上 下
44 / 103
第一章

エルフと男の娘とカミさん④

しおりを挟む
 チーズインオムライスのビーフシチューがけ。
 オムライスにビーフシチューをかけただけなんだけど、オムライスもビーフシチューも無い異世界じゃ珍しいんだろうな。
 ヴァイオレットもカイも、カミさんでさえ驚いてくれて、ちょっと嬉しい。

「艶やかな黄色のオムライスに、趣深い褐色のビーフシチューのコントラスト……美しい! そして、この芳しく食欲をかき立てる香り! これは堪らないよ!」

「お、美味しそう……そういえば私、昼から何も食べてなかったんだ。それなのに、こんなの目の前に出されちゃったら、もう我慢できないよぉ!」

「み、見たことない料理なのに美味しいってわかる! こんなの絶対美味しいに違いない! だ、誰が食べるの!? この一皿!」

 いかん、3人とも目がヤバい……あれじゃあ、最初の一皿を取り合って戦いかねないぞ。
 間違いなくカミさんが勝つだろうけど、家の中で暴れられるのは御免だ。
 さっさと残りの3人分を作っちゃおっと。
 チーズ入りの薄焼き卵を焼いて、ケチャップライスに乗せてから、ビーフシチューをかけていく。
 俺のだけ少しお肉多めに……

「ちゃんと平等にしないと、本当に皿の奪い合いになるよ?」

 ギクっ!
 おのれ、カミさんめ。
 こんな時まで心の中を読みやがって……
 わかったよ、ちゃんと具も平等になるようにするよ!

「ほい。人数分のチーズインオムライスのビーフシチューがけだ。さぁ、運んで運んで」

 みんなが自分の皿を持って、テーブルに運んでいったけど、飲み物はどうしよう?
 流石に水ってのも味気ない。
 ビーフシチューに合うのは赤ワインだけど、さっきかなり使っちゃったから残りが少ないしなぁ。
 となると、【蒸留】で作ったアレを出すしかないか。
 本当は秘蔵しときたかったんだけど。

「あああっ! リョウちゃん! それって、もしかしてっ!?」

「そうだよ。ワインの蒸留酒、特製ブランデーだよ」

「ぃやったぁあああああ! リョウちゃん大好き! 私の大好きなお酒まで出してくれるなんて! 愛だよね? これはもう愛だよね!?」

 ブランデー愛?
 そこまで酒が好きなのか?
 ヴァイオレットの酒好きにも困ったもんだよ。

「お酒かぁ。僕も飲んでみようかな?」

「わ、私も! 見たことないお酒でちょっと怖いけど、エルフがこれだけ喜んでるんだもん! 絶対に美味しいはず!」

 そういや、長寿であるエルフは美食家が多いって言うからな。
 ヴァイオレットの喜びように恐怖心より好奇心が勝ったと見える。

「じゃあ、グラスにブランデーを注ぎ終わったところで、皆んなで食べよう。リョウ、いつもの号令を」

「号令ではないんだけど……まぁ、いいか。では、手を合わせて、いただきます」

「「いただきます!」」

「い、頂き……増す?」

 『いただきます』を知らなかったカイは戸惑っていたけど、カミさんとヴァイオレットがスプーンを忙しく口に運んでいるのを見て、負けじと食べ始めた。
 そして、三人の顔に満面の笑みが浮かび上がる。
 
「ああ、美味い! なんて美味しさだ! このチーズの濃厚な味が加わったトロッとした卵と、爽やかなと赤いライスが堪らない! そして、このビーフシチューがまた素晴らしいよ!」

「美味っ! お肉の美味しさと野菜の美味しさが一体となって、更に完璧に調和されているわ! こ、こんなの最高に美味に決まってるじゃないのぉ!」

「お、美味しい……美味しすぎる……さっきの揚げ鶏も美味しかったけど、もっと美味しい。特にこのアハト牛。口の中に入れると噛むまでもなく蕩けて、肉の旨みが全身に広がっていくよう……こ、こんなの私、虜になっちゃうよぉ!」

 す、すげぇ勢いで食べてくれるなぁ。
 美味いならいいんだけど。
 俺も食うか。
 ……うん、美味いっ!
 しっかり煮込まれたビーフシチューの濃厚な味わいが、チーズインオムライスと合っている。
 そして、このブランデーだ。
 赤ワインを使ったビーフシチューに、同じくワインから作られたブランデーが合わないわけが無い。
 この幸せの循環が止まらないぞ!
 と、思ってる間に三人もオムライスを平らげて、ブランデーを楽しみ始めたようだ。

「へぇ、このブランデーだっけ? 美味しいじゃないか。僕がこれまで飲んだお酒の中で一番美味しいよ」

 神様認定の世界一のお酒っ!?
 そんな大袈裟な……でも、嬉しいかも。

「……ぷっはぁああああっ! 美味しい! やっぱり、このブランデーは最高だよ! お料理も最高で、お酒も最高! もう私、ここに住んじゃおうかなぁ!」

 また酔った勢いでテキトーな事を言ってるよ。
 全く酒癖の悪い……ん!? 

「うぉい! ヴァイオレット! 何でお前がブランデーの酒瓶を持ってるんだよ!」

 いつの間にか俺の前に置いていた酒瓶をヴァイオレットが抱え込んで飲んでいた。
 一体どうやって盗ったんだよ!
 盗賊もビックリする技術だぞ!?
 こいつ、この前もこうやって独り占めして全部飲んだんだ!
 早く回収しないと……って、何だ?
 カイ? 何で俺の腕を抱きしめてるんだ?

「リョウさぁん? さっきはこぉんなお酒出してくれなかったじゃないのぉ~? こぉんなに美味しいお酒を隠していたなぁんてひどぉいじゃないですかぁ~? い・じ・わ・るですぅ。そんな人にはお仕置きですよぉ~」

「カ、カイ! お前はもう酔ってんのか!? おいっ! やめろ! 服を脱ぐな! 絡みついてくるな! かおに唇を寄せてくるんじゃなぁい!」

 カイのやつ、お酒に弱かったのか!
 しかも絡み酒とは厄介なっ!
 それに妙に色っぽくてヤバい!
 とにかく逃げないと……

「うぉらぁああ! この小娘! いや、男だから、えっと……とにかくリョウちゃんから離れろぉおお!」

「ば、ばかっ! ヴァイオレットまで突っ込んで来るんじゃねぇ! もがっ! か、顔に胸が……い、息が……」

「リョウちゃんは私のものぉおお! 絶対渡さないんだからぁああ!」

「リョウさぁん、私といっしょに新しい扉を開きましょぉおおお」

 ぐはっ!
 後ろから抱きつかれて、しかもなんて力だ……せ、背骨が折れる……ミシミシって音が聞こえる……

「あはははっ! リョウって、モテモテなんだね。うんうん、君が楽しそうで僕も嬉しいよ」

 なに笑ってんだよっ!
 こっちは死にかけ……あっ、意識が……
 俺の意識はそのまま深い闇の中へと堕ちていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

外れジョブ「レンガ職人」を授かって追放されたので、魔の森でスローライフを送ります 〜丈夫な外壁を作ったら勝手に動物が住み着いて困ってます〜

フーツラ
ファンタジー
15歳の誕生日に行われる洗礼の儀。神の祝福と共に人はジョブを授かる。王国随一の武門として知られるクライン侯爵家の長男として生まれた俺は周囲から期待されていた。【剣聖】や【勇者】のような最上位ジョブを授かるに違いない。そう思われていた。 しかし、俺が授かったジョブは【レンガ職人】という聞いたことないもないものだった。 「この恥晒しめ! 二度とクライン家を名乗るではない!!」 父親の逆鱗に触れ、俺は侯爵領を追放される。そして失意の中向かったのは、冒険者と開拓民が集まる辺境の街とその近くにある【魔の森】だった。 俺は【レンガ作成】と【レンガ固定】のスキルを駆使してクラフト中心のスローライフを魔の森で送ることになる。

処理中です...