今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

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第二章

エルフとダークエルフ④

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 俺は体感いつもの3倍くらいの速さで家に帰った。
 最初に買ったのもそうだけど、後で貰ったのは久しぶりに食べる望郷の物だったからだ。
 問題は捌き方だけど、前に動画で見たのを思い出してやるしかない。
 
「はぁはぁはぁ……リョ、リョウちゃん、は、速すぎだよ。わ、私が置いていかれないようにするのがやっとなんて、信じられないよ」

「僕もビックリした。まさか【加速アクセル】の魔法でも追いつけないなんて。リョウ君って何者?」

 ただの日本人です。
 とは言えないが、至ってごく普通の人間だ。
 カミさんに多少の魔法や能力をもらってはいるけど、戦闘能力はないし、攻撃魔法も使えないからね。
 そんな事より下拵えだ。
 こいつらは美味い分、それだけ手間がかかるからな。
 美味いものを食うのに楽をしてはいけないのだよ。

「先ずはこっちからやるか」

 最初は大きなタライに水を張って【調整ちょうせい】で冷水に変えてから、最初に買った箱の中身を全部入れた。
 仮死状態にしないと調理しづらいからね。

「うわぁ、海老だ! ねぇねぇ、また海老の天ぷらにするの!? あれ美味しかったんだよねぇ!」

 台所にひょっこり顔を出して歓喜の声を上げたヴァイオレット。
 そういえば前にうどんと一緒に海老天も食べたっけ。
 もう一個の料理を考えるとそれも良いんだけど、今日はちょっと別の気分なんだよね。

「海老天も美味いけど、今日は違うよ。まぁ、美味いのには違いないけどね」

「海老天……僕は食べたことない。ズルいなぁ」

「シ、シエンナさん……そんな目で見ないでよ。また機会があったらご馳走するからさ。それにヴァイオレットも鶏団子は食べてないんだからね」

「鶏団子っ!? なにそれ!? なにそれ!? ズルいよ! 私に内緒で食べるなんて!」

 別に内緒にしていたわけじゃない。
 ただ、飯を食う機会があるかないかの違いだけだ。
 おっと、無駄口叩いてる場合じゃない。
 先ずは30匹の海老の殻と背わたを取っていかないとね。
 ほいほいほいほいっと!
 なんか前よりスムーズに出来るようになった気がするな?
 まぁ、そんだけ腹が減ってるという事だろう。
 それが終わったら今度は小麦粉と水と塩で汚れを徹底的に洗う!
 ぬぉおおおおおおおっ!

「す、すごい……海老から汚れがどんどん出てくる」

「うーん、海老ってけっこう汚れてるんだねぇ。たまにお店でも出るけど、あれってちゃんと洗ってるのかな? たまにジャリジャリしてる事あったんだよね」

 それはやってないだろうな。
 この手間をやるかやらないかで美味さが全然変わってくるからな!
 俺は絶対に手は抜かないぞ!
 汚れを浮かせては水で流すを繰り返し、最後は【鑑定かんてい】……よし!
 綺麗になった!
 こいつは一先ず置いといて、次の食材にかかるぞ!
 棚ぼたでも今日のメインと言っても過言ではない!
 こいつも一旦、全部を冷水に放り込んで仮死状態にしておこう。

「うっ……遂にシーサーペントの子どもが……」

「やっぱり食べるの? うーん、これはいくらリョウ君の料理でもなぁ」

 二人は馴染みがないのか隠そうとしている嫌な顔を滲ませている。
 見た目は蛇みたいだし、きっと食べた事ないだろうから仕方ないけどね。
 でも、食ったら変わるぜ?
 さて、まずは首根っこの中くらいまで切って生き締めにするんだったよな?
 そんで、目の下あたりに釘を打つ!
 中骨に沿って包丁を滑らせるようにして腹を裂いて尻尾までちゃんと引き落とす。
 背開きにして、内臓を取り出したら中骨に沿って切り込み筋を入れておく。
 最後に中骨を削ぎ取ったら、首を落とす。
 なんかめっちゃ上手にできたけど、何でだ?
 いつの間にこんなに包丁さばきが上手くなったんだろう?
 まぁいいか。
 どんどん捌いていこう!
 まだあと4匹いるからね。

「なんか手際よく捌いているけど、リョウちゃんって、シーサーペントの子どもを食べたことあるの?」

「こいつがシーサーペントの子どもかは知らないけど、似たようなのは食べた事あるよ」
 
「何かわからないのに食べるのは大丈夫? 毒とかあるかもしれないよ?」

 確かに浮かれていて、全く別の生き物って可能性を忘れていたな。
 一応、【鑑定】してみるか。

 ツヴァイ穴子
 ツヴァイ近海で獲れる細長い体型の海水魚。
 死ぬとすぐに鮮度が落ち、臭みが強く出るためツヴァイでも人気は低い魚だが、活きの良いものは身がふっくらとしていて非常に美味。

 やっぱり穴子やんけ!
 しかも、天然物の穴子なんかめっちゃ久しぶりだよ!
 おまけに【鑑定】が美味とまで言ってるんだから間違いない!
 よぉし、不安がなくなったから、どんどん捌いていくぞ!
 残り4匹もささっと捌いてしまったら、次は塩をふりかけて、臭みを落とすために洗っていく。
 塩で臭みをとったら、次は塩味が消えるように水で何回も洗う。
 それが終わったら皮の面を包丁でしごいて更にぬめりや汚れをとっていく。
 これをするとしないとでは、美味さが変わるらしい。
 うーん、美味いものってのは簡単には食えないね。
 さて、下拵えが終わったら次は本格的に料理にかかりますか!
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