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第一章
エルフと男の娘とカミさん⑥
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静かに時間が流れている。
重苦しくて、今にも逃げ出したい気分だ。
自分が傷つかないように、最初から他者を遠ざけるなんて卑しすぎる。
軽蔑されても仕方ない。
こんなんだから、俺は……
「あのさぁ……それって君は悪くないでしょ?」
「えっ?」
「いや、だって、どう考えたって裏切る方が悪いんだから。何で裏切られた方が罪悪感を感じなきゃいけないんだい?」
「そ、それは……でも、裏切られる方にも原因があるって……」
「ないよ」
はっきりとそう断定したカミさんは、まるで子どもを叱る親のようだったせいか、何かがスッと胸の中に落ちていった。
そうだ。
本当にそうだ。
俺は今まで何を考えていたんだ?
「裏切りを正当化するような、まともじゃない奴らが周りにいたんだろうね。そう言われて生活していく内に、元々優しい君は他者に嫌われるのは自分のせいだと思い込んでしまったわけだ」
言われてみれば『裏切られる方が悪い』とか『お前の努力が足りないから』とか、ずっと言われていた。
そして、いつのまにかそうなんだと思い込んでた。
でも、そんな馬鹿な話があるわけない!
あってたまるかっ!
「君は人が良い。それは間違いない。だけど、君には嫌われる勇気が足りないんだよ。誰にも嫌われたくないから、誰に対してもいい顔をしてしまってたんだよ。万人に好かれるなんて、神にすら不可能な事なのにね」
うっ……返す言葉もない……
カミさんの言うとおりだ。
この世界の人口は知らないけど、地球の人口は約80億人、日本でも約1億2000万人、俺の住んでいた東京ですら約1400万人が住んでいたんだ。
その全てに好かれるなんて無理に決まってるじゃないか!
当たり前だろ、俺は馬鹿かっ!
「誰に対してもいい顔をしようとするから、嫌悪感にばかり敏感になって、愛好の感情に鈍くなるんだよ」
「愛好の感情?」
「僕から他者の感情について言うことはないけど、少なくともツヴァイには君を嫌っている者は少ないと思うよ。特にあのエルフは相当だと思うけどね」
エルフ……ヴァイオレットのことか。
確かにあいつは俺の作った飯が好きだからなぁ。
よく食べに来るし、俺の飯愛好家って言われても納得できる。
「……君さ、人と恋愛関係になった事はあるかい? 繁殖行動とか」
「し、失敬なっ! ちゃんと付き合った事くらい……あ、あるよ! は、繁殖行動だって、ありますよ!」
う、嘘はついていない!
俺だって学生時代はまともだったんだ。
社会に出てから、人間不信になっただけで……経験は0ではない!
0.5かもしれないけど、0ではない!
「そ、そこまで力説しなくてもいいよ。しかし……あの子達も苦労するだろうなぁ。博愛神に頼んであげたくなるくらいだよ」
「博愛神? 恋愛の神様がいるんですか?」
「いるよ。でも、僕とはあんまり話してくれないんだ。いつも下を向いてしまって、モジモジしちゃって、目も合わせてくれないんだ」
それって脈アリなのでは?
やれやれ、カミさんも困ったもんだ。
相手がめっちゃわかりやすい反応見せてるのに無頓着なんて罪だよ、罪。
俺だったら絶対すぐに気づくのに、鈍いんだから、しょうがないなぁ。
「君に言われたくないよ。それより、これからどうするんだい?」
「どうするって、どういう意味ですか?」
「別に一人でいたいわけじゃないんだろ? 変な固定概念も消えたんだ。これからは僕のあげた能力を使って、街で快適な暮らしをする事だって出来るんだよ?」
そうか、そういう選択肢もあるのか。
ヴァイオレットやガンテス、ヨハン、ミューさん、リーディアさん。
ゼルマやオルテガ、ハウデル、シエンナさん。
気心の知れた人達と一緒に街で生活するのもいいかもしれない。
きっと、これからも変な輩が絡んできたり、嫌なこともたくさんあると思う。
それでもあの人達となら乗り越えていけるだろう。
でも……
「今のままでいいですよ。今の生活も結構気に入ってるんで。それに……」
「それに?」
「俺が街に住んでると、カミさんがウチに来にくくなるでしょうから」
カミさんは驚いた顔してから、呆れたような溜息を吐いてニッコリと笑った。
「そうだね。行くたびに街から人が消える事になるのは問題だしね。そうしてくれると僕も助かるよ」
そ、そこまで考えていたわけじゃないけど……良かった。
「じゃあ、これからよろしくね」
「よろしくお願いします」
差し出された手を俺は握った。
そういえば人と握手するなんていつぶりだろう。
カミさんの手は見た目以上に大きくて熱くて、なにか力が湧いてくるような不思議な感覚がした。
「さて、僕はこれで帰るよ。ついでだから、あの二人もそれぞれの家に送っておくね」
「えっ? いいんですか?」
「うん。それぐらいはさせてもらうよ。じゃあね」
カミさんは隣の部屋で寝ていた二人と共にあっさりと消えて帰って行った。
ポツンと残されたのは少し寂しいけど、仕方ない。
これも自分が選んだ道だからな。
「片づけて俺も寝よっと」
使った食器や調理器具を片付ける。
気分が晴れやかになったおかげか、いつもより早く片付けることが出来た。
やっぱり気の持ちようって大事だな。
なんか今日はぐっすり眠れそうだ。
俺はベットに入ると、すぐに深い眠りへとついた。
重苦しくて、今にも逃げ出したい気分だ。
自分が傷つかないように、最初から他者を遠ざけるなんて卑しすぎる。
軽蔑されても仕方ない。
こんなんだから、俺は……
「あのさぁ……それって君は悪くないでしょ?」
「えっ?」
「いや、だって、どう考えたって裏切る方が悪いんだから。何で裏切られた方が罪悪感を感じなきゃいけないんだい?」
「そ、それは……でも、裏切られる方にも原因があるって……」
「ないよ」
はっきりとそう断定したカミさんは、まるで子どもを叱る親のようだったせいか、何かがスッと胸の中に落ちていった。
そうだ。
本当にそうだ。
俺は今まで何を考えていたんだ?
「裏切りを正当化するような、まともじゃない奴らが周りにいたんだろうね。そう言われて生活していく内に、元々優しい君は他者に嫌われるのは自分のせいだと思い込んでしまったわけだ」
言われてみれば『裏切られる方が悪い』とか『お前の努力が足りないから』とか、ずっと言われていた。
そして、いつのまにかそうなんだと思い込んでた。
でも、そんな馬鹿な話があるわけない!
あってたまるかっ!
「君は人が良い。それは間違いない。だけど、君には嫌われる勇気が足りないんだよ。誰にも嫌われたくないから、誰に対してもいい顔をしてしまってたんだよ。万人に好かれるなんて、神にすら不可能な事なのにね」
うっ……返す言葉もない……
カミさんの言うとおりだ。
この世界の人口は知らないけど、地球の人口は約80億人、日本でも約1億2000万人、俺の住んでいた東京ですら約1400万人が住んでいたんだ。
その全てに好かれるなんて無理に決まってるじゃないか!
当たり前だろ、俺は馬鹿かっ!
「誰に対してもいい顔をしようとするから、嫌悪感にばかり敏感になって、愛好の感情に鈍くなるんだよ」
「愛好の感情?」
「僕から他者の感情について言うことはないけど、少なくともツヴァイには君を嫌っている者は少ないと思うよ。特にあのエルフは相当だと思うけどね」
エルフ……ヴァイオレットのことか。
確かにあいつは俺の作った飯が好きだからなぁ。
よく食べに来るし、俺の飯愛好家って言われても納得できる。
「……君さ、人と恋愛関係になった事はあるかい? 繁殖行動とか」
「し、失敬なっ! ちゃんと付き合った事くらい……あ、あるよ! は、繁殖行動だって、ありますよ!」
う、嘘はついていない!
俺だって学生時代はまともだったんだ。
社会に出てから、人間不信になっただけで……経験は0ではない!
0.5かもしれないけど、0ではない!
「そ、そこまで力説しなくてもいいよ。しかし……あの子達も苦労するだろうなぁ。博愛神に頼んであげたくなるくらいだよ」
「博愛神? 恋愛の神様がいるんですか?」
「いるよ。でも、僕とはあんまり話してくれないんだ。いつも下を向いてしまって、モジモジしちゃって、目も合わせてくれないんだ」
それって脈アリなのでは?
やれやれ、カミさんも困ったもんだ。
相手がめっちゃわかりやすい反応見せてるのに無頓着なんて罪だよ、罪。
俺だったら絶対すぐに気づくのに、鈍いんだから、しょうがないなぁ。
「君に言われたくないよ。それより、これからどうするんだい?」
「どうするって、どういう意味ですか?」
「別に一人でいたいわけじゃないんだろ? 変な固定概念も消えたんだ。これからは僕のあげた能力を使って、街で快適な暮らしをする事だって出来るんだよ?」
そうか、そういう選択肢もあるのか。
ヴァイオレットやガンテス、ヨハン、ミューさん、リーディアさん。
ゼルマやオルテガ、ハウデル、シエンナさん。
気心の知れた人達と一緒に街で生活するのもいいかもしれない。
きっと、これからも変な輩が絡んできたり、嫌なこともたくさんあると思う。
それでもあの人達となら乗り越えていけるだろう。
でも……
「今のままでいいですよ。今の生活も結構気に入ってるんで。それに……」
「それに?」
「俺が街に住んでると、カミさんがウチに来にくくなるでしょうから」
カミさんは驚いた顔してから、呆れたような溜息を吐いてニッコリと笑った。
「そうだね。行くたびに街から人が消える事になるのは問題だしね。そうしてくれると僕も助かるよ」
そ、そこまで考えていたわけじゃないけど……良かった。
「じゃあ、これからよろしくね」
「よろしくお願いします」
差し出された手を俺は握った。
そういえば人と握手するなんていつぶりだろう。
カミさんの手は見た目以上に大きくて熱くて、なにか力が湧いてくるような不思議な感覚がした。
「さて、僕はこれで帰るよ。ついでだから、あの二人もそれぞれの家に送っておくね」
「えっ? いいんですか?」
「うん。それぐらいはさせてもらうよ。じゃあね」
カミさんは隣の部屋で寝ていた二人と共にあっさりと消えて帰って行った。
ポツンと残されたのは少し寂しいけど、仕方ない。
これも自分が選んだ道だからな。
「片づけて俺も寝よっと」
使った食器や調理器具を片付ける。
気分が晴れやかになったおかげか、いつもより早く片付けることが出来た。
やっぱり気の持ちようって大事だな。
なんか今日はぐっすり眠れそうだ。
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