35 / 103
第一章
元気な人間娘①
しおりを挟む
今日も今日とて素材採取。
今日の依頼はローハッツって豆の採取という、極めて平凡かつ地味なものだ。
本来はこんな1㎏で、小銀貨1枚なんて安い依頼は受けないんだけど、断りきれなくて受けてしまった。
ローハッツは酒場なんかでよく出る乾き物の定番で、採取自体もそこまで難しくないから、それこそ新人冒険者の仕事の定番でもあった。
ところが、最近の新人は採取依頼に全く興味がないらしく、ローハッツ採取の依頼は滞ったまま、長い間ギルドの掲示板に貼りっぱなしになっていたそうだ。
そして、ついに在庫が無くなってきた酒場の店主達が冒険者ギルドに猛烈に催促してきたそうだ。
ギルドも新人達に声をかけてはみたそうだが、受ける人が見つからない。
それで最終的に俺のところにお鉢が回ってきたというわけだ。
「まぁ、ローハッツは日本でいう落花生みたいなもんだし、俺も好きなんだけどね。ただ食べ過ぎちゃうから、自分ではあんまり受けたくなかったんだよなぁ」
それに報酬も安いし、俺も断ろうかと思ってたんだけど、ミューさんに
『お願いします! 頼れるのは、もうリョウさんだけなんですぅ!』
って、泣きつかれてしまい、断りきれなかったってわけだ。
今も泣きすがるミューさんの顔がありありと思い出される。
そして、周りの人達の白い目も……俺は何もしてないっての!
「はぁ……それにしても面倒だなぁ。最低20㎏で最高100㎏までだっけ? 20㎏で銀貨2枚だし、1日の稼ぎにはなるな。100㎏でも【収納】を使えば楽に運べるだろうけどやめとこう」
ローハッツは落花生と同じように、地中に実をつけるから、採取のためには掘り返す必要がある。
芋みたいに引っこ抜ければいいんだけど、実のなっている部分は千切れやすくて、無理に引っ張ると千切れて、実は地中に残ってしまう。
だから、採取するには土ごと掘り起こさないと駄目なんだけど、これを20㎏分やるのは、はっきり言って手間だ。
地面を掘り返す能力なんて無いし、手作業となると結構な重労働だ。
もし、定期的にこの依頼をする事になったら、カミさんに頼んで、簡単に掘り返せる能力でも貰わないといけないなぁ。
「はぁ……愚痴っても仕方ないか。目的地に着いたし……よしっ! やるか!」
ローハッツの群生地帯に到着した俺は、やる気を奮い立たせて、地面を掘り返し始めた。
硬いとも柔らかいとも言えない地面をローハッツの実ごと掘り返す。
なんて地味な作業だ。
富と名声を夢見る冒険者が誰もやりたがらないのもわからないでもない。
ほとんど農民と変わらない仕事だからな。
それにしても、ずっと屈んでいると腰が痛くなりそうだ。
もちろん、カミさんがくれた身体機能のおかげで、腰痛なんかにはならないけど、思わず腰を叩いてしまうのは、元アラフォーだったからだろう。
しかし、生きていく上で、肉体とイメージに差があるってのも良くない気がする。
この仕事が終わったら、一回自分の能力を再確認しておく必要があるな。
「よし、そうと決まればさっさと終わらせちゃおう」
「あれ? 君一人なの?」
腰を叩きながら作業を続けていると、不意に後ろから声をかけられた。
いかん、ローハッツ堀りに集中しすぎて気配に気づかなかった。
「ねぇ? 大丈夫?」
俺が答えなかったのを心配したのか、相手が覗き込むように俺の顔を見た。
茶色いショートボブで可愛らしい顔をした細身の人間種の女の子。
見た感じは冒険者だけど、こんなところに何の用だ?
この辺りにはローハッツしかないぞ。
もしかして、後から同じ依頼を受けた冒険者か?
「むぅ……ねぇ! 大丈夫って、聞いてるんだよ! 返事くらいしてよ! イジワル!」
「ぬおっ! あ、ああ……悪い。大丈夫ってのが、何に対するものかわからなくてな。とりあえず、大丈夫だと思う」
鼻が付きそうな程に顔を近づけてくるから、思わず顔を逸らしてしまった。
なんか前にも似たような事があったような気がする。
パーソナルスペースって知らないのか?
「こんなところに一人でいたら、心配するに決まってるでしょ!? 君は新人? いくらローハッツの採取でも一人は危ないよ。この辺りには魔物はいなくても、野生の動物はいるんだからね!」
知ってる。
でも、ちゃんと周期環境を確認してるから問題ないです。
「いい? 早く独り立ちしたいのはわかるけど、焦っちゃ駄目なの。最初はちゃんとチームを組んでやらないと、出来る依頼もできなくなっちゃうんだよ」
「チームは面倒だから嫌なんだ」
確かに、多種多様なメンバーが揃うチームなら受けられる依頼は増えるだろう。
だけど、良いことばかりじゃない。
報酬は分配となるから、個人の収入は減るし、連携だのコミュニケーションだのと気遣いが増える。
また、裏切りもあるかもしれない。
あんな思いは二度と御免だ。
あの絶望を味わうくらいなら、孤独だろうと1人の方がいい。
今日の依頼はローハッツって豆の採取という、極めて平凡かつ地味なものだ。
本来はこんな1㎏で、小銀貨1枚なんて安い依頼は受けないんだけど、断りきれなくて受けてしまった。
ローハッツは酒場なんかでよく出る乾き物の定番で、採取自体もそこまで難しくないから、それこそ新人冒険者の仕事の定番でもあった。
ところが、最近の新人は採取依頼に全く興味がないらしく、ローハッツ採取の依頼は滞ったまま、長い間ギルドの掲示板に貼りっぱなしになっていたそうだ。
そして、ついに在庫が無くなってきた酒場の店主達が冒険者ギルドに猛烈に催促してきたそうだ。
ギルドも新人達に声をかけてはみたそうだが、受ける人が見つからない。
それで最終的に俺のところにお鉢が回ってきたというわけだ。
「まぁ、ローハッツは日本でいう落花生みたいなもんだし、俺も好きなんだけどね。ただ食べ過ぎちゃうから、自分ではあんまり受けたくなかったんだよなぁ」
それに報酬も安いし、俺も断ろうかと思ってたんだけど、ミューさんに
『お願いします! 頼れるのは、もうリョウさんだけなんですぅ!』
って、泣きつかれてしまい、断りきれなかったってわけだ。
今も泣きすがるミューさんの顔がありありと思い出される。
そして、周りの人達の白い目も……俺は何もしてないっての!
「はぁ……それにしても面倒だなぁ。最低20㎏で最高100㎏までだっけ? 20㎏で銀貨2枚だし、1日の稼ぎにはなるな。100㎏でも【収納】を使えば楽に運べるだろうけどやめとこう」
ローハッツは落花生と同じように、地中に実をつけるから、採取のためには掘り返す必要がある。
芋みたいに引っこ抜ければいいんだけど、実のなっている部分は千切れやすくて、無理に引っ張ると千切れて、実は地中に残ってしまう。
だから、採取するには土ごと掘り起こさないと駄目なんだけど、これを20㎏分やるのは、はっきり言って手間だ。
地面を掘り返す能力なんて無いし、手作業となると結構な重労働だ。
もし、定期的にこの依頼をする事になったら、カミさんに頼んで、簡単に掘り返せる能力でも貰わないといけないなぁ。
「はぁ……愚痴っても仕方ないか。目的地に着いたし……よしっ! やるか!」
ローハッツの群生地帯に到着した俺は、やる気を奮い立たせて、地面を掘り返し始めた。
硬いとも柔らかいとも言えない地面をローハッツの実ごと掘り返す。
なんて地味な作業だ。
富と名声を夢見る冒険者が誰もやりたがらないのもわからないでもない。
ほとんど農民と変わらない仕事だからな。
それにしても、ずっと屈んでいると腰が痛くなりそうだ。
もちろん、カミさんがくれた身体機能のおかげで、腰痛なんかにはならないけど、思わず腰を叩いてしまうのは、元アラフォーだったからだろう。
しかし、生きていく上で、肉体とイメージに差があるってのも良くない気がする。
この仕事が終わったら、一回自分の能力を再確認しておく必要があるな。
「よし、そうと決まればさっさと終わらせちゃおう」
「あれ? 君一人なの?」
腰を叩きながら作業を続けていると、不意に後ろから声をかけられた。
いかん、ローハッツ堀りに集中しすぎて気配に気づかなかった。
「ねぇ? 大丈夫?」
俺が答えなかったのを心配したのか、相手が覗き込むように俺の顔を見た。
茶色いショートボブで可愛らしい顔をした細身の人間種の女の子。
見た感じは冒険者だけど、こんなところに何の用だ?
この辺りにはローハッツしかないぞ。
もしかして、後から同じ依頼を受けた冒険者か?
「むぅ……ねぇ! 大丈夫って、聞いてるんだよ! 返事くらいしてよ! イジワル!」
「ぬおっ! あ、ああ……悪い。大丈夫ってのが、何に対するものかわからなくてな。とりあえず、大丈夫だと思う」
鼻が付きそうな程に顔を近づけてくるから、思わず顔を逸らしてしまった。
なんか前にも似たような事があったような気がする。
パーソナルスペースって知らないのか?
「こんなところに一人でいたら、心配するに決まってるでしょ!? 君は新人? いくらローハッツの採取でも一人は危ないよ。この辺りには魔物はいなくても、野生の動物はいるんだからね!」
知ってる。
でも、ちゃんと周期環境を確認してるから問題ないです。
「いい? 早く独り立ちしたいのはわかるけど、焦っちゃ駄目なの。最初はちゃんとチームを組んでやらないと、出来る依頼もできなくなっちゃうんだよ」
「チームは面倒だから嫌なんだ」
確かに、多種多様なメンバーが揃うチームなら受けられる依頼は増えるだろう。
だけど、良いことばかりじゃない。
報酬は分配となるから、個人の収入は減るし、連携だのコミュニケーションだのと気遣いが増える。
また、裏切りもあるかもしれない。
あんな思いは二度と御免だ。
あの絶望を味わうくらいなら、孤独だろうと1人の方がいい。
8
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
幸子ばあさんの異世界ご飯
雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」
伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。
食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
外れジョブ「レンガ職人」を授かって追放されたので、魔の森でスローライフを送ります 〜丈夫な外壁を作ったら勝手に動物が住み着いて困ってます〜
フーツラ
ファンタジー
15歳の誕生日に行われる洗礼の儀。神の祝福と共に人はジョブを授かる。王国随一の武門として知られるクライン侯爵家の長男として生まれた俺は周囲から期待されていた。【剣聖】や【勇者】のような最上位ジョブを授かるに違いない。そう思われていた。
しかし、俺が授かったジョブは【レンガ職人】という聞いたことないもないものだった。
「この恥晒しめ! 二度とクライン家を名乗るではない!!」
父親の逆鱗に触れ、俺は侯爵領を追放される。そして失意の中向かったのは、冒険者と開拓民が集まる辺境の街とその近くにある【魔の森】だった。
俺は【レンガ作成】と【レンガ固定】のスキルを駆使してクラフト中心のスローライフを魔の森で送ることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる