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第二章

ドワーフ娘①

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 腹が減った。
 世の中にはたくさんの苦しみがあると思うけど、空腹ってのはその中でも上位の苦しみだと俺は思う。
 空腹を味わう事になるなんて、この世界に来て初めての経験だ。
 できれば永遠に経験したくなかったよ。
 空腹は最大の調味料って言われる事もあるけど、俺は認めない。
 だって、空腹なんて味わわないに越した事はない事なんだから。

「はぁ……まさか、こんな事になるなんてなぁ」

 後悔先に立たず。
 俺は朝の俺自身を怨まずにはいられなかった。
 と言うのも、俺の家には色んな人が飯を食いに来るんだけど、最近は俺が嫌な顔をしないせいか、その回数は確実に以前より増えていた。
 俺もみんなと食事をするのが楽しくなってきたし、問題ないんだけど、困った事が一つだけある。
 それは食材や調味料などの減りが異常に早くなった事だ。
 誰かと一緒に食事をすれば当然使う食材は多くなる。
 回数が多くなれば、それに比例して食材の消費は早くなっていくんだ。
 別に金銭的に困る事はない。
 素材採取の仕事はしてるし、手土産を持ってきたり、金を払ってくるやつもいるからね。
 だけど、食材の数には常に注意しておかないと、あると思ったものがなくて作りたいものが作れない事があった。
 食べたい時に食べれないってのは辛い。
 だから、今日は誰も来る予定がなかったから、今ある食材を整理する事にしたんだ。
 俺が食材を保管しているのは【保存】の魔法がかかった箱と、いつでも出し入れ可能な【収納】の中だ。
 その二つの中から食材を取り出していくと、思っていた以上に食材が無かった。
 特に減っていたのは【収納】の方だ。
 台所から動かせない【保存】の箱よりも、すぐに取り出せる【収納】の方が使い勝手がいいからだろう。
 でも、流石に使い過ぎだ。
 食材の余りが入っている程度で、まとまった物がほとんど無かった。
 今日気づかなかったら、マジでヤバかったかもしれない。
 早急になんとかしないといけないと思った俺は大胆な行動に出た。
 【収納】に入っていた残り物を全部【保存】の方に入れて、【収納】を空にしたんだ。
 このまま残り物を死蔵するよりも、一度綺麗に無くして、改めて今日、大量に食材を買って【収納】の方に入れようと思った。
 そして、今後は食材を使いきりにして、半端な物は残さないようにしよう。
 その方が管理しやすいし、食材を無駄にしなくていい。
 そう思ったんだ。
 そして、その甘い考えが今の悲劇を生んだ。
 【収納】を空にした後、資金調達も兼ねてやって来た素材採取。
 採取目標は【幻誘采花げんゆうさいか】という強力な幻覚作用のある花だ。
 劇物に指定されている花で、取り扱いには細心の注意が必要なものだけど、一本で銀貨1枚という高級品だ。
 目立ちたくはないけど、今日は食材を大量購入する事もあって、ちょいと多めに収入を得ることにした。
 そして、その欲が俺の油断となった。
 花の採取中にふと今日は何を買って、何を食べるかを考えしまい、手元が狂って誤って【幻誘采花】の茎を折ってしまったのだ。
 折れた箇所から流れ出る液体は瞬時に揮発して、強い幻覚作用を発した。
 幸い、俺はカミさんが強化してくれた身体機能と抵抗力のおかげで大事には至らなかったけど、身体は軽く麻痺してしまい、集中出来ないせいか、魔法を使う事が出来ない状態になってしまったのだ。
 
「舐めすぎてたな」

 【収納】は空で食料は何もないけど、素材採取はさっさと終わらせて【跳躍】で帰れるから問題ない。
 そんな安易な考えのせいで、俺はこの世界に来て初めての空腹を味わう羽目になったわけだ。
 間抜けにも程がある。

「あぁ、腹が減ったな」

 思い出したら余計に腹が減ってきた。
 腹が減り過ぎて腹も立たない。
 怒る気力もない。
 いや、これは幻覚作用の影響かもしれない。
 思考がまとまらなくなってきたぞ。
 ん? 今なにか物音が聴こえたような……近くに何かいるのか?

「マズい。【鑑定】が使えないから索敵も出来ないぞ。このまま此処にいるのは危険かもしれないな。餓死はしなくても、魔物や獣に襲われたらそこで終わりだからな」

 そう考えた俺は痺れる身体を引きずるようにしながら、ゆっくりと街に向かって山の中を歩き始めた。
 いつもと比べて遅過ぎる。
 まるで自分の身体じゃないみたいだ。
 【鑑定】によると幻覚作用が解けるのに、あと1時間はかかる。
 普通の人なら3日間は昏倒する事を考えると早い方だけど、今の俺は長い。

「とにかく歩くしかない」

 俺は記憶を頼りに歩いた。
 確か、この辺りに大きな木があって、そこを右に曲ったから帰りは左に曲がればいい。
 そうしたら、小さな泉があって……

「うん? おめぇ、何やってんだ?」

 ぼやけた頭で必死に記憶を辿っていると、泉から声をかけられた。
 はて? ここの泉は喋るんだっけ?

「おーい、こっちこっち。そんなフラフラしながら歩いてたら危ねぇぞ」

 また泉から声をかけられる。
 なんていうか神秘的な感じが全くしない、どちらかと言えば雑把な声だ。

「おめぇ、頭がイっちゃってんのけ? しっかりせんか!」

 突如、泉の中から何かが這い上がってきた。
 魔物かと目を凝らすと、そこにいたのは……裸の女の子?
 幻覚もここまで来ると酷いな。
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