今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

KBT

文字の大きさ
上 下
59 / 103
第二章

討伐隊①

しおりを挟む
「頼む! 一生の頼みだ!」

 ギルドの商談室で俺は今、見るからに硬そうな頭を下げるジョルダンと、この世で最も信じられない言葉を前に頭を悩ませている。
 いくらジョルダンの頼みでも、これだけは聞く事ができない。
 それに一生のお願いってのが一回で終わる事なんかまず無い事だ。
 俺だって友達相手に何回分かの一生の頼みをした事がある。

「ジョルダン。いくら頭を下げられて頼まれても、これだけは……」

「無理は承知! だが、この依頼にはお前の力が必要不可欠なのだ!」

 頭を下げたまま懇願するジョルダン。
 頭が固いと言うか、意志が強いと言うか、簡単には引き下がらないとは思ったけど本当に引かない。
 でも、無理なものは無理なんだ!
 超魔物の討伐チームに参加してくれなんて、絶対に嫌だよ!

「お前の身の安全は俺の命に代えても保証する! だから頼む! この通りだ!」

「そうは言われても無理だよ。だいたい、何で俺なんかが必要なんだよ? 戦力にならないだろ?」

「それは……やむを得ん。ここは正直に腹を切って話そう」

 切るな、切るな。
 せめて割ってくれ……って思ったけど、切るのも割るのも同じことか?
 なんて、くだらない話は置いといて、とりあえずジョルダンから詳しい話を聞いた。
 依頼は超魔物【ズー討伐】
 超魔物とは普通の魔物より危険度が高い魔物で、存在が確認されたらすぐに討伐対象となる。
 そして、今回確認されたズーは獅子の頭を持った巨大な鷲の魔物で、天を裂く爪と大地を砕く声、そしてどんな鳥よりも早く飛べる翼を持つという恐ろしいやつらしい。
 昔、他国に現れた時には一都市が壊滅的な被害を受けて、都市の衛兵隊と冒険者達に多大なる犠牲を出して、ようやく撃退したって話だ。
 当然だけど、そんな相手は冒険者1人でどうにかなる相手じゃない。
 それで討伐隊が結成される事になり、金級冒険者のジョルダンも参加する事になったそうだ。
 うん、ここまではわかった。
 何の疑問もない。

「それで? 俺の必要性は?」

「と、討伐隊と言っても、ようは冒険者チームの集まりでしかない。依頼中の生活は個々のチームで行わなければならないんだが、俺はチームを組んでいないから、その……身の回りのことはともかく、飯がな」

 そこまで聞いて、やっとわかった。
 俺の必要性ってやつが。

「つまり、俺に食事係をしろ、と?」

「うっ……ちょ、超魔物討伐ともなれば、お前の経歴にも箔がつく! それに報酬はチームでの頭割りだから、俺と2人なら報酬もかなりの額になるぞ!」

 全然嬉しくないよ。
 俺には箔もかなりの額の報酬も必要ないんだ。
 俺はのんびりと安心安全な生活が出来ればそれでいい。

「悪いけど、俺には興味がない。誰か別の人を当たってくれ」

「それは無い。俺は信頼できる人物以外と仕事で組む事はない。そして、俺がこの街で信頼できるのはお前だけだ」

 ……はぁ、そんな眼で見るなよ。
 真っ直ぐで力強く、それでいて綺麗な眼には弱いんだ。
 応援したくなっちゃうだろ。
 でもなぁ、超魔物討伐なんてはっきり言って怖いんだよなぁ。
 なに? 天を裂く爪と大地を砕く声に、どんな鳥より早く飛べるんだって?
 戦うなんて無理だし、逃げても絶対すぐに追いつかれて、ギャっとやられて御陀仏じゃん。
 ジョルダンは守ってくれると言うけど、前線で戦う必要があるから、ずっと俺の側にいるわけじゃない。
 できれば関わりたくないんだけどなぁ。

「頼む! はっきり言って旅での食事とはかなり重要なものなんだ。ましてや強敵と戦う前提での旅、いつ戦闘になるかもわからんのだ! 実力が及ばす命を散らすなら本望だが、腹が減っていて力が出ずに敗れるなど俺は死んでも死にきれんのだ!」

 確かにそれは嫌な死に方だな。
 ほとんど餓死みたいなもんだし、誇り高いジョルダンには耐えられないんだろうな。
 しかし、困ったぞ。
 俺の身の安全を守ってくれる人がいるならともかく、それが無いとなると惰弱と言われようとも怖いものは怖い。
 それに問題はまだある。
 それは食糧だ。
 ジョルダンはよく食べるから、食糧はかなりの量になってしまう。
 量が増えればそれだけ運ぶのは大変だし、運ぶのに必死になって索敵が疎かになったら意味がない。
 俺が【収納】を使えば問題ないけど、それだと能力がバレてしまう。
 それは避けたい。
 旅をする冒険者にとって、この能力は絶対欲しいだろうからな。
 バレたら運搬係として一生こき使われる事になるだろう。
 【魔法鞄マジックバック】と偽っても同じだ。
 いくらでも容量が入る【魔法鞄】なんか喉から手が出る程欲しいものだろう。
 ただでさえ強敵と戦わないといけないのに、味方の中にまで敵が現れたら大変だ。
 俺の身の安全と食糧問題が解決しない事には、俺も簡単に首を縦に振るわけにはいかないぞ。

「食糧の運搬とかはどうするんだ? ジョルダンが食うとなると相当な量になると思うけど」

「それは道中に獣や魔物を狩ればいい」

「解体できるのか?」

「他は雑になるが、肉だけは取れるから問題ない」

 うーん、それは嫌だな。
 現代日本人の感性が生命をもらうのに雑な扱いをする事に抵抗を感じている。
 とは言っても、生きるのに過酷なこの世界の人達に、それを押し付ける気はないけどね。
 でも、俺としてはそこも解決したい問題だ。
 つまり、俺の身を守ってくれるくらい強くて解体が出来て、今回の依頼に興味を持ってくれそうな人が必要なわけか。
 でも、そんな人なんて……待てよ?
 ちょっと気が引けるけど、もしかしたら、あの子なら行けるかも!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

処理中です...