぞ」

 そう言ってジョルダンは他のチームの所へ向かった。
 さて、俺も準備するぞ!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

外れジョブ「レンガ職人」を授かって追放されたので、魔の森でスローライフを送ります 〜丈夫な外壁を作ったら勝手に動物が住み着いて困ってます〜

フーツラ
ファンタジー
15歳の誕生日に行われる洗礼の儀。神の祝福と共に人はジョブを授かる。王国随一の武門として知られるクライン侯爵家の長男として生まれた俺は周囲から期待されていた。【剣聖】や【勇者】のような最上位ジョブを授かるに違いない。そう思われていた。 しかし、俺が授かったジョブは【レンガ職人】という聞いたことないもないものだった。 「この恥晒しめ! 二度とクライン家を名乗るではない!!」 父親の逆鱗に触れ、俺は侯爵領を追放される。そして失意の中向かったのは、冒険者と開拓民が集まる辺境の街とその近くにある【魔の森】だった。 俺は【レンガ作成】と【レンガ固定】のスキルを駆使してクラフト中心のスローライフを魔の森で送ることになる。

処理中です...