今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

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第二章

討伐隊⑧

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 ゆっくり森を進み、森林大鹿フォレストビックディアーに気づかれないように近づく事に成功した俺達は、森林大鹿に一斉攻撃を仕掛けた。
 相手は森の主とも言えるくらいの大物だったけど、奇襲だった事もあって森林大鹿は大した抵抗も逃げる事も出来ずに倒れた。
 
「リョウ! お前のおかげで簡単に仕留める事が出来たぞ!」

「いや、俺は見つけただけで戦闘では何も出来なかったよ」

「何言ってんの! お兄ちゃんが早く正確に見つけてくれたから簡単に仕留めれたんやで! お兄ちゃんのお手柄や!」

 ジョルダンとゼルマは肉を大量に手に入れられた事もあってか、異様にテンションが高いな。
 まぁ、俺としても有難いけどね。

「失礼。ちょっといいかな?」

 喜んでいる俺達に声をかけてきたのは、【千里眼】の冒険者達だった。
 最初に情報を伝えた時は、露骨に疑っていた彼らが俺達に何の用だ?

「何だ? 素材の分配の話か?」

「いや、それは後で全チームで話し合う。俺達は彼に用があるんだ」

 そう言ってリーダーらしき男が俺に視線を向けてきた。
 俺に用事? 

「何だ?」

「先ずは謝罪を。最初に情報をくれた時に疑ってしまって本当に申し訳ない。まさか、俺達が情報収集で遅れをとるとは思っていなかったからな。すまなかった」

 【千里眼】のメンバー全員が一斉に頭を下げた。

「おいおい! 頭を上げてくれって! 別に気にしてないから」

「いや、俺達の不手際を補ってもらったんだ。頭を下げるくらい当然だよ。それにしても、本当にいい眼をしている。銅級と聞いたが絶対にもっと上にいけると思うぞ?」

「うむ。それについては俺も同感だ。森の中での動きや観察力、そして豊富な知識。リョウの能力は明らかに銅級ではないと俺も思っていた」

「私も思ってたで! お兄ちゃんはもっと認められるべきやで!」

 リーダーの男の言葉にジョルダンとゼルマが激しく同意している。
 悪いけど、それに関しては有難迷惑、大きなお世話だよ。
 俺は目立ちたくないんだから。

「それについては私も同意見です。リョウさん、そろそろ昇級試験受けてくれませんか?」

「えっ? もしかして昇級試験を受けれるのに受けていないのか?」

 リーダーの男が驚きの声を上げた。
 普通に考えれば無理もないか。
 冒険者ランクの昇級試験は冒険者ギルドが認めた冒険者しか受ける事が出来ないようになっている。
 評価の基準はギルドの極秘事項となっていて、どうすれば昇級試験を受けられるかはわからないけど、高ランクになれば、それだけ報酬の良い依頼を受けられるようになるから、みんな昇級試験を受けたがっているのだ。

「リョウさんにはかなり前から昇級試験を受けるようにお伝えしているんですけど、全然受けてくれないんです」

「おいおい、リョウ! どういう事なんだ? 俺はてっきりお前の実績不足かと思っていたんだぞ? だから、今回もお前の実績にもなると思って誘ったというのに」

 そんな思惑まであったのか?
 まるっきり自分のためだけに俺を誘ったわけでもなかったんだな。
 まぁ、その辺がジョルダンらしいといえばらしいけどね。
 だけど、昇級試験については御免被る。
 銀級以上にはアレがあるからな。

「どうだろう? 俺は君の眼をとても高く買っている。昇級試験を受けて銀級になったら、俺達のチームに入らないか?」

「えっ? 俺を?」

「ああ。今回は遅れをとったが、これでも俺達はこの国でも名の知れた金級冒険者チームだ。報酬は山分けにするし、君さえ良かったら歓迎するよ」

 まさか俺がスカウトされる日が来るとは思わなかった。
 金級冒険者チームに誘われるなんて、光栄なんだろうけど、のんびり生きたい俺には無用だ。
 せっかくだけど……

「抜け駆けはよくないぞ!」

 断ろうとした矢先に会話に入ってきたのは【審判の矢】のリーダーだった。
 焦ってるみたいだけど、どうしたんだ?

「ウルド。抜け駆けとはどういう意味だ?」

「そのまんまの意味だよ、マルコ! 何を話しているのかと思ったら、相変わらず抜け目のない奴だぜ!」

 へぇ、【千里眼】のリーダーがマルコで【審判の矢】のリーダーはウルドって言うのか。
 名前を知れたのはいいけど、なんで睨み合ってんだ?

「そいつは俺達も目をつけてたんだ! 俺達【審判の矢】より先に獲物を射止めようなんて甘いんだよ!」

「やはり君達もか。だけど、彼を譲る気はないよ。こんな逸材はそうそういないからね」

 へ? 何? 何の話をしてるんだ?

「なぁ、リョウって言ったっけ? お前、俺達【審判の矢】に入らないか? 銅級のままでも構わないぞ!」

「いやいや、君の力は【千里眼】にこそ相応しい! 戦闘が苦手でも問題ないし、ウチの方が合ってると思うよ?」

「い、いや……俺は……」

「おいおい! 勝手に話を進めるな! リョウは俺のチームに入ってるんだぞ? 引き抜きなど許さんぞ!」

「そうやで! 私のお兄ちゃんは絶対に渡さへんからな!」

「ゼルマちゃんの言葉は少し引っかかるけど、確かにリョウさんを引き抜かれるのは困ります。他の都市に移動されたら、ツヴァイ冒険者ギルドとしても困りますから」

 何故か急遽始まった俺の争奪戦は結局夕方まで続き、最終的にこの依頼を終えた後で話し合う事で決着がついた。
 それにしても、まさか俺が取り合いになるとは思わなかった。
 面倒事は御免だけど、ちょっと嬉しいと思ってしまった。
 実力を認められるなんて、日本にいた時には無かったから。
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